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舞台の魔力

岡田絵里加は愛くるしい少女だ。すらりとした細身の体に草食動物のような黒目がちの瞳、小造りな顔に玉子のむき身のような肌がとても美しい。


この4月からは国立大学文学部の一年生で毎日電車で通学している。

家はサラリーマンの父と専業主婦母と妹の三人暮らしで、まだ高校生1年の妹を絵里加はとても可愛がっている。大学もたくさん友達ができて楽しい。勉強して友達と遊んでバイトをして、それが絵里加の毎日だった。


そんな絵里加に転機が訪れる。ある日学食で、サークルの友達の早苗に話しかけられたのだ。

「ねえ、絵里加。ちょっと舞台を手伝ってくれない? 兄貴の舞台でエキストラが足りないのよ。ねぇ、ちょちょっと上がるだけでいいの」

「えっ! 舞台ってこう衣装があったり、やたら長い台詞を仰々しく言うところでしょ? わたしにできるわけないない!」

「台詞がないエキストラだから大丈夫!」

「えっえっ!?」

「まぁ、取り合えず見に行くだけだからね!」


あれよあれよという間に早苗は絵里加を市民センターに連れて行った。途中で聞いたのだが、早苗の兄は大学で演劇サークルを作り、そのまま社会人になっても土日に練習して定期的に講演をしているのだそう。卒業しても同じ趣味に生きて、ずっと絆を持ち続けるっていいな。


(みんな優しそうで、フレンドリーだわ。ほんのちょっとみたいだからいいかな)


「今芝居をやってくれるキャストがいなくって大変なんだ。もしよかったら手伝ってってくれない?」

責任者の三鷹さんはとても優しくて落ち着いてる人だった。妻と息子がいるそうだ。早苗の兄は独身だが、男性は殆ど家庭持ち。女性は結婚を予定している人が多いみたい。


舞台の演目はクリスマスキャロルだ。絵里加が頼まれたエキストラは、最初の子供の役と最後の町人の役だ。あわせて5分なら大丈夫とOKしたのは、ちょっとはやまったかもしれない。


芝居の練習はまず柔軟から始まった。

「さすが絵里加ちゃん。現役は体が柔らかいね」

「それ取り柄なんだ」

「八木さん、本当に固いなぁ。ちょっと手伝うか」

「アワアワ…グッゲッゲッ…助けてくれ…」

「大変だね八木さん、私も手伝うよ!」

体が固い八木さんのために、いつの間にか笑いながら数人が集まってきていた。

(いい運動になって良かったね、八木さん(合掌!)


「さぁ、腹式呼吸だ。ゆっくりと鼻から息を吸い込んでおへその下に貯める。今度はおへその下からゆっくりゆっくり息を吐き出す。繰り返して!」

(……んっ?)


「さぁ次は発声練習だよ。はい、腹式呼吸で息を吸い込んで

ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ

   カ・ケ・キ・ク・ケ・コ・カ・コ……」

(……んんっ!? これエキストラ違うんじゃない? 早苗は普通に仲間入りしてるし?)


一通りの発声練習が終わってから三鷹さんに聞いてみた。


「エキストラもに発声法が必要なの?」

「ギリギリの人数でキャストを回しているから、キャストが休んだ時にその人の振替がいるんだ。難しい役は無理だけど、一言二言の役もあるし、簡単に台詞が入ってればいいから」

「うんうん。わかった。そうなんだ」


回を重ねる毎に練習は白熱した。

(主演の八木さん。うまいなあ。普段はヘタレっぽいのにね。これがギャップ萌えか)


役を演じる一人一人がとても素晴らしく見える。いつしか絵里加は芝居することを楽しみにしていた。


「子供役の帽子は皆が適当に持ってくるから、絵里加ちゃんは下のパンツとか、足首までの長いスカートあったら持って来て」

「はい。三鷹さん」

衣装がそろい小道具が出来上がる。


そして舞台の幕が上がる。


「 いい? 観客席に座っているのは皆、大根と人参と玉ねぎだからね。じゃがいもいるかな? だから緊張しないでね」

「はいわかりました頑張ります」

絵里加はとても緊張してガチガチになっていた。それを見かけた三鷹が言う。


(客はお野菜お野菜。みんなそうやって緊張を解いていくんだ! 私もできる!)


「まず化粧からだけど子役はいいわ」

スクルージの役の八木さんは、顔中にドーランを塗りたくられて、しわをたくさん書かれてる。肌呼吸が できなくて、結構肌に負担かかりそう。


「 八木さんいい顔だな」

「 僕は元々顔だけはいいんです」

……モテないんだろうな。


さぁ、待ちに待った開演だ。期待に胸が弾む。


「あははははっ!!」

絵里加は子供として舞台に飛び出した。


「プレゼントくれよう! スクルージ! この 因業じじい!!」

スクルージの家の扉を蹴りだした。返事がないのでさっさと逃げて遊びにだした。ここは舞台の上なの違う空間のようだ。雪が降ってる。大きな雪溜まりが見える。雪を投げつけたり雪山を作ったり、つい楽しくて遊んでしまう。そんな場面が終わった。


「絵里加ちゃんがあそこで扉を蹴り出してびっくりしたよ」

「すごく楽しくて気が付いたらやってました。舞台の上に雪山が見えました」

「それが舞台の魔力なんだよ」

「舞台の魔力?」

「うん。その魔力を味わいたいたいから、みんな舞台をやってるんだよ」

舞台が跳ねた後の飲み会どは、誰もがみんな熱に浮かれたように騒いだ。もちろん絵里加もだ


「スクルージの家の扉を蹴ったのは誰?」

   ➡「はい。私です」


「どこかにフィクションがあるの?」

   ➡「このこの片隅にちょっとならあると思います」



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