超多忙な大魔王はまだ勇者に負けるわけにはいかない
「魔王様!早く避難してくだされ!勇者一行はすでに魔王城のエリア8を突破したのですぞ!」
配下のデーモンが騒いでいる。だが、私はまだここを離れるわけにはいかない。
「魔王様といえども相手はあの勇者!万が一ということもありますし、早く転移魔王で避難を!」
もう少しで『あの魔術』が完成するのだ。今ここで完成させなければ世界が、私が征服した世界が大変なことになってしまう。
「魔王様?魔王様!魔おっ――――」
「うるさいぞ貴様!私が集中しているのがわからんか!?」
「し、しかしっ」
「それに私は世界をこの手に収めた大魔王だぞ?勇者程度に後れを取ると思っているのか?」
「そ、そのようなことは……」
ドカン!激しい爆発音とともに部屋が大きく揺れる。
「貴様は逃げろ。今の音はエリア9から聞こえた。勇者がエリア10……この部屋にたどり着くのも時間の問題だ」
「……それが魔王様の命とあらば」
ひゅぱっ、と転移魔法の発動音がする。やっと逃げたか。喧しい奴だったが、いなくなるとそれはそれで寂しいな。
おっと、哀愁に浸っている場合ではない。私は世界を救わねばならんのだ。それが世界を征服したものの義務だからな。私は手元の魔石に意識を集中させた。
大きな光とともに、魔石に魔法陣が吸い込まれる。
「完成だ!これで世界は――――」
「エクスプロードフレア!!」
部屋の扉が爆炎で吹き飛ばされる。沸き立つ黒煙の中から四つの人影が姿を現した。
「邪魔するぜ、大魔王サマ?」
勇者だ。後ろには魔法使いと槍使い、回復術士が並んでいる。
私は手に持った魔石を勇者に投げやった。勇者は警戒することなくキャッチする。
「なんだこれは?」
「その魔石には超高度な回復魔法が施されている。それをもって今すぐ町へ戻れ」
「レアな魔石をやるから見逃せ、ってか?」
勇者は魔石を手の中で弄んでいる。
「他にやるべきことがあるだろうと言っているのだ。今この瞬間も、多くの人間が流行り病に苦しんでいるのだぞ」
「それがどうした?俺たちはただ大魔王を倒して世界の平和を取り戻すだけだ」
「病気だけではない。飢餓に獣害、問題は山積み――――」
「うるせえ」
勇者が魔石を握りつぶした。開いた手からパラパラと輝きが零れる。
ここまで話の分からん奴だとは思わなかった。さすがの私も限界だ。両手に魔力を込める。
「……馬鹿は死なんと治らんか」
「はっ、お前も魔石みたいに粉々にしてやるよ!」
私の最後の戦いが始まった。
読んでいただきありがとうございます。作者です。
企画応募作品初のファンタジーものになります。千字以内だと設定を語っている暇がないのでなかなか大変でした。細かいことは気にしないで、雰囲気重視で楽しんでいただけたらと思います。