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男と少女

ドアの向こうはいつも見る廊下が広がっている。これといってなにも変わったところはない。

俺はその廊下を東に向いて歩き始めた。

その時、俺のいた教室の隣の教室から1人の男が飛び出してきた。20代半ばくらいだろうか。その男は顔を真っ青にして目を見開き、ガクガク震えながら俺に目を向け、口を開いた。


「きっ……きみは何の《効果(エフェクト)》なんだ?」


《効果》?

なにを言っているんだろうか。「えと、何のことですか?《効果》って」


俺が問うと男は青い顔をもっと青くした。


「きみは、《トライメイト》じゃない……のか?」


「《トライ、メイト》?」


何のことだ?

《効果》とか《トライメイト》とか、俺は全く理解出来ない。

…………まさかここは、俺がいつも生活している世界ではないのか……?でもそんな、非現実的なことが起こるわけない。バカだな俺。一瞬でもそんな考えが頭過るとか。そうだ!きっとこれは夢なんだ。ちょっとリアリティがある夢なんだ。覚めろ!覚めろ!夢よ覚めろ!


「残念ながらこれは夢ではありません。きみがそう思うのもわかりますが、これは現実です」


この人……なんで俺の考えてることがわかるんだ?俺の表情に出てる?いや、そういうののプロじゃなければそんな簡単にわかるわけがない。じゃあ、なんで……


「僕の《効果》は《読心》です。人の顔を見るだけでその人考えていることから健康状態まで読み取れます。さっきから君の心を覗いてますが、君は本当に《トライメイト》じゃないんですね……」


男は俯いて声を小さくしていく。目を泳がしながら、ブツブツとなにか言っている。そのまま少しずつ時間が過ぎていく。

「23時までだったよな……」と俺は時間が気になり、携帯を探してポケットに手をつっこむ。内ポケットから携帯を出し時間を確認すると、既に22時32分だった。


「あの、俺、そろそろ行かないと……時間が……」


「君は体育館に行っては駄目だ。今すぐ、ここから出て行きなさい」


男はしっかりとした口調で、俺の目を真っ直ぐ見て言った。


「《トライメイト》でない君が、ここにいるのは危険過ぎる。キラのことだ。何をしてくるかわからない。せめて、君のペアが僕なら良かったんだが……」


クソッと男は唇を噛んだ。


「えと……あなたの番号は、なんなんですか?」


俺は思いきって聞いてみる。男は俺の心を読んでいるから俺の番号がわかってるのだろうが、俺にはわからない。


「13だ。君は、28だろ?」


俺は思わず口を半開きにして固まってしまった。《効果》が《読心》だというのはさっき聞いて知っていたはずなのに。心のどこかで嘘だと思っていたのだろうか。


「……とりあえず、番号が違うことはわかっただろ?だから早くここから出ていきなさい」「それは困るわね」


不意に後ろから女の高い声が聞こえる。俺は驚いて振り向く。そこには露出度高めの、どうみても季節外れな服をきた少女が仁王立ちで俺達2人を睨みつけていた。



「男……学ラン着てる方、28番なんでしょ?私のペアなんだから、勝手に出ていかれたら私が困るわ」


つん、と顎を突き上げ俺達を睨み付ける。

なんて自分勝手な女だろうと思うと同時に、不謹慎ながら可愛いなとも思ってしまった。睨まれていても嫌な気がしない。……どうやら俺はMだったみたいだ。


「ちょっと、私の話聞いてる?なんか反応してよ。まぁ、学ランくんは私と体育館に行くんだから反応なんて必要ないけど。もう1人の方には用ないから。消えて」


冷たい視線と言葉が矢のように飛んでくる。俺はかすり傷で済んだが、もう1人には突き刺さってしまったかもしれない。


「…………ダメだ。カレは普通の人間だ。《トライメイト》じゃない。」男がやっとのことで言葉を発した。緊張しているみたいに声が震えている。俺も体が動かない。女のオーラがそれだけ強大ということか。


「《トライメイト》じゃ、ない?」


女は眉間に皺をよせ、俺をじろじろと舐め回すように見つめる。

そして考えが整理出来たのか、1つため息をついてキュっと口角をあげ上目遣いでこちらを見る。


「おじさん。私をはめたいのなら、もっと上手く嘘つくのね。2人じゃなきゃ失格っていうルールを利用したんだろうけど見え見えよ?」


話しながら、少しずつ女が近づいてくる。さっきの笑った顔はもうなく、大きな目はこちらをギロッと睨んでいる。


「さあ、その学ランくんをこっちに渡して?おじさん……」


一歩、また一歩、女が歩くたびに辺りにコツッというブーツの音が響く。男は

「あっ……が……」と声も出ないようだった。俺も足がすくんで動けなかった。コツッ……と足音が止む。

女は俺と男の1メートル手前くらいに仁王立ちして、こちらをジロッと睨んでいる。

何故だ……女は俺や男よりはるかに小さく150センチメートル程度しかないだろう。細身で手首なんかは骨と皮だけなのではないかと思うほどである。なのに何故、俺も男も動けないのだろう。この女は一体、何者なのだろう。


「動けないの?はっ!情けないわね。まあどうでもいいけど。さ、学ランくん、一緒にきてくれるよね?」


「お……お前に、彼は渡さない……」


男が声を喉から絞りだしたのが俺にもわかった。会った時以上に青白い顔をしている。


「おじさん……アンタにはね、関係ないの。私は学ランくんに聞いてるの。あんまりでしゃばると、痛い目見るわよ……」


女が目を見開き、ポケットからカッターナイフを取り出す。

「ひ……っ」っと男が息を飲む。


「刃物って血がつくから好きじゃないんだけど、仕方ないわね」


ジギジギジギ、とカッターの刃が出る音が響く。

ヤバい。これはヤバい。俺はともかく、この男がヤバい。目の前の女に、殺される。それを防ぐには……。


「お、おい。落ち着け……俺が、行けばいいんだろ?この人は関係ないんだろ?俺があんたと一緒に体育館に行く、それでいいだろ?」


「きっきみ!なに言って」


「ええ、それでいいわ。おじさんは見逃してあげる。今だけ、だけどね……」


ニヤッと微笑み、俺達に背を向け歩きだす。俺も行かなくては。


「おじさん、迷惑かけてすいませんでした。それじゃ俺行きます」


男にそう言い、俺は女の背を追いかける。


「きみは、絶対に後悔するぞ!」


後ろから男の声が聞こえたような気がした。

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