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【夜光の海】

今日は文化祭の当日だ。朝から正海が張り切っていた。

「正海。MCよろしく頼むぜ」

「うん、わかった! 頑張るよ」

「頼りにしてるからね」

3人にとって初めてのステージだ。ちょっと緊張するが期待に胸が震える。


「行くぜ!!」

「「おおっ!!」」

3人がステージに登ると集まっていた観客がざわめいた。どこからか王子という野次が飛ぶ。


「今日は僕たちの何バンド夜光の海のステージに来ていただいてありがとうございます。夜光の海は夜に光る海って字です。僕は王子兼ボーカル兼MCの正海です」

正海の自己紹介にみんなが笑った。実はこれについても 一悶着あったのだ

「誰が王子なんだよ!?」

「当然正海だろ」

「うんうん。正海だ」

「なんで僕なんだよ?」

「俺ってぶっきらぼうだし聖也は口下手だろ。やっぱり王子の正海のMCがいいよな」

「それって押し付けてるだけだよね!?」

という経緯を経て今に至る。


「ギターは巧、キーボードが聖也です」

それぞれに楽器を鳴らして挨拶をした。


「 まずは一曲目、聞いてください。はぁ!!」

ギターのサウンド、リズミカルなキーボード、伸びやかなまさみの歌声がビートを刻む。


二曲目、三曲目と進む。いつしか巧のギターと聖也のキーボード、正海のボーカルが一体になった。熱狂と興奮がステージと観客を包んでいた。それは魔法の時間だった。


だがやがて最後の曲が終わり、魔法の時間は終わる。


「楽しかった。今まで生きていた中で一番楽しかった。この時間をありがとうっ!!」

わずかに息を乱し髪を崩した正海が挨拶する。 頬を上気させた巧と聖也が頭を下げた。観客たちの歓声が響き渡る。


「本当に楽しかったな」

「魔法の時間だったよ」

「ねえ、3人だけで演奏するよりずっと楽しかったね。もっともっとやろうよ」

目を輝かして正海が言い、巧と聖也が頷いた。魔法の時間に捕らわれた者たちは、より多くを望み、そしてずっと望み続ける。


「 おはよう、3人とも。昨日のライブお疲れ様。すごいよかったよ」

「「「 おはよう。ありがとう!」」」

翌朝、登校した聖也たちにクラス委員の鈴木が話しかけてきた。褒め言葉がくすぐったかった。


「ところで何で夜光の海なの?」

「俺もそれ聞きたい」

「僕も」

鈴木と巧と正海が揃って正海を見つめた。


「それはあれさ。聖也、巧、正海の名前をつなげたらその名前が出てきた」

「ひでえ!」

「正海のネーミングセンスもなかなかびどいよ?」

クラス中が笑いに包まれた。


学年が上がってクラスが違っても3人はずっと仲良しだった。2年生の文化祭ではコピーにアレンジを加えた。3年生の文化祭ではオリジナル曲を演奏した。3人でアイデアを出しあいゲームを作り自分たちの曲を作った。学園の王子たちという呼び名は今や周辺に広がり、ゲーム音楽を聞いたファンも文化祭に集まってきた。


スタジオを借り、あれこれ相談しながらレコーディングした。


一方、正海はボイストレーニングを受けた。


「 両足を肩幅に開いて開いて。リラックスして…はい、姿勢を正して。風邪を引いても、きちんと歌が歌えるように発生の仕方を学びます。はい、腹に力を入れて。裏から同点へ突き上げるように、声を出す。それがハイツェーです」


チャキチャキした中年の先生は、なかなかスパルタだったが学ぶことは多かった。


【夜光の海】という名前は徐々に浸透していった。


「卒業おめでとう。 これからもずっと応援してるから 頑張れよ」

「「「 ありがとう。頑張るよ」」」

卒業式の日ボタンをむしり取られた3人に、かつてのクラスメイトの鈴木が来て言った。


鈴木はずっと【夜光の海】のファンだった。学園の王子は今やゲームのアイドルたちになったが、これからもずっと3人をサポートしていきたい。その思いでネットにファンクラブを作った。 クラス委員から生徒会長を務めた鈴木の統率力がものを言い、今やファンクラブは全国的に広がっていた。


聖也と巧と正海は、同じ高校時代を過ごした者たちにとって輝かしい青春の一ページなのだ。 自分たちがいかに変わろうとも彼らは変わらずそこにいる。窮地にいる時に、その思いはどれだけ自分を救うだろうか。


「さあ行こうぜ」

「うん」

「3人一緒にね」


「卒業してからも音楽を続けていきたい」

そう言って3人は親を説得した。最初はみな嫌な顔をしたがゲーム音楽で収入を得ていたことも有利に働いた。最終的には認めてくれた。

「若い今だけはお前の好きなことをすればいい」そう言って。


3人で探して防音のアパートを借りた。皆免許を取った。中古の車を買った。スタジオミュージシャンたちのつてを作った。これからあちこち全国のライブに回る生活だ。


夢と希望と憧れを胸に聖也は走り出した。


その果てに何があるのかは、まだ誰も知らない。

お読みいただきありがとうございました。

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