#002 え、新ファイター今日発表されんの? やべーじゃん、早く仕上げないと
「カシラァ!」
と、前回のラストと同じセリフを叫ぶモヒカンである。
大事なことなので二回言った、的なアレである。
「どうした! モヒカンM……アレ、君、Sだっけ?」
オンセンは部下の顔と名前が一致しないようだ。
「いや、アンタが見分けらんないでどーすんですか」
悠二がつっこむ。
「いいの、トップのアンタがそんな感じで?」
「だって、見た目ほぼ変わんないんだもんコイツら」
「組織として纏まりなさすぎんだろーが。これまでよくやってこれたなこの会社」
部下の名前を完璧に忘れているオンセンだったが、そんなことお構いなしに、モヒカン%のセリフは続く。
「どうやら、すぐそこで人がモンスターに襲われてるようですぜ!」
「何!? それは助けにいかんとな。えっと、$!」
「惜しい! キーボード、あと一個隣!」と悠二。
「私が部下の名前を間違えるなど1000%あり得ない」
「うるせーよ、ケタ外れのバカが」
悠二のツッコミを無視して、オンセンはモヒカン達に指示を出す。
「モヒカンの威信にかけて必ず救援せよ!」
「いや、モヒカンの威信ってなんだ!」
◇
役に立つのかイマイチよくわからないモヒカン達と一緒に、悠二は、人が襲われているという現場にやってきた。でまさに今、目の前には、モンスター——強そうな狼がたくさんいる。
「うわ、おっかねえ」
悠二が、草むらに隠れながら呟いた。
「しかしまあ、ファンタジーだし? アレぐらいのモンス、サクっと倒さねえとな」
「ああ」
悠二と同じ草むらに隠れながら、オンセンはうなずいた。
「アレは一匹の強さはそうでもねえが、必ず群れて行動する。油断はするな、囲まれたら終わりだと思え」
「だがカシラァ! 頭数だったらこちらの方が圧倒的に多いですぜ!」
同じ草むらに隠れていたモヒカンが言う。
「だよなみんな!」
言うと、同じ草むらに隠れていたモヒカン達が声を揃えて雄叫びをあげる。
「コラァ! テメーら、そんな大声出して、隠れてんのバレたらどうすんだ! 静かにしろ!」
オンセンが怒鳴った。
「いや、アンタもな」
悠二だけがクールにつっこむ。
これ以上騒げば、本当に狼が自分たちの存在に気づきかねないからだ。
「つーか、なんで全員で同じ場所で隠れてんの? 隠れてられてないじゃん、丸見えじゃん」
「お、おい!」
そこへ、まだ知らぬモヒカンの声が差し込まれる。
「アレを見てみろ!」
モヒカンが指差した先には、モンスターに囲まれている人の姿があった。
緑髪の、可愛らしい少女が、野生の狼にメンチを切られている。
「大ピンチじゃねーかあァァァ!」
叫んで、草むらから飛び出していく悠二に、オンセンが言う。
「待て、コレ持ってけ!」
オンセンが自身のモヒカンに手をかけ、中にあった何かを取り出し、悠二に向けて投げ渡した。斧だった。
「いや卍丸かアンタは!」
武器を受け取った悠二が、間髪入れずモンスターに殴りかかった。
「ええい、ママよ! お座りしやがれ、ワンころども!」
叫んで、悠二が斧をブンブンと振り回す。が、狼は軽い身のこなしでそれを全て避ける。
「ちくしょう、当たらねえ!」それでも、悠二は攻撃の手を休めない。
「テメーら、俺達も援護いくぞ!」
オンセンが叫ぶと、周りのモヒカン達が一斉に自身のモヒカンから斧を取り出し、悠二たちのいる方向へ放り投げた。
「いや、危ねえよ!」
シャウトしながら、悠二は必死になって飛んでくる斧を避ける。
「しかもノーコン! ほとんど俺に当たりそうになってるから!」
「仕方ねーだろ、コントロール難しいんだよこれ」
「使いこなせてねえなら使うんじゃねえ!」
そこで、悠二はハッと気づく。
斧の雨を掻い潜って、一匹の狼が悠二に向かってやってきていることに。
「やべ」
悠二は眉を潜めた。同時に狼も飛びかかってくる。
狼が牙をひん剥き、悠二に噛みつこうとした、その瞬間だった。
「おすわり」
声がした。なんてことはない、ごく普通の少女の声。
目の前の狼が、小さな鉄拳を叩き込まれ、地面と激突する。その拳は少女のものだった。
「……へ?」
悠二は気の抜けた声を出す。
「まったく、躾がなってないですね、このワンちゃん」
まるで緊張したそぶりのない少女の声。
悠二は、へ、何この子。どんだけメンタル強いの? とひたすら困惑していた。
「あの、アンタ何者?」
悠二が口を引きつらせながら聞く。
「私? 私はフェイ・リースです」と少女が笑顔で言う。
「ありがとう、自己紹介恐縮のいたり……。じゃねーんだよ!」
と、悠二は声を荒げる。
「種族は何かって聞いてんの! 今の、とてもじゃねーが普通のホモ・サピエンスにできる芸当じゃなかったろ!」
「実はですね、私、最強の戦闘民族の末裔なんです。その名も……」
「え、それってどこのサイy」
「ザイア」
「©︎エンタープライズ!?」
とツッコミながらも、悠二は少しずつ狼に攻撃を当てる。
「つーかボケてる暇もつっこんでる暇もねーんだよ。先に、コイツら始末しねーと」
「ですね」
悠二とフェイが背中合わせになる。悠二が斧で、フェイが素手で、全ての狼を仕留めるまで、しばらくの間この絵面が続いたのであった。