職業選択の自由、アハハン!職業選択の自由、アハハン!
ある一定の年齢層なら分かるサブタイのフレーズでした。
日本中の国家機関の強化用建築機材の材料であるミスリルを、アイテムボックスの製作を一時的に中止をして、納入期日に間に合わせたのだが、何故か組合から俺にクレームがあった。
「つまり、俺がアイテムボックス製作を停止してきた事が問題だと?」
「はい、組合の一部の官僚が何故かそう言って来ています。」
何故だろう?不思議だ?
「念の為に聞くけど、なんで?」
中川さんが言うには、どうやら俺が作れる一日の製作作業量が、何となくだが、ばれてしまったようなのだ。
確かにスケジュールを調整する為、前倒しで他のダンジョンを廻って、フェニックスとミスリルドラゴンを討伐して、それらから得られる大量の金銀を確保していたのだが、それで正確な作業量を逆算して割り出した様だ。
う~ん、確かに普段は我が家のダンジョンだけで作れる量で納めているのだが、地上から討伐、回収、製作の作業は3時間位で終えて、午後は夕方の4時ぐらいまで家の畑や、買い取って俺名義になった集落の土地と家々の管理で忙しいし(?)、鬱病予防の為にノンストレスの生活で、心に余裕を持たせたスケジュールが、それがいけなかったのかな?。
ふと組合の朝倉さんを思い出して、
「朝倉さんは何て言ってましたか?」
中川さんは普段通りに答えた。
「はい、朝倉さんはアイテムボックスのスケジュールは、村田さんに一任しているので、今回の様に突発的な特注自体があった場合は、そちらを優先して欲しかったので、特に気にしてはいません。
ただ、今回に関して問題発言をしているのは若手の官僚で、実はとある閣僚の息子でして、質の悪い事に優秀な人材でして、某大学を首席で卒業して入った逸材なのですが、いわゆる苦労知らずの現場知らずでして、どうも気に入らない人間には遠慮がないので、表ざたになっていませんが、辞めさせたり他の部署へ移動させたりしています。
部下からの評判も良くなく、無理難題を与えたりして、その、村田さんに言いにくいのですが、つまり・・・鬱病で辞めてしまったり、休んだりする者もいるのです。」
ここまで聞けば、俺にも分かってきた、そいつがどんな奴なのか、どんな言葉を発して回りを不快させているのかが。
「そいつは俺の個人情報は知らないんですよね?
もし、そいつが俺の個人情報を知る事が出来るような立場になるのでしたら、俺は一切特注の方を引き受けたりしませんからね。」
中川さんは「えっ?」と言うような表情をして聞いてきた。
「あの~、村田さん、それは何故と聞いても宜しいでしょうか?」
「そんなの分かり切った事じゃあないですか、大体、そいつは現場の苦労を知らないんでしょう?
しかも、周りに迷惑を掛けて心に傷を負わせて、鬱病に追い込んだりしているんでしょう?
更にはアイテムボックスマスターが正体不明とはいえ、俺の製作スケジュールにクレームまでしてるんでしょう?
何故そんな奴を組合が懲戒にしないのか分かりませんが、俺に係わる仕事でそんな奴を当たるんでしたら、俺が仕事を引き受けずにアイテムボックスのみ製作していた方がいいと思います。」
中川さんは慌てたように携帯で電話をかけ始めた。
聴覚感知を使えば相手や中川さんの会話を聞く事は出来るのだが、俺はマナーを守る男なので興味はあるが、敢えて聞かない様にして会話が終わるのを待った。
長い会話をした後で携帯を内ポケットにしまった中川さんは、
「申し訳ありませんが、村田さん、今からダンジョン省の方へ向かっていただけないでしょうか?」
「何故?」
「実は来月、朝倉さんの下に件の人物が配属になりまして、村田さんに会わせた方が良いと、朝倉さんの上の者が申しておりまして、その~・・・。」
ふむ、俺の家へ連れてくるのは論外、そいつがどんな立場の人物かは知らないが、たしか朝倉さんは俺自身をダンジョン省に赴くのは危険だと言っていた。実際、朝倉さん自身が俺と直接会う事で、俺の個人情報が洩れるのを防ごうとしていたくらいだ。
朝倉さんの上司というのは、朝倉さんとは違って俺に対しての扱いが軽いようだ。
俺は中川さんに俺の案を提示した。
午後2時を前にして俺と警護のリーダー長田さんとサブリーダーの中川さんの3人は、西隣の勲馬県の北端に位置し湯畑で有名な津草温泉が近くにある、黒根山ダンジョンの応接室で俺はソファーに座り、長田さん、中川さんは両隣で待機をして待っていた。
ここ黒根山ダンジョンは、津草町の北部の山々でも標高が比較的高いカルデラ火山『黒根山』の頂上付近に存在している。
黒根山の火口には緑色の湖があり、火山活動が休止している現在は、観光地として湖の近くまで行く事ができる為、標高が高いが頂上付近まで有料の国道が整備されていて、ダンジョン自体へのアクセスと駐車場や集積所、警備設備に関しては問題がなかった。
ただし、この地は標高がが高い事と日本有数の豪雪地帯で有名で、冬は寒く冬の交通事故は後を絶たず、探索者の住居や宿泊施設が少ないのがネックであった。
またダンジョンの設備から住居がある場所まで、それなりの時間もかかり、冬のスキーシーズンになると日帰りの観光客も多くなり、道路は渋滞を起こしてダンジョンまでの移動時間が結構かかる。
また、町のコンビニやスーパーなら東京と同じ価格で買えるのだが、個人商店だと物によっては高くなる為、観光業に携わっているのならともかく地方ですむには、同じ県内でも平野部と比べたら住みにくい面もあった。
そんな黒根山ダンジョンの応接室で俺と長田さんと中川さんは、ちょっと変わった装備をして待っていた。
30分以上待たされた後、組合の朝倉さんと20代半ば位の背広を着たザ・官僚の雰囲気を醸し出した男が部屋に入ってきた。
二人とも部屋に入って俺達の姿を見て、一瞬目元をピクッとさせながらも、直ぐにポーカーフェイスをして座っている俺に会釈した。
「お久しぶりです。m「名前では呼ばないでください、知られたくないので、」・・・分かりました。
・・・それでは・・・マスターと呼んでも宜しいでしょう?」
「それでいいですよ。朝倉さん。」
背広をきた官僚は、そんな俺の態度が気にいらないのか、不機嫌な表情を顔に出してきた。
それでも背広から名刺を出そうとしてきたので、
「ああ、君、名刺と自己紹介はもし訳ないけどいらないです。
話を一通り終えてからにしましょう。」
改めて朝倉さんに向かって、
「ところで朝倉さん、俺を組合本部に呼ばれましたが、俺は身元がばれたらマズイと聞いていたのですが?
まあ、俺自身も組合本部とは距離をとってアイテムボックスを提供したい、と思っていたので渡りに船だったのですが、何故、今日になって本部へ来い、と言ってきたのでしょうか?」
朝倉さんは少し息を吐いたあと、
「実はマスター、その指示は私の上の者が勝手に言ったので、私は係わっていませんでした。
ですから、マスターは今まで通りでいいんです。」
すると横から男が話に割り込んできた
「朝倉さん!何を言ってるんですか!
いくら相手がアイテムボックスマスターとはいえ、一探索者ごときが我々に指図するなんて言語道断です。
それに、この男は何でも鬱病経験を盾にして、仕事をサボって日常を過ごしているそうじゃあないですか。」
男は鬱病経験をした俺が軽蔑の対象の弱者と判断したのか、俺に向かって言い放った。
「おい!貴様!大体なんだ!そのふざけた仮面とボイスチェンジャーは!
本部に呼び出されておきながら、本部に来ないで我々を、こんなド田舎の辺鄙な肥溜めに呼ぶとは、いい度胸をしているじゃあないか!」
俺には何で、この男が威張り散らしているのか、全く意味が分からなかった。
「俺と護衛が仮面と声を変えているのは、君に顔と声を認識させたくないからであって、俺が君の名前を聞かないのは、今後、君とは一切かかわる事がないからだ。
もっとも、俺は後で君の名前と役職を把握しておきますけどね。」
優しく分かる易いように言って挙げたのだが、男は更に俺に詰め寄ってきた。
「貴様!いい加減に所属と役職、名前を言え!
俺が親父に一言言えば、貴様の名前をマスコミに公表する事だって出来るんだぞ!
貴様だって今の仕事を失いたくないだろう。
そもそも、高校を卒業した一地方公務員如きが、我々、官僚にたてつく事自体が、おかしいんだ!
いくらダンジョンから新たな資源を手に入れる事が出来ないとはいえ、探索者ごときが上にたてつくとは、良い度胸をしているな!貴様!」
ここまで聞いて、男を除く全員が男の勘違いに気づいたのだが、アイコンタクトで男の言い分を、面白そうなので男を煽って見ることにした。
「ふむ、話は変わるけど、君は何でも俺がミスリルを提供する際に、アイテムボックスカードの製作を休んでいた事に、クレームがあったと聞きましたが?」
男は冷静になったのか、襟を正してから俺にのたまった。
「ふん、そうだ、貴様は以前、アイテムボックスカードを3日分、前持って納入してから休暇を取ってバカンスに行っていたらしいではないか、話では貴様は銀をミスリルに変える魔法を持っていて、だからこそミスリルを大量発注を受けても、アイテムボックスを毎日、製作して納める事が出来る計算になっている。
悪いが我々官僚を甘く見るなよ、貴様が労力を隠し通せるとは思うな。」
いや、それって以前に長田さんには話をして置いた事だから!
長田さん達は俺が現在では、2時間半で一日のノルマ作れる事を知っているから!
俺が鬱病予防で一日の労働時間をコントロールして、日常を過ごしているのは、俺の自由だから!
朝倉さんは分かっていて納得しているから!
俺が呆れて男をみている事に気づいたのか、男に何かを言おうとする朝倉さんが、話をする前に俺は男に問いかけた。
「君は結局、俺にどうして欲しいんだ?」
男は何故か偉そうにして
「簡単だ、まずは貴様の身元を教えろ!
それから今後は組合からの特別な依頼を受けつつ、従来のアイテムボックスの製作にも手を抜くな!
上からの命令には背くな!
それが出来ないのなら貴様は懲戒解雇のうえ、探索者資格を永久に失う事になる!
以上だ!」
なかなかの演説だったな、
ふと、朝倉さんを見ると眉間に指を右手の人差し指と親指で揉みながら、男の言い分のバカバカしさに、悩んでいた様に見えた。
長田さんと中川さんは竜の眼を使わなくても、仮面越しで男の言動に肩を振るわせて笑いをかみ殺していた。
「はあ、だってさ、朝倉さん、
さて、君さあ、この国には職業選択の自由ってあるのを知らない?
俺さあ、別に探索者を辞めても構わないんだけど、
君さあ、君が原因で俺が辞める事になるけど別にいいよね?」
男は訝し気に俺を見て、
「ふん、そんなこと出来るもんならして見ろ!」
よし、言質をとったぞ!
俺は探索者登録をした時に市役所にあった、探索者資格取り消し届けの用紙をアイテムボックスから、男の眼の前で取り出した。
男はその現象に目を丸くして驚いたが、俺は名前記入欄ではなく理由の部分にボールペンを置きながら、
「君!所属と役職と名前を教えてくれないかい?」
男は頭に「?」を浮かべながら、
「どういうつもりだ、貴様?」
「いや、どうも、こうも見ての通り資格を取り消す為に、理由の欄に君の名前を書かなくてはいけないでしょう?
俺は自分の意思で辞めるのではなく、君が俺に辞職しろって言ったわけだから、俺は退職して今後はアイテムボックス製作や君遭いの依頼を受けない人生を、選択せざろう得ないわけだから、その理由に君の名前を書くのが筋ってもんだろ?
それで、君の名前は?」
男は黙ったまま俺をジッと見つめた。
仕方がないので朝倉さんに向かって、
「朝倉さん、この人の名前を教えて下さい。
教えてくれたら、必要事項を書いてすぐに提出しますから。」
朝倉さんは男に向かって言い放った。
「渡辺、お前は一つ勘違いをしている。
m、いやマスターは民間人だ!
したがって我々の依頼を受ける受けないはマスターの自由だ!
勿論、アイテムボックスを我々に納ているのも、探索者を続けるのも、辞めるのも、全てだ!」
男はどうやら俺が公務員探索者と勘違いしていた事に、やっと気づいたようだ。
だが、渡辺という男が勘違いをするのも無理はなかった、レベルが高い探索者は今の所、公務員探索者が殆どで、民間人の高レベル探索者は今の所いないに等しく、俺がアイテムボックスやミスリルを破格の安さで提供している事から、公務員と踏んだのだろう。
俺がアイテムボックス製作を辞めるという事は、一体どれだけ国に損失と経済に影響をもたらすのかを理解したのか、渡辺の顔が興奮して赤かった顔が見る見る間に、顔色が悪くなり青白くなっていった。
俺は内心DONだと思いながら、続けて渡辺に質問をぶつけた。
「それで、君の名前は?」
渡辺はプライドが高いのか、プルプル体を震わせながら、自分がどうすればいいのか苦悩に満ちた表情で目をつぶって立っていた。
俺は更に言葉を続けた。
「あのさ、言いたくなければ言わなくてもいいよ。
朝倉さん、彼の所属と役職と名前を教えて下さい。」
男は俺に向かって頭を下げた。
「すみませんでした!」
俺は渡辺の言葉のニュアンスとか呼吸や心臓の鼓動とかで、下げたくもない頭を下げたことに気づいた。
「君さあ、感情がこもっていない言葉は俺には響かないんだけど。」
そう言ったら、渡辺は土下座をしようとしたのを、サイコキネシスで止めた。
「態度ではなく、謝罪の気持ち、心からの謝罪、上辺ではなく心の問題です。
俺達探索者って、魔物の攻撃の意図とか殺気には敏感でね、魔物と違って生きている人間の感情を、見る事だって出来るんだよね、その人の顔や目の動き呼吸や心臓の音なんかで、特に君の様にプライドが高い人間の悪意なんて、俺は大っ嫌いなんだよね!
もう、いいよ、君がどんな人間か分かったから、
朝倉さん、この男の様な人物は俺に近づけないでください。」
朝倉さんは俺に頭を下げて
「分かりました。
今後はこの様な者はマスターには決して近づけませんので、
今後とも我々と良き関係でお願いします。」
俺達3人はダンジョンのセーブポイントを使って、我が家に帰ってきた。
後日に聞いた話では、渡辺という男はダンジョンとは関係ない別の組織に更迭されたらしく、一から再教育して行うそうだ。
俺に係わる以前から渡辺の言動には問題が多く上がっていたらしく、親が大物政治家を笠に着て処分を免れていたとの事だった。
俺も態度がDONだったと思うが、あれはアレだったので致し方がないと思う。




