プロローグ 外面の良い奴ほど胡散臭い
楽しんで読んでいただければ幸いです。
異世界ファンタジー。
何それ。という質問には、『自分で調べてね♡』と可愛らしくコメントさせていただく。広辞苑読めば載ってるから、多分。
しかし、実際にそういったジャンルの作品は腐る程存在する。ここで説明を省略したとしても、異世界転生/転移ランキング上位の作品でも見れば、簡単に要点が掴めるだろう。
ま、ともかく、だ。こんな感じで幕を開けたとこからお分かりの通り、今作品は異世界がテーマなのである。
それじゃあ、始まり、始まり。
◇
そこは、なんの変哲もないアパートの一室である。
床にはピンクのカーペットが敷かれていて、部屋の中央にコタツがドンと置いてある。
コタツにいるのは、ビシッとしたスーツを着た——女神様だ。
ピチピチの肌。艶やかな黒髪が、胸元まで垂れ下がっている。顔はそこらの整形アイドルより断然可愛い。そして、めっさエロいボンキュッボンのナイスバディ。
「いきなり呼びつけて悪かったわね」
女神様が口火を切った。
「ま、ちょっと外じゃ話しづらい内容だし。雰囲気も必要ってことで……」
「だったら別に、無理して言わなくてもいーでしょうが」
と返すのは、女神様と向かい合ってコタツに入っている、今作品の主人公——藺草悠二だ。
悠二は、ボッサボサの黒髪で、Tシャツをだらしなく着こなし、携帯ゲーム機で大乱闘に熱中している。
「ちっ、まーた復帰ミスったよ、この魔王様」
「あ、うん、そのね……」
女神様は口元を歪める。
「ちょっとだけ私の話聞いてほしーなー。つーか、私のことガン無視でスマブラるの辞めてくれない?」
「へーい」
悠二はゲーム機をケースにしまうと、ぶっきらぼうな態度で女神様と目を合わせる。
「で、なんすか、話って?」
「今回、アナタをここへ呼びつけたのは他でもないわ」
女神様は真面目な顔で話を始めた。
「アナタに、この作品の主人公になってもらおうと思って」
「いや、何それ」
苦笑しながら悠二は言う。
「そこは普通、『世界を救ってくれ』とか、『力を貸してくれ』とか、それっぽい理由並べて、ナチュラルに俺を主人公ポジへ持っていく流れじゃないの。大丈夫? ただでさえ素人の文章なのに、これ、小説の体裁保ててる?」
女神様は悪びれることなく、答えた。
「ともかく、『◇』の前見ればわかるでしょうが、今回はそーゆー感じの話なの」
「いや『◇』ってなんだ! 小説のキャラが本文を活用してんじゃねえよ!」
悠二は荒げた声を抑えてから、言った。
「まあ、しゃーない、受け入れますよ。物語の都合上、俺に拒否権はNOでしょ」
「うん、物わかりが良くてよろしい」
女神様は微笑みながら、説明を始めた。
「さて、じゃ、世界観からだけど。まあ、大体察しつくわよね?」
「異世界ファンタジーってんだから……ドラクエ的な、テイルズ的な、FE的なアレでしょ」
「ホント、ゲーム好きねアナタ……あ、分かった〜。それ全部、スマブラに出てるゲームでしょ」
「テイルズは出てないっすね。つーことで、成歩堂参戦待ってます」
「なんでそこで逆裁!?」
ま、いいわ、と女神様は口調を改める。
「世界観は大体そんなもんよ。で、次」
「次は、そうだな。師も出れたんだし、そろそろレックス君来てもよくね?」
「いや、次のDLCじゃねーよ。つーか、いい加減にしないと、スマブラ知らない読者が置き去りにされるわよ」
女神様は小さく咳払いをすると、話を続けた。
「——ともかく、よ。ファンタジーっつったら、派手さが必要でしょ?」
「確かに。ちょっとばかし地味だよな、俺の見た目」
「活字じゃ細かいビジュアルとか伝わんないでしょうが。いや、そーじゃなくて」
女神様は言って、マジな視線を悠二に向けた。
「能力。もっと平たく言えば、アナタの戦闘スタイルね。主人公たるもの、他の追随を許さない、圧倒的なパワーを持っていないと」
「そうは言いますがねえ女将さん」
「女将じゃなくて女神ね」
「俺TUEEEとか、無双とか、散々使い尽くされたネタですって。もう何番煎じですかー、って感じで。はっきり言って、もう目新しさがな……」
「————うるせェェェ!」
女神様は怒声をあげると、
「そんなことより物理で殴りなさい!」
渾身の右フックを悠二の顔面にブチ当てた。
「ここでタイトル回収!? つーか、アンタが殴ってどうすんだよ!」
溢れ出る鼻血を抑えながら、悠二は怒鳴った。
が、女神様はそんなことお構いなしに、ヤンキーのようなメンチを切って、言った。
「つーわけで、アンタはその身一本で頑張って、分かった?」
「あーもう、わかった! わかりました!」
と、悠二。
「やりゃあいいんでしょ主人公! 魔王でも大魔王でも、ブン殴って討伐してやりますよ!」
「よしよし、その意気よ」
女神様は言って、悠二を掴んだ手を離すと、笑顔になる。
「ま、できるだけ、楽しんでらっしゃい」
とまぁ、そんな言葉を最後に、いよいよ悠二は異世界へトリップするのだった。
つーことで、雑なプロローグを終えて本編。
始まりは異世界から、ってことでよろしく。