8月1日 木曜日 PM4時(2)
「け、契約?」
「そう。契約してくれたら、あたしは君の望む女の子と縁を結んであげる」
うさん臭すぎる……。
「どうですかぁ」
ラティは笑いかけてきた。思わず契約してしまおうかと思えるくらいの、邪気の無い、良い笑顔だ。
「ははは……どうって、言われてもね……」
たぶん何かの勧誘の女の子なんだろう。いわゆるキャッチセールスというやつだ。
前にも宝石の勧誘にあったことがある。
でもまあ、暇だし、可愛いコだし、しばらく話につきあってみようかな。
「契約すると、どうなるの?」
「だからぁ・・・女の子とやり放題だよ」
「その他には、見返りとか無いの? 魂をとられる、とかさ」
「たましい?」
ラティは瞳を見開いた後、クスっと笑った。
「あはは、気になるよねえ、やっぱりそこんとこ。何か見返りを求められるのかってさ」
「何も。何も求めないよ、私はただ、与えるだけ」
その話を信じたかと言えば、それはまったく無かった。トラブルの予感もした。
女のコを欲している男に、女を提供してくれると言う、しかも見返りなしに。
あやしい。立ち去ろうと思った。何か気の効いた一言を言って、じゃあ、と言って、笑顔でその場を立ち去るつもりだった。だが、上手く言葉が出てこない。
結果として俺は、口に出しては何も言わず曖昧に笑った。
昔からそうだ。自分の予想を超えた事を、人から言われると、どう答えて良いかわからなくなり、黙ってしまうのだ。
まあ、だからナンパ師としても、いまいちなわけだ。
「ま、いいわ」
しばらくして、ラティは言った。
「ごめん、突然。変なことを言っちゃったね」
そう言ってニコリと笑うと、傘をさし、去っていった。
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俺はその言葉を信じたのだろうか。契約とか、そんなことを。
いや、信じちゃいなかった。ただ面白そうだと思った。
そしてラティが美少女だったので、もう少し話をしてみたかった。それだけのことだ。
俺は傘もささずにダッシュで駆け、ラティに追いつき、腕をつかんだ。
「あの……ちょっと」
腕は氷のように冷たかった、人間とは思えないくらいに。
その時初めて、ああ、本当にこの子は神様なのかもしれないな、と一瞬思った。
俺は言った。
「契約するよ。いや、契約してください」