8月10日 土曜日 PM3時
なんか場違い感が……。
都心の、ブランドショップが多数はいったオシャレな商業施設の最上階に、その演劇ホールはあった。
白く輝く床のタイル。行きかう人もお金を持っていそうな雰囲気が漂っている。
ラティの見立てでは今日ここで演劇を観ることで、アリサとの縁が深まるらしい。
受付の前の部屋で開場を待っている間も落ち着かなかった。
3日前まで、演劇を見たいと思ったこともなく、このホールの存在すら知らなかったのだ。
部屋には他にも待っている人たちが大勢いて、椅子に座ってスマホ見ていたり、おしゃべりしたりしている。みんなお洒落な感じだ。
「演劇だって?」
昨日、それ以上ラティは教えてくれなかった。あとはもう、信じて行ってみるしかない。
チケットはユース割引きがあって、4000円だった。(ほっ)
ラティに一緒に行こうと誘ったが、「それじゃ意味ないでしょ」と断られた。
確かにそうだ。女と一緒にいては出会いも何もない。
「それでは開場の時間ですので、チケットをもって受付に来てください、まずは番号1から10番までのかた」
俺の番号は、35だ。次いで11から20番・21から30番が呼ばれた。
「では、31から40番のかた」
きた、受付に行くと、そこにアリサがいた。俺に気付いて、ちょっと驚いた表情をした。
「えっ、なんで?」
「あっ、演劇に興味あって」
「そうなんだ……。はい、パンフレット」
あ、意外とあっさりした感じ。まあそうか、俺はどうでもいい男だ。
アリサからはパンプレットと、ほかの劇団の広告などまとめた10枚くらいの紙の束を渡された。
演劇は時代劇の冒険活劇のような設定だった。笑いあり、アクションもあって飽きさせない。
ただ、2時間ずっとパイプ椅子に座っているのはきつかったけど……。
そして劇中、宴のシーンで村娘たちがダンスをするシーンがあって、そこではアリサも出演して、ダンスを披露していた。
劇が終わり、帰り際、劇団の人たちが受付の前に立っていて、関係者と喋ったり、お客さんに挨拶をしたりしていた。
おつかれさまでしたー、とか、ありがとうございましたー、という言葉が飛び交う。
アリサも立っていたけど、ほかの人と話していたので、俺は「じゃ」と一言挨拶して、ホールを後にした。
「ヒロト君」
1階に行こうとエレベーターを待っていると、アリサがやってきた。
「演劇、好きだったなんて、知らなかった」
いつも髪もメイクもばっちりで、お洒落な服を着ているイメージのアリサも、今日は黒いTシャツにデニムという格好で、メイクもいつもと違う感じだ。
だけどやっぱり可愛い。
「最近ちょっと演劇に興味がでてきてさ。で、なんとなくふらっと観に来ただけ」
「そうなんだね、ちょっとびっくりした、ストーカーかと思った」
ん? 冗談なのかな? 笑って良いところか?
俺はあいまいにほほ笑んだ。
「演劇、やってたんだね」
「うん、これ、あげる」といってチケットをくれた。
「それで次回から10%引きになるから、良かったらまた来てね」
「うん有難う、ダンス、かっこよかったよ」
「うん、ありかとう」
俺がニコリと笑うと、アリサも笑った。
なんかいい感じだ。




