8月1日 木曜日 PM8時
1時間後、俺とラティは再び駅前に居た。傘をさし、駅前広場の植栽を背にして立ち、駅から家路へ向かう人たちを眺めている。
雨はまだ降り続いている。日曜日の夜の8時過ぎで、日も落ちていたが、駅前だと、それなりに明るくて、まだ賑わっていた。
「ところで名前は? ナニ君?」
そういえば、俺も名乗った覚えがない。
「ヒロトって呼んでくれ」
「どのコなら、やれる?」俺は聞いた。
「それは教えられない」
「もういいよ」
やっぱり家に帰ろうと思った。
なんだか、もてあそばれている気がしてきた。このコとかかわるのは、もうやめよう。
「まって!」
「どのコとやれるかは、言えないけど、あなたが指名したコとの縁の濃さがわかるから、それは言えるよ、ちょっとわかりにくい説明かもしれないけど」
ちょうど駅に電車が着いたらしく、人が改札から吐き出されて出てくる。何人か綺麗な女の人も居た。俺はその中の一人を指さした。
ボディラインのはっきりわかる服を着た、20台半ばくらいの派手なお姉さんだ。
「あの子は?」
「ううん、難しいかな」
「誰でもやり放題、って言ったじゃないか!」
俺は声を荒げた。周りの人がこっちを見ている。きっとカップルの喧嘩だと思われている。
不意に背後から抱きしめられた。背中に柔らかいものが当たる感触がある。身体が熱くなるのがわかった。
「落ち着いて」ラティがささやく。
「あの子はすぐには抱けないわ。時間がかかる。今日セックスしたいんでしょ? だったら別の子にしなさい」
うおおおぉぉ
俺はラティに襲い掛かった。
ずさささぁ
次の瞬間ラティは実体をなくし、俺は叫び声を上げながら公園の植栽の中を転げまわった。
あーあ。俺は植栽に寝転んだまま、屋空を見上げた。視界の左隅からの外灯が眩しい。顔にぽつぽつと雨が当たって、少し落ち着けた。
「いいね、その元気を女の子にぶつけるのよ」
うるせー。
たった今そうしてたじゃないか、結果俺は地面にはいつくばっている。
もう、なんだっていいや……そう思ってまた、夜空を見た。ああ、こんな時、星が綺麗だったらいいのにな、目の前には真っ黒な曇り空だよ。