#001 第一印象ってやっぱ大事だよね
異世界に送られた悠二は、真夜中の森で目を覚ました。
悠二としては、めんどい。帰ってゼノブレやりたい。ディフィニティブどころか、2もクリアしてないんだけど。的な考えであったが、主人公として、この小説を放置するわけにはいかない。
というわけで、どのみち悠二は、異世界生活をスタートしなくてはいけなくなったのである。
で、とりあえず悠二は、人里を探すことにした。
野宿は嫌なので、せめて山小屋でも見つかれば、と呑気にプラついていた悠二だったが、
「こんな場所で何やってんだ、ヒャッハー!」
突然、明らかにヤバい連中に声をかけられた。
上半身裸で、モヒカン頭の、ヒャッハーである。
「あれ、ここ世紀末だっけ?」
悠二は苦笑いする。
「あのー、見逃してもらえないっすか。金も食料も持ってないんで、俺」
へりくだった態度で、悠二は言った。
戦闘になるのは避けたい、というのが悠二の考えであった。
相手は無法者。何を拍子にブチ切れて、襲ってくるかわかったもんじゃない。おまけに、相手は皆ヤバそうな武器を担いでる。だから下手に出て、穏便に事を済ませようとしたのだ。
「とぼけんな! この状況なら、誰だってそう言うだろうよ!」
舌を突き出しながらモヒカンAは言った。
「夜中の森は危ないんだぜ?」
続いて、モヒカンBが言った。
「こりゃ、ちょいとお仕置きが必要なようだな」
モヒカンCも言った。
「バカな奴もいたもんだぜ」
モヒカンDは言った。
「今すぐ」「家に」「帰んな」「悪い子ちゃんがよぉ!」「ヒャッハー!」
モヒカンE、F、G、H、Iが同時に、声を揃えて叫んだ。
「いや、モヒカン多すぎんだろおォォォ!」
悠二がシャウトする。
「つーか、なんでアルファベット表記? わかりづれーんだよ、差が!」
「何を言ってる? 俺達は、アルファベットだけじゃねえぜ」
と言ったのは、モヒカンΣ。
「たいして変わんねえだろうが!」
悠二はツッコムが、モヒカン達はさらに続ける。
「ちなみに俺はモヒカン@」
「俺はモヒカンⅢ」
「モヒカン!だ。この!は記号の!じゃないぞ。繋げて、モヒカン・エクスクラメーションと呼んでくれ」
「いや、しつけえェェェ!」
悠二のシャウトが、モヒカン達の自己紹介を遮った。
「つーか、なんだよこの茶番! なんで異世界に来て早々、こんな寸劇を見せつけられなきゃなんねんだよ!」
「まあ待て。まだ、ボケのレパートリーは残ってるんだぜ?」
「もういいわ! これ以上は胃もたれしちまうっつーの!」
見ると、モヒカンが長蛇の列を作って、自己紹介の順番待ちをしていた。
「いや、多い多い。こんなの悠長にやってたら、日が昇っちまうよ」
で、早速モヒカンが一人悠二の目の前に出てくる。
「だから、もういい加減に——」
と、モヒカンの姿を見ると、他のモヒカンとは違い肩パッドを装着している、いわゆる上級モヒカンであった。
「いや上級モヒカンって何!? なんで肩パッドつけただけで上位互換扱いになんの!?」
すると、上級モヒカンは悠二へ——名刺を差し出してきた。
「異世界に名刺あったんだ! つーか、必要ねーだろ。どー見たってただのチンピラ……」
見ると、名刺には『モヒカン警備会社社長 モヒカン♨︎』と書かれていた。
「その見た目で警備員だったんかいィィィ!」
悠二は叫びながら名刺を地面に投げつけた。
「ほら、ギャップ萌えってあるじゃん? 狙ってんのよね、それ」
と、モヒカン♨︎は二枚目の名刺を悠二に差し出す。
「いらんわ! つーか、考えが浅はか! 出落ち感ハンパねーんだけど!」
「あ、うん、オチはないぞ」
「オチ考えてないんかい! それと、♨︎ってどう読むんですか?」
相手が警備員だと知って、悠二の口調が少し丁寧になった。
「ああ、自己紹介が遅れてすまない。俺の名前は、オンセン・マークだ」
「あ、それ本名なんだ」
悠二が続ける。
「つーか、じゃ、なんでそんな格好してんですか。チンピラ取締る側が、チンピラみてーな格好して」
「だって、モヒカンかっこいいじゃん」
オンセンが答えると、悠二は呆れた顔をする。
「だからって、なんで組織全体がアンタの趣味に付き合わされてんの」
「カシラの趣味じゃねえ! 俺達は好きでこの格好してんだ!」
と、外野のモヒカンが割り込んでくる。
「ちなみに俺はモヒカン——」
「はいはい、もういーから。これ以上モブに割いてる尺ねーから」
ツッコミのボルテージが一気に下がった悠二は、落ち着いて、話を先に進めることにした。
「で、アンタら本当に警備員?」
「ま、自警団ってのが正しいかな、異世界だし」とオンセン。
「うん、そーゆうメタ発言はいーんで。だ、俺は街に行きたいわけよ」
悠二が言うと、オンセンはうなずいた。
「了解だ、お前を街まで連れて行けばいいんだな」
「そうそう、もう少しで2000字いっちゃうし、このまま何事もなくストーリーが進んでくれると助かる」
「いや、オメーもメタ発言すんのな」
で、そんな会話をしてると当然、思ったようにストーリーが進むわけもなく。
「カシラァ!」
モヒカン(モブ)がそう叫びながら、不穏な空気と共に、血相を抱えて駆け寄ってきた。