作戦(サプライズ)を遂行するには、静かに密に行動をせよ!
K国の財閥との裁判の最初の判決で、支払いを拒否続け、無視を決め込んだ頃の12月の中旬、クリスマスに桜や母ちゃんズにどんなプレゼントをするか、考えていなかった事を思い出した時、お母ちゃんが朝食の時に、桜と楓さんの前で俺に一言言った。
「勇次郎、あんた今『どんなサプライズをしようか?』って考えているでしょう?
サプライズはやめなさい、あんたの場合、丸わかりだから、こっちの方がアンタに気を使うから、今後一切サプライズ自体やめなさい。
それとクリスマスプレゼントも、桜さんだけにクリスマスプレゼントをあげて、私達にはケーキだけでいいからね。」
相変わらず俺の心を読んで先手を打ってくるね。
でも何故だ?なんで俺の考えがわかる。
はっ!まさかとは思っていたが、お母ちゃんは心を読むスキルを持っているのか?
いや、スキルはダンジョン限定だし、俺と同じく『スキル使用限定解除』を持っていなければ使えないし、そもそも、心を読むスキルなんてあるのか?
「いや、あんたの顔に書いてあるのよ。
表情と態度でこう考えていますって、体中から漏れ出ているのよ。」
えっ、そうなのと桜と楓さんの顔をみたところ、二人共俺の考えがわかっている感じであった。
そう言えば子供の時から、俺が何も話していなくても、相手が俺の考えを先回りして答えている、そんな局面が幾つかみられる事もあった。
あれ?そうすると店長だったアイツは、俺の考えを理解していたはず、そうするとアイツは俺が苦しんでいるのを分かっていて、パワハラを続けていたのか。
まあ、今は桜という嫁さんがいて幸せだから、アイツの事なんてどうでもいいけどね。
「勇次郎、クリスマスイブは、桜ちゃんと東京でデートをしてきなさい。
マンションで泊まって次の日の夜は、家族でクリスマスパーティーをしましょ。
その日は長田さん達には、マンションでの護衛は断っておいたから、遠慮しないでね。
それと移動にはダンジョンは使わないで、新しい車で行くこと、いいわね!」
新しい車?
やられた!そういう事か!
12月19日の大安、平日とはいえ12月の忙しい中、葛生市に一番近い東京の江川区にあるヨーロッパ車直営店のディーラーから、専用トラックに載せて俺好みの赤色のガルウイングの高級スーパーカーが、ナビをはじめ便利そうなメーカーオプションやディーラーオプションが、フル装備で取り付けられた状態で納車された。
何か月か前に、あんちゃんから色々な車の話の中で、どんなスーパーカーが欲しいとか、どんなオプションがいいとか、自然の会話の中で話していたのを思い出した。
あの時は、あんちゃんがスーパーカーを買うのかと思って、あんちゃんの好きな車はこうだとか、俺のすきな車はどうだとか、根ほり葉ほり聞かれていたのを今の今まで、すっかりと頭の中から抜けていた。
その日は、あんちゃんが勤め終わりの午後から、会社の作業着を着たまま内に来たので、変だなと思っていたら、すぐ後にトラックが我が家の前の道路に止まった。
荷台の上にはシートが掛けられて車だとは分かっていたが、ディーラーの営業マンが運転して庭先に乗り入れて、車の鍵を桜に渡してから、皆の見ている前でカギを桜自身から渡されて、初めて俺へのプレゼントだと分かった。
二人のディーラーの人から運転の仕方や注意点、ガルウイングでドアを開ける時の良くあるトラブル事例などのエピソード、タイヤは規格がどうとかオイル交換や車検は当店にお任せくださいとか、車のトラブルが発生したら電話をくださいとか、名刺を渡されたら二人が社長と支店長だったりして驚いたのだが、二人はサイン色紙を桜から貰って嬉しそうにしているのを見てとれた。
良く見れば俺と桜と同世代に見えたので、もしかしてと尋ねてみたら、案の定、十代から二十代は桜のファンで、しかも、社長の方は親から受け継いだ稼業だったので、昔から生活に余裕があったおかげで、桜の東京近郊の主要なコンサートは殆ど行っていたらしく、ファンクラブの2桁ナンバ会員だったそうだ。
社長は当時の会員証を持参して見せてくれ、俺は実家が農家だったので、コンサートに行ったことがないと羨まそうに言ったら、桜本人のハートを射止めた人がなにを言っていると言われた。
ディーラーの二人には桜から、桜と夫である俺の個人情報は絶対に流さない様に注意されて、二人とも高級スーパーカーを取り扱っている為、ユーザー情報の情報漏れは当社の信用にかかわる事なので、十分に注意しますと、言質を頂く事が出来た。
彼らは何も言わなかったが、桜が兼業農家に嫁いで夫にプレゼントしたと思っているんだろうな。
夫として、男としてのプライドが少し揺らいだが、これも家族を守る為と割り切り、今は思わぬ妻からのサプライズを満喫する事にしよう。
話に出てくるスーパーカーはFではなく、Rの方だと思ってください。




