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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
9章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る1

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魔王ちゃんと覚悟を見せる挑む者4

「あ? なんだそりゃ」



 オタクたち――オルタリヴァ=ヴァイスくん、タクト=ヤッファくん、クレイン=デルマくんが欠陥品を片手に、道具としては理想形とも言える聖剣を持つ勇者へと対峙する。



「2人とも、覚悟は良い?」



「はっ、ここまで舐められっぱなしで終わる方が癪ですぜい」



「そうでござるよ。ただ、タクトもクレインも、それを使ったら外傷は負わないけれど、中身(・・)がやられるとリョカ様が言っていたでござるよ。ここは拙者に任せても良いでござるよ」



「リョカ様の話を聞いてた?」



「そうだな。あっしたちは長くやればそれなりにヤバいが、お前は使った瞬間から死が近づくって言われていたですぜい」



「なぁ~に、拙者も後方で悠々と過ごしているのに飽き飽きしていたところでござる。死が迫るくらいがちょうどいいでござるよ」



 僕は砂時計を取り出した。するとそれを見ていたミーシャが首を傾げてこちらに目をやっており、僕は苦笑いを返す。



「止めさせる?」



「うんにゃ、あの子たちなら大丈夫。ガイルも丈夫だし、滅多なことにはならないと思うよ」



 オルタくんが手首に短剣を添え、タクトくんが横腹に注射器を近づけ、クレインくんが薬を宙へと放り投げる準備をした。



「この命尽き、命燃やし尽くすその時まで」



「死が我らを分かつまでの道のりを」



「我らリョカ様から授かったオタクセの名を胸に――」



 嗤う、笑う――今ここに、魔王の家来(・・・・・)が勇者を前にして、その身を燃やし尽くそうと武器をとる。



 友の問いに、共に歩んできた同士の言葉に、君は何と答えるのだろうか。



 目を閉じていたセルネくんの手に聖剣が現れた。

 けれどその剣は酷く曖昧で、輪郭すらぼやけている。そんな中途半端だけれど、確かに黄金色に輝いている剣を目を開けたセルネくんが舞台へと突き刺した。



「我らの誓いを果たすため、共に戦い続けよう!」



 叫ぶセルネくんから連鎖するように、オルタくん、タクトくん、クレインくんの戦闘圧が大きくなった。



 そんな彼らを、ガイルは心底楽しそうに見て大きく口を開いた。



「金色炎の勇者を前にして、魔王への称賛とはお前ら覚悟は出来てんだろうな?」



「当然でござる!」



「当然だ!」



「当然!」



 オタク3連星が同時に叫ぶと、オルタくんは短剣で手首を切り裂き、タクトくんは注射器を刺して中身を注入、クレインくんは宙へ放った薬を口に落とし入れ、そのまま噛み砕いた。



 僕は立ち上がると、さっき取り出した砂時計をガイルに投げる。



「おっと」



「ガイル=グレッグ! 3分――その砂時計が落ち切るまで、彼らは全力で戦える! 受け止めてあげて!」



「……それを超えるとどうなる?」



「ぶっ壊れる!」



 突然の僕の大声に、他の生徒たちが驚いていた。そして何より、アイテム使用の副作用に戦いていた。



 けれど金色炎の勇者・ガイル=グレッグはさらに愉快そうに嗤い、僕と戦った時のような強い戦闘圧としっかりと腰を据えた構えを取った。



 ガイルが戦闘姿勢に移行した瞬間、クレインくんが動き出した。



「二結――脚力強化!」



 飛び出したクレインくんに、ガイルは一切油断のない顔でそれを迎え撃つ。



 金色炎の勇者から放たれる鋭い攻撃、眼前に迫る聖剣の輝きを前にクレインくんが息を吸ったのが見えた。



「発破・天凱――感覚強化(・・・・)!」



「なに――」



 速さも重さもある鋭い突きをあの速度で躱すには相当な練度がいるだろう。

 けれどクレインくんは、まるでそれが見えている(・・・・・)かのようにスルりと躱し、合気のような受け流す動作でガイルの拳を逸らし、その勢いを使って体を回し、後ろ脚を勇者へと向けた。



「三華弩・脚力強化!」



「がっ!」



 蹴りの衝撃で後退したガイルがすぐに体勢を立て直し、クレインくんへと再度攻撃を繰り出そうとしたけれど、何かを感じ取ったのか勢いよく振り返る。



「あ、ガ……ぐがァ、あ――」



 ガイルの視線の先には、口からは涎を垂れ流し、言葉になっていないうめき声を上げるタクトくんがいた。



「あれは」



「ガァァァァァっ!」



 まるでケダモノのように後先を考えているとは思えない無謀な突進。

 両手には何の魔物かはわからない鋭い爪と、地を蹴ることだけを考えたような太い脚、体を低くして、人間とは思えないほどの低空姿勢でタクトくんが飛び出した。



「捨て身の戦略かよ! 無謀なことを人間するもんじゃ――」



「ウアガァァァ!」



 タクトくんが低空からまるで蛇のように立ち上がり、地を蹴った勢いのままガイルへその鋭い爪を放つ。



「当たらねぇよ!」



 爪を躱したガイルがタクトくんの体目掛けて聖剣を打ち、爆発を起こした。



 しかし爆発を間近に受けたタクトくんだったけれど、凄まじいまでの執念で聖剣を掴み離れず、そのままガイルの首筋へと噛り付いた。



「ぐぁっ! これは、まるで魔物――」



 ガイルがタクトくんの状態に気が付いたのか、一度僕に目を向けてきた。



 ガイルはすぐに戦いに意識を戻し、タクトくんを無理矢理引き剥がしたが、背後から近づいていたクレインくんにすぐに反応して振り返る。



「二結・感覚強化――っつ!」



 第2スキルでの感覚強化によって、頭が、脳が限界を迎えたのか、額から血が噴き出し、目が真っ赤に充血を始めていた。



 今、クレインくんの視界には、ガイルがスローモーションで視えているだろう。



 そんな彼が、ほんの一瞬、ワンフレームの隙を、本来なら見抜くことも出来ない微かなウィークポイントを逃すはずがない。



「三華弩・腕力強化!」



 振り返った際に体勢を戻したときに出来たほんの少しの筋肉の緩み、みぞおちへと強化された拳が撃ち抜かれた。



「うぐ、が……ってぇ」



 痛みに蹲ったガイルに、追撃を仕掛けようとタクトくんとクレインくんが腕を振りかぶった。



「鬱陶しいぞお前ら!」



 強く強く発光した聖剣が、全てを破壊しようとその猛威を振るおうとしていた。

 しかしそんな聖剣に、鈍く輝く赤を通り越した黒っぽい光が差し込んだ。



「させないでござるよ! 『極光の宝石巨人(アルバトスカイン)』」



 ただ短剣で切ったとは思えないほどの血を流しているオルタくん。

 けれどその血が流れ落ちる度に固まっていき、まるで宝石のように固まっていた。



 そしてズィベンイーズの第3スキルによって、その宝石を巨人――5メートルほどの宝石のゴーレムへと変えさせた。



 ゴーレムの肩に乗っているオルタくんが操作をして、その宝石の腕で地面を叩いた瞬間、ガイルの周囲に赤黒い壁が生成された。



 しかしガイルはそんな壁をものともせずに舞台へと聖剣を叩きつけた。

 赤黒い壁は割れ、爆発がタクトくんとクレインくんを襲うかに見えたけれど、周囲に放たれたのはその衝撃だけ(・・・・)で、金色炎の熱など一切感じられなかった。



「かかったでござるね。今拙者の()にはアウニオブガーネットが混ざっている(・・・・・・)でござるよ。高級品でござる、その熱い信仰(・・・・)をそっくり返すでござるよ!」



「なっ――あぁぁあっ!」



 攻撃したはずのガイルが突然叫び声をあげ、さらに皮膚のあちこちが爛れていた。



「……これ、は、熱反射、か」



「正解でござる。金色炎の勇者、当然炎対策はとっているでござるよ」



 膝をつき、肩で息をする金色炎の勇者の眼前に、その3人が立つ。



 けれど、オルタくんもタクトくんもクレインくんもすでにボロボロで、優勢な空気はあるのに、今にもオタクたちが倒れてしまうのではないかと胸が締め付けられるようだった。



「――カ、い……のか」



「リョカ」



「え?」



 ミーシャに肩を叩かれ、僕は振り返る。

 するとテッカが呆れたような顔をしており、アルマリア、それにルナちゃんとアヤメちゃんが何か言いたげにしていた。



「リョカ、今俺は聞いているのかと聞いたんだが、聞こえていたか?」



「あ、ご、ごめんね。3人の状態をちゃんと見てなきゃだったから」



「……だろうな、あれは異常だぞ。お前一体何をしたんだ?」



「えっと」



「おいリョカ、俺にもわかるように1人ずつ説明しなさいよ。金色炎に及ぶはずもねぇひよっこがどうしてあそこまで戦えるのよ」



「わたくしも興味があります。さっき言ったように血液変換と精神防壁はわかりました。けれどあそこまでのことは出来ないのではないですか?」



「うん、ルナちゃんが言ったようにオルタくんのあれは血液を宝石へと変換する短剣なんだけれど、剣に幾つかついている窪みがあるでしょ? あれに宝石を装着することでその宝石の力を血に混ぜられるようにしたのがあの短剣」



「いや待て、なんだその反則級の道具は。ズィペンイーズは宝石を大量に持てないという欠点があって成り立つ均衡のギフトだぞ」



「そうだね。例え空関係のギフトを持っていたとしても正直取り出すのに難があるトイボックスなんかじゃアドバンテージなんてとれやしない。反則っちゃあ反則」



「ねえリョカ、あたし、あれだけの傷を付けられた程度じゃあんなに血は出ないわよ」



「それが欠点。混ぜた宝石の大きさや質によって使用する血液が多くなる。つまり、出血多量による死が間近にある欠陥品」



「お前、なんてもん渡すんだよ。それであのタクトはどうしてあんなことに? あれはまんま魔物よ、魔物を模倣したとか、ただ性格が変わっただけじゃああはならないわ。人には合って魔物にはないもんがあるもの、しかもそれは人で外すことは出来ない。ミーシャは知らん」



「使用する魔物の魂……記憶を呼び覚ます薬を注入した。使用する魔物の数が多いほど彼は戻って来られなくなるね」



 僕は今も果敢に戦いを挑むオタクたちを横目で見る。

 傷つきながらも、限界を迎えようとも戦うことを止めない。



 僕は彼らに言ってしまった。



 金色炎の勇者は覚悟を見ると。

 その覚悟を示すことが出来たら、もっと僕の役に立てるかの問いに、僕は曖昧な返事をしてしまった。

 けれど彼らは、きっとその曖昧な答えに縋った。



 魔王が聞いて呆れる。



 こんなに熱狂されて、こんなに僕を追ってくれて、こんなに、こんなに――こんなに愛されて、それに応えられずになにが魔王(アイドル)か。



 話の途中だったけれど、僕は立ち上がって彼らに見えるように金色炎の勇者を指差す。



「オタクセたち!」



 一瞬、彼らの視線が僕に向けられたのがわかった。

 僕は大きく息を吸ってたくさんの信仰を胸に抱いて叫ぶ。



「僕のためにやっちまえ!」



 そんな僕のお願いに、オタクセたちが鼻から息を吸いこんで胸が膨れたように見え、オタクたちの少し苦痛が窺える表情が戦う者の嗤いに変わり、さらに勢いを増して猛攻を繰り出した。彼らが感極まっているのだと確信できる。



 僕は満足して腰を下ろすのだけれど、テッカが頭を抱えているのが見えた。



「いきなりの勇者への宣戦布告は止めてくれ、不覚にもどぎまぎしてしまう」



「惚れちゃヤ~よ?」



「子どもがませたことを言うな。それにこの感情が恋心だとしたら、世界中の人々が魔王に恋をしていることになってしまうぞ」



 僕はベッと舌を出してテッカに応えると、彼が拳を僕の頭に下ろしてグリグリとしてきたから、懐っこい笑顔で受け止めた。



「ああそうだ。それでクレインくんのあれは、肉体だけじゃなくて頭、脳……五感や思考にも強化が及ぶようにする薬で、連続使用や長時間使用すると脳の容量を超えてショート――頭がぶっ壊れちゃうね」



「リョカさんあの~、優秀な冒険者に無茶させないでくださいね~」



「大丈夫だよ、みんな強いから」



「そうね、リョカのため。なんて言われたらあの子たちは何でも出来るわね」



「リョカちゃん愛され系アイドルですから」



 そうして、僕たちは改めてこの戦いの行く末を見守るために、舞台へと目を向けるのだった。

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