トラック1:ターンテーブルで踊ってみる?~マツナガ、インタビュー受けるってよ。~
私は松永小鞠。クールでダーティーなラッパーに憧れる、セッ〇ス・アンド・ドラッグに幻想を抱く女子高生。……といっても、後者は怖くて手が出せないけれど。
「んじゃ、部屋に戻ったら早速……な?」
「それもう何度目?」
夕食を済ませ、寮のルームメイト……陰田陽卯亜と自室に戻る道中で見知った顔ぶれと会った。
「あ、陰田さん」
「おう! ヤマトっちじゃん」
この人は、違う階に部屋がある平菱揶的さん。家庭の事情か何かで今は平菱の姓だけれど、前は……確か「氷敵揶的」という名前だったらしい。新聞部員の陰田から聞いた。
「……どうですか? あれから……イアナさんの情報はありましたか?」
「うんにゃ、なんにも。イアナ先輩の友人にもあたってみたけど『知らない』って」
「そうですか……」
「ヤマトっち、今の苗字になってからどれくらい経つっけ?」
「もう一年になりますね」
「辛いよなぁ。せっかく家族になったのに行方不明だなんて」
「はい……。もし……イアナさんが何かに巻き込まれていたとしたら……必ず、家に連れて帰りますから」
「オッケー。アタシも情報収集、がんばるわ」
「お願いします」
どうやら話が終わったらしい。平菱さん……と、ずっとその背後にいた「恋人」は私の横を通り過ぎて行った。
「つれないよなぁハジキっちも。コマリっちの恋人なんだろ?」
「まあ、恋人っていってもそんなに仲がいいワケじゃないし……」
「にしても、一言くらい何かあってもいいよなぁ」
「ははは……」
そう、千夜歌ニアンソ弾軌。駅前で見たあの頃はただ「同じ寮で暮らしている同級生」程度の接点しか無かった「彼女」も、今はSheじゃない方の「彼女」になっている。告白してきたのは向こうからだった。……でも、あまり会話をするわけでもない。することと言えば、私のラップと彼女のギターでセッションするのと、あとは営むくらい。本当に彼女は、私を好いてくれているんだろうか。
私が弾軌の気持ちを疑っている間に、自室へと辿り着いていた。
◆
「そんじゃあ、今日も行くぞー」
「ん」
新聞部に所属する陰田は、常日頃から取材をすることが多い。だから、しょっちゅうインタビュアーとしての練習に付き合わされているのだ。私はベッドに座って、メモ帳とペンを構える彼女に応対するだけで良い。
「では……おほん。出身はどこ?」
「マツナガは空の宮生まれヒップホップ育ちだぜ! YO!」
「座右の銘は?」
「セッ〇ス・ドラッグ・バイオレンス! イエア!」
「ホントは?」
「……チリも積もればヤマとなる、です。あと……日進月歩」
「どうしてヒップホップなの?」
「はー? んなこともわかんねーの? カッコいいじゃんヒップホップ! タトゥー入れてデッカい車転がしてー、女はべらせて葉っぱ吸ってケンカしてーの! マツナガ的に!」
「実はいい子なのに無理してワルぶってるだけだよね?」
「そっ、んなことないし。なんだよーお前やんのかー! チビだからってバカにすんなよー!? マツナガには空の宮のストリートで鍛えた拳が——」
「あ? やんのかコラ」
上から睨みつけられ、思わずたじろいでしまう。
「ヒッ!? きょ、今日は見たいDVDがあるからまた今度にしとく……しておきます。も、もう終わり終わり!」
こう何度も何度も同じ質問をされると答え方も似通ってくるし、もはや一流れの件と化してしまっている。
「んー……もっとカッコよくならないのか?」
「いやいやそんなムチャな」
いつもの流れだ。今日もそんな風にルームメイトと戯れたあと、私はシャワーを浴びて床に就いた。