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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
9章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、学園で戦闘訓練を見る1

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魔王ちゃんと覚悟を見せる挑む者1

「くっそぉ、金色炎め」



「まあまあ、きっとガイルさんも楽しみにしていたのですよ。そんなにほっぺた膨らませていると、すでにない威厳がさらになくなりますよ」



「……毒吐き女神め」



 ニコニコとしているルナちゃんをアヤメちゃんが睨んでいるけれど、今2人のことは気にすべきではなく、目の前で起きたあまりにも圧倒的な武力差をどうするかで頭を悩ませている。

 本当、それにしたってやり過ぎではないだろうか。



 先ほどセルネくんとオタクたちを見送った後、客席に移動した僕たちだけれど、みんなが舞台に辿り着き、戦闘体勢を取った瞬間、ガイルは聖剣を顕現させ、ただの一度の爆発で新米勇者とその仲間たちを吹き飛ばした。



 まだ致命傷と呼べるほどの怪我はしていないようだけれど、セルネくんたちは一撃ですでに額に脂汗を流し、足を震わせていた。



「弱い、弱すぎる! 俺はまだ軽く聖剣を振っただけだぜ。俺を目の前にしたのに防御姿勢も取らねぇ、回避にも専念しねぇ――舐めてんのかお前ら」



「……」



 スキルを使う間もなく、セルネくんとオタクたちは地に膝を付けていた。



「駄目ねあれは」



「ミーシャ」



 ミーシャがテッカとアルマリアを連れて近くまでやってきた。

 僕の幼馴染はセルネくんとオタクたちを見て何でもないように言い放った。



「ガイルもひどいことするわね。あんなのを目の前で見せられたら、あの子たちが動けなくなることなんてわかりきっているじゃない」



「ですねぇ~、もっと華を持たせてあげればいいのに」



 ミーシャとアルマリアがすでに終わっている(・・・・・・)戦いの感想を口にした。



 けれど僕にはどうにもそうは見えなかった。

 いや、確かに僕はみんなを鍛えてくれと言った。でもそれは少しずつやるべきことじゃないかなと軽くガイルを睨む。

 すると、テッカも同じ考えなのか隣に来てまず一言「すなまい」と、声を漏らした。



「うんにゃ。ガイルが求めていることはわかるし、上手くいけばあの子たちも成長すると思うよ。テッカが謝ることでもないから気にしないでよ」



「……しかしだな、やはり急すぎるな。あいつはせっかちなんだ。どうせ罪悪感もないだろうからな、だから代わりに謝ったんだ」



「じゃあ受け取っておくよ」



 僕とテッカのやり取りに首を傾げていたミーシャが何か言いたそうにしていた。



「ミーシャ、セルネくんは勇者だよ。それでオタクたちはミーシャと同じく僕と行動したいって言っている子たち。並大抵でいかないことは、ミーシャはわかっているでしょ?」



「……あんたは」



「う~ん?」



「あんたはまだ、あいつらがやれると思ってるの?」



「さあね。でも……セルネくんも、オタクたちも、そんなに弱くはないよ」



 少し考え込んだミーシャが視線を舞台へと戻した。



 聖女様の目に、彼らがどのように映っているかは僕の想像を超えているだろうから考えない。けれど、彼女は困難な道を通る気持ちを理解しているだろうし、何よりも何だかんだ僕の幼馴染は優しい。どのような結末だろうとも、普段通り不遜な顔でセルネくんたちをド突くに違いない。



 そんなことを考えていると、一切動かなかったガイルが足を動かし、セルネくんに近づいて行ったのが見える。



「おい新米勇者、お前は勇者だろ? なに立ち止ってんだよ。剣をとれ、敵を見ろ、てめぇの脚で立て、俺たち勇者に戦いが終わったなんて安堵はねぇぞ」



「――く、ッソ。動け、動いて……足、くっそ」



 立ち上がれずに歯を食いしばるセルネくん。

 立ち上がれないほどの怪我など負っていない。けれど立つことを躊躇させているのはガイルの圧倒的な戦闘圧にだろう。

 歯を食いしばっているけれど、隠してはいるけれど奥歯を鳴らし、顔を上げることすらしていない。



「……白けちまうな。期待はずれも良いとこだ」



「くっ」



「――」



 セルネくんが拳を強く握っている。

 けれど僕の目は一瞬だけ別に向けられた。



「わっ」



「リョカ?」



「あ~うん、そういえば一番近くで見てたんだったなぁって」



「なんの話――」



 ミーシャが僕の顔を覗いたその時、微か(・・)だけれど大きな(・・・)戦闘圧が舞台から発せられた。



「発破・天凱――脚力強化!」



「あ?」



 飛び出したクレインくん、突然の彼の行動に一瞬だけガイルが怯んだ。



「腕力強化!」



 伸ばす、伸ばす――スキルによって一回りも二回りも大きくなった腕をしならせ、クレインくんの拳がガイルの顔面に叩きつけられる。

 その際、彼の額からは汗が引き、怯えた小動物のような瞳は失せていた。



「セルネは!」



 顔面で拳を止められたクレインくんが怒気を込めた顔で叫んだ。



「いつも一所懸命だ! リョカ様と約束したその後、セルネは本当に勇者になろうと努力した! 自分の悪いところを見直して、自分に出来ることをいつも考えて、強くなるためにたくさんたくさん鍛えていた!」



 クレインくんの声が舞台に響き渡る。

 誰よりも真っ直ぐにセルネくんを、勇者を見ていたから、ガイルの言葉に本気で怒っている。



 でも――。



「言いたいことはそれだけか?」



 顔に当てられている腕を掴んだガイルが、クレインくんの拳を顔から離していく。



「努力している。頑張っている。それがどうした? そこの新米勇者が弱いことと何のかかわりがあるんだ?」



「……わかってないなあんた」



 ガイルの言う通りだと思う。

 どれだけ頑張っていようが、どれだけ何かに熱中しようが、それは関係ない。戦いは、戦いで価値が決まってしまう。

 今勝負している相手に、彼は努力家だと命乞いするものなどいるわけないだろう。



 しかしクレインくんは違った。

 これは命乞いではない。



「舐めた口叩くなよ坊主。この拳、使い物にならねぇようにしてやろうか?」



 ガイルがファイナリティヴォルカントを装着した手にクレインくんの腕をへし折るほどの力を込めたように見えた。



「俺がセルネの努力を知ってるんだ! 俺の前で、俺たちの勇者を侮辱することは許さない!」



 強く掴まれている腕を軸に、クレインくんが体を浮かし、膝を曲げて体を折りたたみ、ガイルの顔面に足を持ってきた。



「脚力強化!」



「――ッ!」



 クレインくんが放った脚力強化による両足キック。その気迫もさるものながら、当然の威力にガイルがよろめきクレインくんから腕を離した。



 けれどその瞬間、蹴りを顔面に受けたはずのガイルが口角を吊り上げ歯を剥き出しにして嗤った。



「良い蹴りだ」



 嗤い顔を隠しもしないガイルが両腕を高く上げた。



 爆発が来る。



 腕を離されたことで体勢を崩して舞台に落ちかけるクレインくんに回避行動は出来ない。しかしそんな彼に飛び込む1つの影。



「ああっ! ビーストレイブ・ガンズレイクラブ!」



「っ! 脚力強化!」



 タクトくんの腕からカニみたいな甲殻虫のような殻が生えてきた。その殻は巨大な盾のような物になったけれど、ガンズレイクラブ――殻が硬くて重いせいでほとんど動けない魔物で、その特徴も引き継いでいるのか、飛び出してクレインくんを抱きとめたにもかかわらず、その場で動きを止めてしまった。



 けれどすぐにクレインくんが脚力強化によって舞台を蹴り、タクトくんに抱えられたままその勢いでガイルの聖剣による爆発範囲から逃れようとした。



 けれど足りない。彼らが逃げ切るには速度が足りないと僕は息を呑んだけれど、ほんの一瞬ガイルの動きが鈍った。



「……」



 そして金色炎の勇者は振り上げた拳を下ろすこともせずに目を閉じたと思うと、息を吐いてオルタくんに目をやった。



「幻覚か?」



「早々に教えると思うでござるか?」



「そりゃあそうだ」



 クレインくんとタクトくんの逃走時間を稼いだのはオルタくんだったようだ。



「オルタ、タクト、やるよ!」



「おうよ! 散々勝手なこと言いやがって、あっしらの前でセルネを泣かせんな!」



「稀代の善良勇者だか何だか知らないでござるが、友をコケにされて拙者の我慢も限界でござるよ!」



 オタクたちが体勢を整えて、セルネくんを守るように横並びになる。



「セルネ!」



「――」



「聖剣は体力消費が激しい、だから今はとにかく息を整えて体力を回復して!」



「クレイン、俺は――」



「おいおいセルネ、まだまだ終わってねぇですぜい」



「そうでござるよ。セルネが回復する時間くらい、拙者たちでも稼げるでござるよ」



 どこまでも勇者の力を信じているオタクたち。その姿を見てなのか、セルネくんの脚から震えはなくなっており、泣きそうな顔を袖で拭った勇者が立ち上がった。



「集中する」



「うん、任せたよ勇者様」



「オタクセ舐めんなですぜい」



「拙者たちの連携の強さ、見せてやるでござるよ」



 やっと戦いが始まった。

 構えを取ったオタクセたちに、ガイルが喉を鳴らす。



「ああ、いいねぇ……く、あ~、良いじゃねぇか。ハハ、おたく――オルタ、タクト、クレインっつったか、いいじゃねぇか。ああッ!」



 笑いをこらえきれていないガイルが、完全にオタクたちに標的を定めた。



 すると、ジッと見ていたテッカがフッと肩から力を抜いたのが横目に映った。



「存外、ひよっこにも良い友人がいるんだな」



「オタクはそう言うのを大事にするから」



「ふわぁ~、あの状態から持ち直しますかぁ~」



「あたしの魔王様の家臣よ、少しは根性見せなきゃ務まるわけないじゃない」



 ミーシャが嬉しそうにしており、ああ見えて意外に彼らのことも気にしていたのだろう。



 どのような戦いをするのか、どのような選択を彼らがするのか。

 どうにも彼らに懐かれているからか、親目線のような上司目線のような、複雑な感情で見てしまう。



 でも、どのような結果であれ、きっと彼らはその殻を破り、再び僕の前に立ってくれるだろう。



 僕はそんな予感に、胸をときめさせずにはいられなかったのだった。

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