きっかけ
大学1回生の初夏、何気無く見た構内の掲示板にそれはあった。
「古民家 ルームシェア 募集」
通えない距離でもなかったが、少し通学に時間がかかる実家から出ようかと、ぼんやり考えていた矢先だった俺は、とりあえず連絡してみることにした。
メールにはすぐに返信が来た。
その日のうちに、大学構内のカフェで会ってみることになった。
先に着いていた掲示板のメモの主は、黒髪短髪に眼鏡の真面目そうな男だった。
「メールした宮原圭です。」
「杉田学です。」
軽くお互い自己紹介し、講義が終わったら、シェアハウスの見学に行くことになった。
待ち合わせ場所に行くと、杉田はもう来ていた。
「お待たせ。」
「講義が早めに終わっただけ。」
素っ気なくさえ感じる、あまり口数の多くない杉田。
俺は黙って横を歩いた。
大学から徒歩10分くらいの場所に、そのシェアハウスはあった。
2階建の古民家。そんなに大きくは無い。
表札は「花江」になっていた。
「昔、祖母が住んでいて、僕がもらったんだ。」
と杉田は言った。
中に入ると、古いが掃除が行き渡った清潔な空間。
床が黒光していい味を出していた。
「他の住人は?」
「僕しかいない。」
「2人でルームシェアって事?」
「そう。家賃は3万光熱費込み。」
家自体気に入っていた俺は、破格の家賃に、すぐさま飛びついた。
そして、俺と杉田のルームシェアは始まったのだった。




