8月4日 日曜日 PM9時
「ただいまー」
バイトを終えアパートに帰ると、ラティはテレビを見ていた。テレビを気に入っているみたいだ。
「おかえり」
椅子の上に体育座りをして、長い黒髪がざわざわと揺れている。
手に持っていたビニール袋を見せた。
「シュークリーム、一緒に食べよう」
ラティが一個目のシュークリームにかぶりついている間、俺は紅茶を入れて、テーブルにコトリと置いた。そして自分の分のカップを持ち、ベッドに腰掛ける。
「桃果ちゃんと、やりまくってるみたいね」
「ああ、桃果が離してくれなくてさー。わかる?」
「うん、ヒロトの周辺は性愛のパワーに満ちているから、わかるよ」
このところ、桃果とは毎日のように会い、何回もセックスしていた。
「だけどさ」
「ん?」
「他のコともエッチしたいんだ」
「そうなの?」
「そう。バイト先に、口説きたい子がいるんだ」
「ふうん」
「軽蔑した?」
「いいんじゃない?」
ラティは軽蔑するでもなくニコっと笑って、シュークリームにパクつき、テレビに視線を移した。
テレビでは『N饗アワー』が放映されている。
渋いシュミだな……。
「好きだね、テレビ」
「うん、いろんな人や、いろんな場所が観られて、面白い」
「今の若者は、あんまりテレビ観ないんだぜ」
「え、なんで?」
「スマホを観てるほうが楽しいらしいよ」
「へーそうなんだ」
「こんどさ、バイト先に来てくれないか? その子と、どのくらい縁があるか、見てほしいんだ」
「いいけど」
「そのかわりと言ったらなんだけど、明日、買い物でも行こうよ、服をプレゼントするよ」
「ほんとに? やったあ」ラティはニコリと笑った。
邪気の無い笑顔だ、あいかわらず。
だがこれは俺のためでもあるのだ。
今彼女が着ている黒い服は、目立ちすぎた。一緒に外出するには、もっと『外界っぽい』服に着替えてもらう必要がある。