奴隷の購入と追い剥ぎ
遅くなりました。
仕事との両立って思ったよりも難しいです。
それから先は話がスムーズに進んだ。
金貨2枚を目にしたクソガキ、もといトロイはモカに興味を失ったのかわりとあっさり執事に奴隷印を消す様に命令していた。
しかし、執事の話では奴隷印は彼女から消えていたらしい。
「首輪だけで無く、奴隷印まで消えていました。
急いでいますので主人には黙っておきますが、これは貴方のスキルですかな?」
「・・・まだ、わかりません」
耳元で囁く執事に対して曖昧に答えるがまだ自分自身でさえよく解ってないのだ。
「そうですか。・・・本日は我が主人が迷惑をお掛けしました。失礼な態度を取ってしまったことはお詫びいたします。」
そう言って執事は深く頭を下げ謝罪をしてきた。
「あー、いえ此方こそ貴方の主人にクソガキなんて失礼な呼び方をしたのは申し訳無く思ってますので。」
「いえ大丈夫ですよ。それより、本当にあんなにあんな大金をよろしいのですか?」
「自分達の好きでした事なので、あまり気にしないでください。」
「・・・立派な方々だ。・・・それでは失礼します。」
最後に一度笑顔を向けると執事は主人と2人の護衛と共にその場を去っていく。
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「肝が冷えるってこういうことを言うんでしょうね
。」
「まったくだ。」
4人が去った方向を見て悠哉とゆとりは溜息を吐く。
「あの執事何者ですか?」
「ステータスは隣のマッチョ男と比べても異常だったよ。」
「あの足運びといい、重心のかけ方といい、弱点どころか隙を見つけるのも難しいですね。」
「ゆとりさんが隠し持ってた苦無、多分気付いてたよね。」
「100%気付いてましたね。わたしが手に持った瞬間微妙に腕が動いてました。」
忍者であるゆとりは勿論だが俺だって武術・剣術の心得がある為、執事のセスの立ち振る舞いに驚きを隠せないでいた。
「でも、さすがファンタジー。あれだけ強い人がまだ一杯いるんだろうな。」
「そうでしょうね。・・・さて、悠哉さん。」
「ん?」
「彼女、どうするんですか?」
ゆとりの目線の先には先程金貨2枚で購入した獣人の女の子『モカ・ラーヴァンティア』が申し訳なさそうな様子で立っていた。
「・・・どうしよう」
「・・・よりにもよって異世界初めての買い物が"人身売買"いえ"奴隷の購入"とは恐れ入ります」
「ぐッ!?」
「今、日本に帰ったら即☆逮☆捕てすね。」
「ガハッ!?」
「学生の身でありながら犯罪者とは」
「・・・ゴバッ!?」
「・・・あのー」
言葉による急所攻撃に顔を青くする悠哉。
ゆとりはその様子を見て表情は変わらなかったがとてもスッキリした様子でモカの方を向く。
「・・・とりあえず、移動しましょう。」
「かなり注目されてるしな。」
「・・・すいません」
「君のせいじゃ無い。」
そう言って俺とゆとりさんは静かにアイコンタクトを取り、モカと共に路地裏へと移動を始める。
路地裏を選んだのは周囲から隠れるのが1番の目的だが、もうひとつ
「あのー」
早目に歩を進めながらオズオズといった感じでモカは話し掛けてくる。
ずっと拘束されていた割には息一つ切れることなく着いてきているあたりは流石獣人だと思う。
「後ろから3人、追い掛けて来てますよ?」
「気付きましたか。」
「?お気付きになられていたんですか。」
「ああ、勿論だ。あんな分かりやすい視線を向けておいて気付かないわけがない。」
実際、モカの言っている3人組は街の入り口くらいから追い掛けて来ていたが人通りの多い道を移動していた為か目立った行動はしてこなかった。
しかし、
「ちょっとだけ彼等に様が出来まして、来てもらうことにしました。」
「様とは?」
「『殺る側は殺られる覚悟が必要』だという事を教えようかと思って。」
「・・・へ?」
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「ほら、急げよ!」
「そ、そんなこと言われても・・・おいらもう疲れたよ」
俺達3人は路地裏を走っていた。
それは街の入り口で目にした随分と高級そうな服を身に付けた2人組(今は3人だが)を追い掛ける為だ。
「奴らを見失っちまう!」
「で、でもあいつらこっちには気付いて無いんじゃ?」
「馬鹿が、奴らは大通りから隠れるようにこの裏路地に入ったんだぞ。逃げる為に入り込んだに決まってるだろう!」
「おしいですね。」
「何がだ!?」
「何故そこで『逃げる為』では無く『誘き寄せる為』だと考えなかったのです?」
「そ、それは、あんなガキどもに俺達が負けるはず無いからだよ!」
「そうだ。兄貴の言う通りあいつらは俺達が怖くて逃げてるに決まってるんだよ!」
「あ、兄貴?」
「なんだ!?」
「お、俺達、今誰と話してたんだ・・・?」
「「「・・・・・」」」
その場に一時止まりお互いに顔を合わせる。
『誰と話してたんだ?』
その答えは両隣の2人からは返って来なかった。
代わりに
コツ、コツッという靴が石造りの地面を叩く音が響いてくる。
その音は徐々に大きく鳴り響き、途中で鳴り止んでしまった。
俺達は背中から感じた薄ら寒いものを感じながら音のした方向、即ちここまで俺達が追い掛けて来た奴らが逃げた方向へと視線を向ける。
そこにはピンク色の髪をした少女がいた。
「ひっ!?」
その少女の姿を見て仲間の1人である『ドーセ』から恐怖の声が漏れる。
そしてその声に感化されたのか『ルー』までもが後退り、近くにあったゴミ箱をひっくり返してしまう。
「お、おいドーセにルー、ビビってんじゃねぇぞ!?」
「で、でもランの兄貴、あ、あいつ気味悪いですよ!?」
「い、今あいついきなり現れましたよ!?」
それは俺も感じた事だ。
このピンク色の短髪の少女、街の中を尾行している時にはかなり目立つ目印だった筈だ。
ほとんど一本道のこの道、多少薄暗かったり、物があったりもするが視界がゼロになるほどでは無い。
にも関わらず、今目の前にいる少女はいきなり目の前に現れたのだ。
「・・・お、おまえ、何者だ!」
「その発言、小物臭がしますね。」
「な!?」
「今のやり取りといい、これまでの行動や会話といい、先程の執事さんとの緩急が激し過ぎますね。」
「そう言ってやるなよ。」
「「「!?」」」
言いたい放題の少女の隣に同じ様に現れる男。
年齢は俺達とあまり変わらない様に見えるが、俺達を前に平然としている様に見える。
「あの執事さんの方が企画外に強いんだろ。多分、一般人ならこれくらいが平均なんじゃないか?」
「て、てめぇら・・・」
こいつ等今オレたちを一般人とよんだのか!?
しかも執事っていうのはこいつ等が奴隷を買った時にいたあのジジイの事だろう。
あんな老いぼれに俺達が劣ってると言ったのか!?
「てめぇら、金を出せ!!」
「「ら、ランの兄貴!?」」
「ビビるな、ドーセ、ルー」
そう言って、俺は懐からナイフを取り出す。
「いいか、1度しか言わねぇ、さっさと残りの有り金を寄越せさもねぇとその綺麗な肌に傷を残す事になるぞ!」
「「・・・・・」」
俺がナイフを男の方に向けると2人もナイフを取り出し構える。
これまでも何度か金を持ってそうな奴から金を奪った事はある。
そして大体の奴はナイフを突き付けると「命だけは」
と金を出してきた。
しかし、
「いや、素人が振り回す刃物程度で傷なんて負わないから。」
「・・・良い度胸してんじゃねぇか!!」
俺は真っ直ぐに男の方へ突っ込んだ。
「死ね!!!」
そしてあと一歩踏み込めば刺さる、というところで手元からナイフが消失した。
「・・・は?」
そして、ナイフが無いと認識した次の瞬間には俺は男に地面に組み伏せられていたのだ。
手を後ろに回されて身動き1つ出来ない。
「・・・はぁ!?」
「はい、大人しくしててな。」
「て、テメェ、イデェ!?」
後ろに手を回され拘束しているのか、少し動いただけで腕が悲鳴をあげる。
「大丈夫だよ、大人しくしてたら痛い目には合わないから」
「くそ、ついてねぇ!こんな細い金持ちのガキがなんでこんなに強いんだよ!?」
「ガキって同じ歳じゃないか。それにさ、『人を見かけで判断してはいけない』これは大事だよ?」
「う、うるせぇ!」
「あとさ、『ついてない』って言ってたけど俺の方に向かって来たお前はまだ運がある方だよ」
「は!?お前何言って・・・?」
押さえられている為、身体の方は動かないが首だけは辛うじて動かすことが出来た。
男の言葉が気に掛かり、仲間の方に顔を向ける。
2人共うつ伏せに倒れていた。
「・・・ドーセ?・・・ルー?」
2人からはなんの返事も返ってこない。
声を掛けてもピクリとも動く事は無かった。
そんな2人を見下ろしているピンク髪の女は両手に2人が持っていたはずのナイフを持っている。
その刃先には血の様に赤色の液体が付着したいた。
よく見るとドーセの首辺りからも赤色の液体が流れているのが見えた。
「ドーセ!?ルー!?」
声を大きくして再度呼んでみる。
しかし2人共全く反応が無かった。
「さて」
「っ!?」
ピンク髪の女はゆっくりと俺の方を向く。
その冷たい視線は俺を静かに捉える。
「お、お前、俺の仲間に何をしやがった!?」
「・・・・・」
「ま、まさか・・・」
もう死んでいるのか?
そう聞こうとしたが恐怖の為か口が動かない。
代わりに身体が震えてくる。
"恐怖"この言葉の意味を今俺は本当に理解した。
そして、そんな俺に向かって女はゆっくりと一歩づつ近づいてくる。
「ひっ!?」
恐怖で声が漏れてくる。
逃げ出したいが抑えられている為動く事が出来ない。
俺の目の前で足を止めた女の手には2人のナイフが握られていた。
「大丈夫、あなたもあの2人の様になるだけですよ。」
「く、狂ってる・・・」
最後の抵抗にそんな言葉が口から出た。
そして女は俺の首に冷たい刃を当ててきた。
「た、助け!」
声を出そうとした瞬間に首に痛みが走る。
首を切られたらしい。
痛みは一瞬だった。
意識が遠退く。
薄れ行く意識の中長年一緒に過ごして来た仲間で唯一の友だった2人に視線を向ける。
『・・・もし、奇跡的に生きていたら今度は3人で真面目に生きて行こう。
そうだ、俺もドーセもルーも小さい頃は冒険者に憧れていた。
3人、で、ぼう、け、ん、しゃを、は、じ、め、、る、、の、、、も、、、わ、、、る、、、、くな、、、、、』
そして俺は意識を手放し暗い闇へと落ちた。
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「まぁ、死んでないんですけどね」
「・・・生き残る為とはいえ、かなり罪悪感を感じるんだ」
「・・・私もです」
俺の言葉にモカが同意した。
そう、俺達はあの3人組を殺してはいない。
あくまでも眠らせただけだった。
具体的にはゆとりさんが城壁にいた門番に使った即効性の睡眠薬と同じ物だ。
「ひっくり返ったバケツから赤色の液体を見た時には冷や汗ものだったが。」
「偶然とはいえ、ナイスタイミングでしたね。」
「・・・でも、本当に良かったんですか?」
「何がです?」
「いえ、あの3人から服をいただいた事ですよ。」
「それが目的でしたから。」
そう、俺達があの3人にわざわざ接触したのは彼等から服を拝借する為だ。
この街に来てからやたらと周りに注目される。
その原因は自分達の格好が大部分を占めていたからだ。
珍しい格好があれば目立つものだ。
なので今はあの3人の服をそれぞれ着用している。
「・・・でも、裸で放置は流石に可哀想な気も。」
「そのまま警備の人に引き渡したので問題無いかと、それに強盗としては通報していませんし。」
「状況的には『仲のいい3人組が泥酔の上路地裏で爆睡。その後善良な市民が偶然に発見した3人を通報した。』そんな流れになるな。」
「まぁ、そうでしょうね。」
「そんな都合良く行きますか?」
モカは不安そうにしていたがあの3人の手元には路地裏にゴミとして置かれていた酒瓶を握らせている。
その数分後、服屋にて他の服を買っている最中、窓の外を見ると全裸の状態で連行されている3人組が目に入ってきた。
「あらやだ、またあの3人なのね。」
「酒に飲まれるなんて珍しいわね。」
「・・・随分とお粗末な物をぶら下げてるわね(笑)」
「「・・・ぷっ!(笑)」」
その様子を見ていると、窓近くで話していた奥様方のエゲツない会話が聞こえてくる。
「警備の人達、せめて布くらい掛けてやってもいいんじゃないか!?」
やっている事は公開処刑だった。
道行く人々の反応はそれぞれだ、男達は同情の眼差しを向け、女達は目をそらしたり興味津々に眺めていた。子供達は親に目を隠されている子以外は大笑いしている
手錠をかけられた彼等は『さっさと歩け』と言われるかの様に連れていかれていた・・・全裸で。
「・・・これなんて良さそうですね。」
「そ、そうですね、動き易くて・・・」
罪悪感からかゆとりさんもモカも彼等から目を逸らし服を選び続ける。
俺は彼等に視線を戻し心の中で謝罪をし、自分も服を選びを再開した。
しばらく後になって、この『イラの街』には『悪い子に忍び寄り警告を見せるピンク髪の死神』の噂が広まっていった。
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