功夫は一日にして成らず
売れ筋が8Mと16Mのアイテムボックスは、1個当たり組合に納めると差引支給額が平均2千万円になる、納めた商品は、最終的に俺の税金を含めて荒利率90%の暴利となり、経費を除いた純利益は国債の減債に廻される。
俺は結果的に一月余りで20兆円近く減債に貢献したのだが、何故か一部の国会議員や官僚、一部のマスメディアや有識者達から非難される。
国民の大部分は俺の行為に肯定的だが、一部の市民団体や宗教団体からは否定的な声が聞こえてくる。
何をするにも借金があったのでは、動きがとれないと思うけど、彼らには分からないんだろうか?
ここまで主に国内をメインにアイテムボックスの製作にしてきたせいか、徐々に金属の供給に余裕が出来て、国の収支も国債の発行額も前年より少なくなった。
組合からの俺への注文も段々とアメリカを中心に外国の優先順位が多くなってきた。
外国のアイテムボックスを提供する前に、各ダンジョンには最初に必ず各種類を1個ずつ無料で提供して不具合を見てもらっている。
そして思った通り各ダンジョン専用ではなく、ダンジョン共通にして欲しいと要望が上がってくるが、大体の国が麻薬の密輸に使われたり、テロで使用される可能性を、俺の意見として官房長官が公式発表を行うため、各国の国民も俺の意見に賛同してくれる為、今のところ各国の政府も沈黙してくれる。
ここ最近は百地親子の事に掛かり切りだったので、仕方なく本業を再開した。
上がりづらくなったレベルも遂に300越えをした為か、フェニックスとミスリルドラゴンを倒して大量のドロップアイテムの回収して戻ってくるのに、朝8時に入って1時間後の9時過ぎには地上空間に戻ってくるまでになった。
更に材料を分解、錬成、属性付与、アイテムボックス作成、アイテムボックス複製の一連の流れを、確認しながら間違いがない様に慎重に注文書を見ながら行い、午前10時のお茶休みを10分はさんで、大体1万個のアイテムボックスを完成させるのに午前11時には終わる様になった。
最近の俺の午後の日課は、探索者登録をした桜さん親子のレベルアップに、護衛の皆と付き添って見守っている。
我が家の前の畑の道路を挟んだ家に住んでいる百地親子だが、楓さんは実家が農家のせいもあって、以前の所有者が所有していた家の周りの畑で、お母ちゃん同様に趣味程度に家庭菜園を始めて、心が落ち着くと俺に笑いながら話してくれた。
俺の青春時代のアイドルである桜さんは、俺には意外だったが実家にいた時に農作業を手伝っていたらしく、慣れた手つきで早朝は楓さんを手伝い、午前中は2階の自室で何か作品を製作しているとの事だった。
もしかしたら近い将来、彼女の新しい作品が聞けるかもと話していたら、桜さん、楓さん、加藤さん、志田さんは、俺を見て苦笑に似た様に微笑んでいた。
「えい!」
「やあ!」
皆に見守られながら家のダンジョンのスライムエリアで、桜さん親子はスコップでスライムを倒していった。
桜さんは若返り薬を20粒飲んで23歳に若返っていたが、身長が140cmしかなく体重も以前の見た目老婆だった時の体重より1キロ増えただけで、それでも40kgに届いていない様だった。
しかも
桜さんは元々、童顔だった事もあって、見た目が高校生か下手すると百花と同じ中学生に見えてしまった。
楓さんは俺のお母ちゃんと年も近い事もあって、若返り薬を10粒飲んで若返っていた。
「検証通りにチキンハートは地下1階でレベル10になる事でしたね。」
「ええ、気配感知と聴覚感知はスクロールを使わないで、地下1階で手に入れる事が分かって、新規の探索者は無理に地下2階に進まなくなったと、組合の上も喜んでいましたよ。」
「ですが、それ以前に地下2階に進んでしまった探索者からは、苦情が凄いらしいですよ。」
「でも気配感知と聴覚感知はスクロールで比較的、手に入りやすいスキルですよ。
適正があればですが・・。」
俺は視線を桜さん親子から目を離さないまま、
「二つのスキルは多分、適正がなくても訓練で身に着ける事ができると思いますよ。
実際、俺は魔力感知、明鏡止水、魔力操作、空間感知、空間内操作などは自力と訓練で手にいれました。」
長田さんは俺に目を向けながら
「確かに我々全員、村田さんのご指導の元、幾つかのスキルを身に着けることが出来ました。
ですが、一つどうしても分からない事があります。」
「なんですか?長田さん?」
長田さんは頭を俺に下げながら
「失礼ながら我々は村田さんの過去を秘密裏に調べさせていただきました。
村田さんは格闘技を教わったり、どこかの道場に入門したりといった格闘技、武術の経験者ではありません。
しかし、先日の地上空間での模擬試合では、村田さんはTシャツと農作業ズボン、魔法、封印と言うハンデで、我々は身体強化魔法と身体防御魔法を使えたのに、全く歯が立ちませんでした。
身体強化魔法レベル5 プラス500を使った私の力、スピード、動体視力は確実に村田さんの地力を上廻っているはずなのに、村田さんの前には翻弄されぱなっしで完敗でした。
以前伺ったところでは武術入門、太極拳入門の二つの本で勉強されたと聞きましたが、それだけでは格闘技に必要な対人戦に必要な駆け引きや実践経験は得られるはずはありません。
どうか我々にその秘密を教えてください。」
う~ん、確かに格闘戦に豊富な警察官の長田さんから見ると、高レベルの探索者とはいえ魔物戦ならともかく対人戦で素人の俺に後手に廻るのは、流石に気の毒だし俺に頭を下げている事だし、よし!教えてやるか。
「ベヒモス戦から下の層、地下41階から地下50階層のエリア、つまり、ゴブリン、オーク、コボルト、オーガつまり人型魔物エリアで長田さん達が、特にコイツは!と感じたボスは何ですか?」
長田さん達は一斉に俺を見ながら、視線を桜さんたちに移しながら考えた。
俺の質問に対して最初に答えたのは、男性陣で一番若い高田さんは、
「勿論、50階層の前衛に2体のミノタウルス、後衛に攻撃魔法と回復魔法の専門としたコボルト4体、ですね。
奴らのコンビネーションとミノタウルスの物理攻撃と対魔法防御の高さと体力のタフさは、厄介極まわりないでした。」
うん、期待通りの答えだったな、
「では地下49階層のボス、白い小型オーガはどうだったかな?高田さん?」
高田さんは意外な顔をして答えた。
「白いオーガですか?
あのすばしっこいだけで、範囲攻撃魔法を何発かで近づく前に倒した雑魚ボスですか?
特に印象にないですね。」
俺は心の中で、ホームページ推奨の攻略法ではそうだろうね、と思いながら、
「じゃあ少し早いけど、桜さん達を地上の外に出て送り届けたら、俺が奴と戦っているのをみるかい?」
桜さん達を地上に送り、俺と長田さん、中川さん、高田さんの4人は俺の誘導で地下49階層へ移動して、ボス部屋に到着した。
ボス部屋に入って俺は彼らに先んじて言った。
「普段はTシャツスタイルで戦うのだけど、皆さんの手前、エルドラシリーズの鎧とレッグウォーマーだけ装備して戦います。
奴と俺の戦いを見ていてください。」
そういうな否や、俺は白いオーガに走っていった。
一瞬にして音速に届こうかというスピードで走った俺は白いオーガと格闘戦を始めた。
確かに白いオーガは魔法に対して弱いだが、
レベル300の俺が本気で拳を振るえば、確かに一瞬で終わるであろう戦いは、俺が力を落とすことによって互角にして見せた。
コイツの特長は、多種多様な格闘戦の豊富な技や駆け引きにある。
最初、コイツと戦った時には俺も気が付かなかったが、ミスリルドラゴンを倒して自由に階層を行き来できてから、俺はそこで初めてコイツが対人戦のエキスパートだと分かった。
コイツはフェニックスとミスリルドラゴンの次に間違いなく戦っているボスだろう。
勿論コイツは俺を本気で殺しに来るし、尋常ではない殺気を発してくる。
普通の喧嘩相手と違い金的攻撃は勿論、目を潰しにくるのは当たり前、拳、掌底、蹴り、体当たり、油断すると関節技でおられるかも知れない。
Tシャツ装備の手加減をした俺が『竜の鎧』外して戦いたくない相手でもある。
俺は我流の太極拳が基本で、捻糸頚、転身頚と呼ばれる体を一部を回転させて、相手の動きを受け流したり、相手の重心を崩して地面に叩きつけたり、あるいは投げ飛ばしたりし、攻撃では全身の関節を同時に稼働せて力を掌に伝え、水分を70%以上で構成された人の体なら、衝撃が波となって内部にダメージを与える浸透頚を駆使して戦った。
その中にはポリゴン格闘ゲームや格闘漫画で得た知識を活用した技もあり、それらを繰り出して戦った。
ダンジョンに入りレベルアップする以前の俺なら、使えなっかた技が多かったが、力とスピード、耐久力が超人化した俺なら思っていた以上に体得できたと思う
勿論、怪我や痛みを治癒できるようになったのも大きいが。
白いオーガは、おそらく地球上の格闘技や武術、武器・暗器術が使える位バリエーションが豊富で、奴より圧倒的な体の強さを持っている今だからこそ、こうして戦っているが、それでも自分の戦い方や有利に持っていく戦術が確率していないと、今の俺でも油断していれば死んでもおかしくない。
それに奴はあくまでもダンジョンの魔物であって、生き物とは根底が違うため、浸透頚による内部破壊は通じないが、体を使った攻撃は武器を使った攻撃と同じくダメージを与える事ができる為、素手で体の急所破壊または東部をもぎ落せばコイツには勝てる
俺は白いオーガとしばらく戦った後、アイテムボックスからエルドラソードで、切り刻んで終わりにした。
「分かりましたか、長田さん。」
長田さんは俺に僅かに警戒した目を向けながら頷いた。
「安心してください、長田さん、俺は静かに暮らしていきたいだけです。
出来るだけ揉め事は、皆さんにお願いしますし、今後もよろしくお願いします。」
長田さんは、そんな俺に苦笑して
「いえ、村田さんが平和主義者だと分かっていますし、村田さんの性格も分かってきたつもりです。
でも、村田さん、これからは我々と対人戦の練習と互いの切磋琢磨をしていきましょう。
お互いに教え教わりながらね。」
「ええ。」
未だ会った事がない松本師父、俺はこれから、この人達と強くなります。
いつか、師匠に会いたいと思います。
勇次郎はこの時点で2兆円近いお金を口座に持っているけど、この先どうするんだろ?




