真正面からぶつかってケガをしちまいな!
いよいよ1週間後の日曜日はオークションを控えた、8月の送り盆の16日の日曜日、ご先祖様を送り出すため墓参りを終えて、市内の自宅から実家へ帰省した、あんちゃん夫婦と二人の姪っ子たちは、冷たいお茶と茶菓子を前にして、探索者であり今話題のアイテムマスターである俺に対して、姪っ子達を中心に質問攻めにあっていた。
「叔父さんは一人でダンジョンをクリアしたんでしょ?
それで叔父さんは何が出来るの?」
無邪気に質問をする次女の千春に対して、姉である百花は千春に向かって、
「千春、それだと具体的な質問になっていないよ。
叔父さんは100メートルをどれ位で走れるの?」
そんな百花に俺はダンジョンでの戦いを少し考えてから、
「そうだな、陸上競技の様に実際に諮った訳じゃあないけど、立った状態から1秒で大体200メートルは走れると思うから、大体0.5秒?」
あんちゃんは素早く計算機で計算して、
「へえ、最高速度時速700㎞以上で走れるんだ~、スゴイナ~。」
最後の方はカタカナで聞こえた様な気がするけど、俺はあんちゃんの意見を否定した。
「違うよ、あんちゃん、俺が言ったのはスタートしてから100メートルを0.5秒位で走れる話であって、
2時間位の持久走だったら計算すると、平均時速500㎞以上で走れるけど、スタミナを考えなければ9秒間位ならマッハ1.5位で動けるよ。」
あんちゃんは遠い目をしながら、
「勇次郎は『加速装置』を手に入れた。」
そこで俺は切り返した。
「あんちゃん、流石にマッハ3は俺には無理だよ。
ジョーの様な普段の動きに似た動きだって無理だ、俺に出来るのは息を止めて100メートルダシュみたいに全速力で走って出せるだけで、走った後は呼吸だって乱れるし、そんなの実戦では使えない。
あ、でも回復魔法を掛け続ければ1分くらい行けるかな?
・・・いや無理だ、呼吸するのに音速の壁を維持し続けるの俺には無理だ。
でも、もしかしたらスピード重視の肉体強化型の人がレベル300なら、強化魔法レベル5を使えば、マッハ3くらい楽勝かも。」
皆が唖然としている中、最年少の千春は続けて、
「じゃあさあ、叔父さんは鳥の様に飛べるの?」
「飛べるよ。」
「じゃあ、超能力は?、例えばサイコキネシス!」
俺は千春の体を座っている椅子ごと、フワッと浮かせてみた。
「うわ!浮かんでるよ!超能力だ!」
俺は静かに優しくそっと千春を下した。
すると、今度は百花が「私も」と言ったので、同じ様に浮かせて見せて、次は「あたしもと」義姉さんが、そして「俺も」とあんちゃんがと続けてやって見せた。
その後はアイテムボックスで自動車を収納して出して見せたり、実際に俺の今の運動能力を見せてみたりした。
夕方も近づいてきて、家で夕飯も食べて帰るとなったので、買っていた食材で、お母ちゃんと義姉さんが二人で夕飯を作り終える頃、千春が突然こんな事を言い出した。
「ねえ!叔父さんは好きな人はいるの?恋人とか、婚約者とか、ねえねえ、いるの?」
なにを言い出すんだ!この娘は?あ!でも・・
そんな俺を見て、あんちゃんとお母ちゃんはニヤニヤと笑い出し
「千春、いいことを教えてやろうか?
ふ・ふ・ふ・実はな勇次郎叔父さんの好きな人がな・・」
千春だけでなくキッチンで手伝いをしていたはずの百花まで、リビングにいる父親であるあんちゃんに近づいて「ふむふむ。」と興味深々で近づいて来た。
「前の家に住んでいるんだよ!」
百花は思い当たる節があったらしく、
「ああ!やっぱり桜さんが好きだったんだー!」
千春は初耳だったらしく
「えっ、そうなの?知らなかった!
で、で、叔父さん!いつ結婚するの?プロポーズは何て言ったの?
ねえねえ、おしえてよー!」
テンション高い千春に俺は
「いや、プ、プロポーズどころか告白もしていないよ。」
「えっ、まだしてないの~。
叔父さんって意気地なし~。」
それを聞いたお母ちゃんは、さも嬉しそうに
「そうよね、千春だって、そう思うわよね。
勇次郎叔父さんって、昔からアイドルだった桜ちゃんのファンだったのに、桜ちゃんを助けて、借金まで変わりにお金を出してあげたのに、しかも、自分の近所の持ち家にまで住まわせてあげているのに、まだ、『好きです、付き合ってください』の告白までしていないのは、おかしいよね?」
今度は、お母ちゃんまで千春みたいな、おかしなテンションでのたまった。
「そうだわ、いい機会だから勇次郎!あんた今から桜ちゃんに告ってきなさい!
私が桜ちゃんを、あんたが今から用があるって呼んであげるから!」
「な!何をいきなり!」
「じゃあ、私、呼んでくるね。」
そう言って、お母ちゃんは桜さん家に走って行ってしまった。
「あのう、私に用ってなんですか?
勇次郎さん?」
それから間もなく俺は、お母ちゃんに呼び出された桜さんの手を引いて、自宅から少し離れた街道で足を止めた。
気配を探ると畑をはさんだ向こう側に、家にいた家族の他に楓さんが加わった気配が感じられていた。
この距離なら声も聞こえないと判断した俺は、みんながせっかく作ってくれた機会だと思い、俺は憧れのアイドルである桜さんに、玉砕を覚悟に「好きです、付き合ってください。」と告白する事を決心した。
俺は桜さんの両肩に手を置いて、桜さんの目を見て、
「さ、桜さん!お、俺と・・・・・・・」
年齢イコールDTの勇次郎の告白は如何に?




