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8月1日 木曜日 PM4時(2)

「け、契約?」

「そう。契約してくれたら、あたしは君の望む女の子と縁を結んであげる」

 うさん臭すぎる……。

「どうですかぁ」

 ラティは笑いかけてきた。思わず契約してしまおうかと思えるくらいの、邪気の無い、良い笑顔だ。

「ははは……どうって、言われてもね……」

 たぶん何かの勧誘の女の子なんだろう。いわゆるキャッチセールスというやつだ。

 前にも宝石の勧誘にあったことがある。

 でもまあ、暇だし、可愛いコだし、しばらく話につきあってみようかな。

「契約すると、どうなるの?」

「だからぁ・・・女の子とやり放題だよ」

「その他には、見返りとか無いの? 魂をとられる、とかさ」

「たましい?」

 ラティは瞳を見開いた後、クスっと笑った。

「あはは、気になるよねえ、やっぱりそこんとこ。何か見返りを求められるのかってさ」

「何も。何も求めないよ、私はただ、与えるだけ」


 その話を信じたかと言えば、それはまったく無かった。トラブルの予感もした。

 女のコを欲している男に、女を提供してくれると言う、しかも見返りなしに。

 あやしい。立ち去ろうと思った。何か気の効いた一言を言って、じゃあ、と言って、笑顔でその場を立ち去るつもりだった。だが、上手く言葉が出てこない。

 結果として俺は、口に出しては何も言わず曖昧に笑った。

 昔からそうだ。自分の予想を超えた事を、人から言われると、どう答えて良いかわからなくなり、黙ってしまうのだ。

 まあ、だからナンパ師としても、いまいちなわけだ。

「ま、いいわ」

 しばらくして、ラティは言った。

「ごめん、突然。変なことを言っちゃったね」

 そう言ってニコリと笑うと、傘をさし、去っていった。


***************


 俺はその言葉を信じたのだろうか。契約とか、そんなことを。

 いや、信じちゃいなかった。ただ面白そうだと思った。

 そしてラティが美少女だったので、もう少し話をしてみたかった。それだけのことだ。

 俺は傘もささずにダッシュで駆け、ラティに追いつき、腕をつかんだ。

「あの……ちょっと」

 腕は氷のように冷たかった、人間とは思えないくらいに。

 その時初めて、ああ、本当にこの子は神様なのかもしれないな、と一瞬思った。

 俺は言った。

「契約するよ。いや、契約してください」

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