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時は金なり、沈黙も時には金なり。

グラハム・ベルが電話を発明した時、タッチの差で歴史の影へと消えていった人物がいる程、特許は膨大な利益と名誉をもたらすが、ダンジョンのドロップアイテムに置いたは国際的な取り決めで、ドロップアイテムに関しては特許そのものが、殆ど認められていない。

何故ならばドロップアイテムその物が、地球上の科学では作る事が出来ない事が最大の理由で、解析で得た情報その物も、発見・発表は、その国の名誉になる程度で、「良く見つけてくれました。今後も期待します。」程度の評価で、事実、日本はダンジョンの魔物の情報や攻略法、称号やスキル・魔法の分析を、世界で最も公式に発表しているが、それによって莫大な利益を得た事実はなかった。


今回のK国の財閥のドロップアイテムであるアイテムボックスカードの解析によって、使用されている素材がエルドラとミスリルが材料としてつかわれている事、空間属性が付与されたドロップアイテムである事を、K国の特許庁に出願しているのが、K国の特許庁がK国国内に限り有効として認めたのが、今回の裁判の結果に繋がったと言っていいだろう。


「それでこの判決ですか。」


小さい溜息をついた俺に、手元に寄越した資料を見ながら、八王子のマンションのリビングで朝倉さんは、簡単に説明してくれた。


「はい、もしかしたら、こういう判決になるのではと思っていましたが、本当になるとは思いませんでした。」


朝倉さんは、俺の様子を伺いながら説明を終えた。

K国の地方裁判所の判決の結果は、アイテムボックスマスターは、これまでの売り上げの3%を特許使用料として財閥に支払う事、今後のK国への輸出分に関しては、売り上げの5%を財閥に支払う事であった。

但し財閥から日本へのアイテムボックスの輸出は、向こう10年間は輸出しない事で、アイテムボックスマスターの利益を保護する事であった。


「はん!馬鹿馬鹿しい!

大体、彼らがアイテムボックスを製造して販売しているなんて聞いた事も無いけど、それに日本への輸出分って言うけど、俺が作ったアイテムボックスは指定設定されたダンジョン専用だ!

誰が使えもしない物を買うと言うんだ!

それとも何か!ドロップアイテムの、たった一つしかない4Mアイテムボックスを、売る事が輸出とでも言うのかな!

は~あ、全く阿保らしくて話にならないね。」


「それで村田さんはどうするんですか?

念のため確認しておきますが、支払いをしたとしても村田さんや我々には損失はありません、結果的に支払いの負担はK国の購入者が負う事になるだけです。」


一通り愚痴を言って落ち着いた俺に、確認の意味で聞いて来たが


「1銭も払う気はありません、まあ、K国が関税として設けるんでしたら、価格に上乗せするだけですから俺は構いませんが、俺が気に食わないのは、俺が命を懸けてフェニックスとミスリルドラゴンを討伐して、手間を掛けて作っている商品に特許料の名目で、K国国内限定分とはいえ俺の収入の半分近くの金額が、何の係わりのない財閥が簡単に利益をえる事です。」


「では、上告しますか?」


「いや、しませんよ、放置という事でお願いします。」


俺の一言に一同が驚いている顔をしてきた。


「どういう事でしょうか?

判決を受け入れるという事ですか?」


俺はニカッと笑いながら、


「半分だけ正解かな、お金は一銭も支払いませんし、払う必要もありません。

文字通り放置ですよ、朝倉さん。

あ、そうだ、朝倉さん、もし相手方が国に支払いを要求してきても、この問題に国は係わらずに支払いを拒否して、支払いの要求は俺にしてくださいと言うスタンスでて下さい。」


「しかし、それだと村田さんに損失が出るのでは?」


「その心配は無用です。

多分、この件は皆さんが思っているより早く、結果が出ると思いますよ。」



俺が今回の判決は、もしかしたらと思っていた節があった。

俺のお母ちゃん、村田光子の実家は宇部市の郊外の、ハウス栽培で生計を立てている苺農家で、お母ちゃんの亡くなったお父さんつまり、俺の爺ちゃんは100歳近くなった現在でも元気でいて、農作業の中心はお母ちゃんの兄ちゃんである、俺の叔父さんが家督を継いで頑張っている。

爺ちゃんは若い頃は、地元ではなの知れた苺農家で、爺ちゃんが戦後に苺栽培を始めて、20年以上掛けて品種改良をした苺は、当時、日本国内で賞を取ったもので大変好評だったそうだ。

そんな爺ちゃんが昔お世話になった、九州の苺農家の人の紹介で知り合った、K国の苺農家から種を分けて欲しいと言われたので、商品化をしない事、自分の家で消費する分だけ栽培する事を契約書に書いて、渋

々、種を分けてあげたそうだ。

所が10年と経たずに爺ちゃんが作った品種が、K国中に広がって日本に輸出するまでになってしまったそうだ。

それから5年位、裁判で争ったのだが結果は日本には輸出しない事で判決は下ってしまったそうだ。

実家のお父さんが一番苦しい時に、村田家に嫁に嫁いで新しい家に馴染む為、俺達兄弟の子育てに奮闘と、お母ちゃんなりに忙しかった為力になれなかったよと、以前、お母ちゃんが言っていたのを高校生ながら覚えていた。

その後は別の苺農家の人が作った品種が、全国的に大好評だった時に爺ちゃんは、自分の体験を生かして種の提供や、商標権の取得などを農協を通じて行い、また地元の苺農家では、爺ちゃんの件が教訓となって苺農家全体で防衛策を取るようになった。

近年では、ある地方の果物の事で、爺ちゃんの時の似た状況が起こったのをニュースで見て、爺ちゃんが苦労してきたのを見た叔父さんが、憤慨していたのを思い出した。


マンションでの会合の後、我が家に戻った俺は、爺ちゃんの事を桜や楓さん、護衛の皆に話した。

詳しい話は、俺の話を補助する形で、お母ちゃんが話してくれた。

楓さんも県北の農家が実家だったせいか、亡くなった楓さんの実父から聞いた事があったみたいで、まさか、お母ちゃんのお父さんの話だったとは、と驚いていた。


俺がK国の財閥に対抗する手段は実は簡単で、

一つ、お金を一切支払わない、

二つ、K国からの発注分のアイテムボックスの優先順位を一番最後にした。

たた、これだけである。

念のためにいって置くが、注文を拒否したのではなく、注文を受けるけれども常に優先順位を最後にするだけである。

これはアイテムボックスの特許は自分たちの物と主張した、財閥のK国の国内シェアを維持してもらう事と、特許を持っているという事は作れるという事でもあり、わざわざ、俺が無理をしてまでK国国内に輸出する必要はない、ただ、わざわざ海外のメーカーである俺のアイテムボックスが欲しいというユーザーの意思を無視する程、俺は心が狭くはないので注文だけはうける事にした。

だけど常に優先順位は最後尾、現在のところ5年先まで待っていて欲しいと思う。


俺からのコメントが組合から発表された時、真っ先にK国国内から憤慨の報道がなされた、テレビではK国の一般人の俺への否定的な意見が多く、日本国内では野党のオバサン議員が過去の謝罪ウンチャラとか、国会でも俺への追及をウンチャラ言っていたが、俺は最初の意見以外は沈黙の態度をとって、いつも通りにアイテムボックスを作り優先順位を守って組合に納めていた。

K国以外の国は俺が今までと変わりなく、アイテムボックスを作り続けているので、寧ろK国分のアイテムボックスの数だけ優先的に早く手に入れる事が出来たので、ネットの掲示板ではK国の財閥とK国の地方裁判所に礼を言っている、K国以外のネットユーザーの意見が多かった。


日本国内の国会議員の反応だが、野党は某大国やK国や北T国に謝罪云々を相変わらず言って、俺からの反応を期待しているようだが、俺の父方の爺ちゃんは、大戦時に長男で身長が小さすぎて兵に徴兵されず、母方の爺さんは赤紙が来た時には、今でいうインフルエンザらしき大病で高熱だった為、徴兵却下されたらしく、戦争には出兵されずにすんだそうだ。

つまり戦後20年以上たって生まれた俺から見れば、俺が謝罪する必要はないかな?

俺が生まれる前の事を言われても、それが今の俺とどんな関係があるの?

したがって俺は沈黙が一番と判断し続けた。


その内に俺はK国の事をインターネットやテレビでの情報を聞かない様にして、チャンネルを変えたり消したりして、無視し続けてきた結果、遂にK国の財閥が折れたのだが、俺自身は本当に敢えて情報をシャットアウトしていたので、長田さんから聞かせられるまで1週間程、本当に知らなかった。


結局、財閥はK国政府と国民からの圧力で、裁判所に上告して異例の早さで、俺への支払い義務やアイテムボックスの特許の無効がなされた判決となった。

所が俺がいつまでも沈黙し続けた為、K国政府はドロップアイテムの特許に係わる全ての条件を国際レベルと足並みをそろえると発表した段階で、ようやく長田さんから俺はK国の事を知った。


新聞やテレビで報道されて事実を確認した後、俺は組合を通じてアイテムボックスの注文の優先順位を元に戻した旨を発表して、ようやく騒動は終結した。




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