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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
9章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る1

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勇者くん、銀糸を纏って金色炎を穿て

「あんだよ、お前たちの面倒を見てほしいなんて言われたが、十分に強ぇじゃねぇかよ。いいね、ああこれは良い……お前たち最高じゃねぇか!」



 オルタとタクト、クレインは本当によく戦っている。

 リョカに渡された道具があるとはいえ、それを最大限まで力を引き出し、それであの金色炎の勇者・ガイル=グレッグさんに膝までつかせた。



 本当に3人は凄い。

 リョカのためがほとんどだろうけれど、戦う理由の中に俺の存在を考慮してもくれている。



 クレインが最初にガイルさんへ拳を振るってくれた時、俺は本当に嬉しかった。



 けれど今の俺はどうだ、未だに輪郭すらはっきりとしないどっちつかずの聖剣。友を前に立たせ、つくれるかもわからない剣にただ縋っている。

 まだ俺の勇者としての信仰が足りていないのではないか。この場所に立つこと自体が早かったのではないか。

 そんなことを考えては、剣の輝きが失せていく。その度に俺は頭を振り、剣の形を、俺が貰っている勇者の形に想いを馳せて、何とか剣の形を保っている。



「聖剣発輝・壊炎解気! この程度で終わってくれんなよ! 俺の金色の爆炎はまだまだアツくなっていくぞ!」



 聖剣の輝きがさらに大きくなる。炎など出していないのにここまで熱気が届き、皮膚が焼かれるようだ。



 どうして、あんな聖剣が存在できるのだろうか? どれだけ勇者としての存在があればあれだけの聖剣を打てるのだろうか。



 天と地……勇者としての格があまりにも違い過ぎる。



 俺はやはり、何も――。



「セルネぇ!」



「――ッ!」



 クレインの声で、俺はハッとする。



「リョカ様が、リョカ様のためにって俺たちに言ってくれた。こんなに嬉しいことはないよね!」



「……そうだな」



「だからセルネも、今は勇者だからとかで戦わなくても良い!」



「え?」



「だってそうだろ、今はリョカ様のために戦えばいいんだ。俺は勇者じゃないから、セルネが何に悩んでいるかは正直わからない。けれど、俺はセルネが凄いってわかってるし、何よりも――」



 目の前にガイルさんがいるにもかかわらず、クレインが振り返って俺に笑顔を向けてくれた。



「勇者である前に、セルネ=ルーデルは俺たちの友だちだ。そんな顔して戦っているお前を放っておくわけないだろ」



「――」



 ああ、何をやっているんだ俺は。

 俺がなりたいのは、ガイル=グレッグさんではない。金色炎を纏う勇者じゃない。



「俺を前にしてよそ見とはいい度胸してんじゃねぇかクレイン! 別次元の火力、見せてやるよ!」



 金色に輝く聖剣を天に振り上げ、その煌めきもろともガイルさんが地へと叩きつけた。



「それはもう効かないでござるよ!」



 さっきオルタが生成した壁が再度ガイルさんを覆ったけれど、壁で視えなくなる直前、ガイルさんは嗤っていた。



「関係ねぇ! ぶっ潰す!」



 大地を揺るがすほどの衝撃が壁を壊し、その熱がガイルさんを襲っているのか彼の体が燃えた。

 けれど金色炎の勇者は顔色も変えず、叫び声も上げずにもう一度腕を振り上げた。



「マズ――」



 クレインの切羽詰まった声。ガイルさんが言った通り、別次元の爆発が俺の視界を覆った。

 その熱と衝撃に目を瞑ってしまった。



「うしっ! これで終わり……ってわけでもねぇか」



 ガイルさんの声が聞こえた。

 声が聞こえた? 俺は自分の耳に届いた声に首を傾げた。

 あれだけの爆発を受けて無事でいられるわけがなく、恐る恐る俺は目を開いた。



「うぁ、な……何で」



 目を開けた俺は絶句する。

 眼前にはオルタ、タクト、クレインがまるで俺を守るように並んで立ちふさがっており、彼らは爆発の衝撃で体中血塗れで、熱によってあちこちが焦げていた。



「見事だ、オルタ、タクト、クレイン。そういう青臭いの、たまにテッカが思い出してくれれば俺も楽できんだがよ」



 ガイルさんの軽口など、俺の耳には入ってきていなかった。

 どうしてそこまで――いや、そんなことわかりきっている。すでに意識はないのだろう、彼らは一切動かずに、立ったままの姿勢だった。



「上等な勇者の剣と盾だぜお前ら。いや、魔王の忠臣か? これはどっちでもいいか。さてお前ら、まだ戦いは終わっちゃいねぇ、俺は最後まで手を抜くつもりはねぇぞ」



 ガイルさんが舞台に向かって拳を振るった。

 その瞬間に俺たちは舞台の瓦礫共々浮き上がり、宙へと放り投げられた。



「オルタ、タクト、クレイン――」



 上空で彼らに手を伸ばす。

 けれどそれは届かず、それどころか地上ではガイルさんが巨大な金色炎の球体を生成して俺たちに向かって投げつけようとしていた。



 何故、何故! どうして俺の聖剣は未だ輝かない。

 こんな時に剣を握れなければ、俺は何も果たすことも出来ない。



 聖剣は俺の手から離れ、爆炎から逃げるように霧散していった。



 こんなことでは……。



 ここまで弱い自分に嫌気がさす。

 もう、なにも出来ないのだろうか。友が守ってくれたにもかかわらず、俺には剣を握る資格すらないのか。



 諦めかけた時、頭の中に聞こえてきた声は、クレインの声だった。

 さっき彼は「勇者だからで戦わなくても良い」と、なら俺は、一体何のために――。



 落ちていく際、俺の目には、その銀髪が映った。



 目が合ってしまう。

 あなたなら、こんなときどうするのだろうか。



 考えても及ばないのだろう。

 そんな時、その可憐な魔王様の口がゆっくり動いた。

 何を言っているのかは聞こえない。いや、そもそも声を出していないような気がする。大きく口を開けて、一文字一文字を丁寧に綴っている。

 そして彼女は口を閉じると、その可憐な笑顔を、俺に向けてくれた。



「や、く、そ、く――」



 ああ、そうだった。ちゃんと理由はあるじゃないか。



 まだまだ俺は、勇者としては半人前だ。こんな実力しか持ち合わせていないのに、勇者として戦うことすらおこがましかった。



 なら俺が持っているものは何だ? あるじゃないか。たった1つ交わした約束、俺自身が心に打ち付けた忘れてはならない誓い(しんこう)



 半人前の勇者が、世界の信仰を負うなんて重すぎる。

 ならば1人で良い。



 俺は俺と誓ってくれたそのたった1つを剣にすれば良い。



「楽しかったぜお前ら! だが、これで終いだ!」



 火球が俺たちに向かって迫る、迫る! だがそれがどうした! 牙を剥け、爪を立てろ。

 こんなところで俺が掲げた誓いは折らない。



「聖剣顕現・『銀姫と交わす約束(ヴァナルガンド)!』」



「なに――」



 足を動かせ、もっともっと速く。

 オルタ、タクト、クレインを背に乗せて(・・・・・)、駆ける、駆ける! 口に咥えた(・・・・・)金色の剣を離さないように、俺は火球を大回りで躱し、ガイルさんの側面を捉えた。



「なんだこいつは――」



「あぁあああっ!」



 後脚(・・)で大地を蹴り、()でしっかりと噛みしめた剣を金色炎へと放つ。



「シールドオブグローリー・カノンアダマント!」



 聖騎士の盾。知ったことか!

 俺はそのまま盾に剣を滑らせる。一度で壊れないのなら何度も、何度も!



 瓦礫などを使ってあちこちから高速で攻撃を繰り出し、口から血が流れるのも構わずに盾を攻撃し続ける。



「これは――」



 そしてついにその盾にひびが入った時、俺はありったけの力を込めて金色の剣を振った。



「うがっ!」



 盾を切り裂き、腹部に傷が入ったガイルさんが片膝をついた。



 そして俺は距離をとって、オルタ、タクト、クレインを離れた場所に下ろした。

 すると、クレインの目が少し開いたのが見えた。



「格好良いじゃん」



「ああ、みんなのおかげだ。今度は俺が守るよ」



 そうして俺は四本足(・・・)を大地に付けて、金色炎の勇者・ガイル=グレッグさんとやっと対峙するのだった。

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