伝説の女神ここに降臨
映画の撮影で地元でロケをした時、野次馬で遠目(100メートル位)で見た、広瀬すずさん本人はテレビのドラマやスクリーンで見るより、思ったより小柄で可愛らしい女性でしたよ。
かつてのトップアイドルだった彼女は、当時のプロフィールよりも小さく見える華奢な体付きをしていて、手足も骨が見えるのではないかと思う位に細く、隣の部屋から卓袱台のそばまで、ゆっくりと歩いて来た動作は、見た目と同じ老人の動きをしていた。
15歳で芸能界デビューして22歳で病気を理由に引退するまで、トップアイドルの一角を担い、シンガーソングライターの才能の片鱗を見せ、数少ないトーク番組で人柄の良さを垣間見せ、見えているのは表部分と分かっていたが、俺は、その姿、その声、その才能に魅了されつづけて早25年余り、もはや、ファンではなく一種の中毒に似た病気といっても過言ではなっかた。
「ハ、ハジメマシテ、ムラタユウジロウデス。
ヨ、ヨロシクオネガイシマス。」
何とか憧れのアイドルに会う事が出来た、俺の口から出た言葉はカタカナだった。
次の瞬間、隣にいた加藤さんが俺の背中を、バン!と強く叩いた。
「な、何をするんですか、加藤さん?」
彼女は真面目な顔をしながら、
「いえ、光子さんが桜さんに会ったら、村田さんが絶対に緊張するから、こうするようにおっしゃっていたので、光子さんのアドバイスを実行させていただきました。」
お母ちゃんの「してやったり」という顔が、加藤さんの真面目な顔から見えたのは、気のせいではないだろう。
って言うか、貴女は、そういうキャラクターじゃあないだろう加藤さん。
普段の加藤さんは基本真面目だけど、笑い上戸のひょうきん者でしょうが、
俺は百地桜本人に改めて、
「お久しぶりです、百地桜さん。
あの時は貴女だとは不覚にも気が付きませんでした。
葛生市でダンジョン探索者をしています、村田勇次郎です。
今日は桜さんに、折り入ってお話が、いえ、お願いしたい事があって貴女に会いにきました。」
「私に頼みたい事ですか?
みた所、貴方は昔のファンの方の様ですが、
こんな、おばあちゃんの姿をした私に貴方は何を頼みたいのですか?」
俺は彼女の言葉を聞いて断られる覚悟が出来た。
「実は俺が手に入れたユニークアイテムのオークションが約1か月後に行われます。
貴女に、俺のユニークアイテムの被験者と、オークションのプレゼンテーションに出演して頂きたいとお願いにしに来ました。」
すると、横から楓さんが、
「なにを言ってるんですか、貴方は桜がどういった病気か知ってるの?」
俺は楓さんに、お母ちゃんの影を垣間見えながら、楓さんの目を正面から見て答えた。
「知っています。
桜さんは遺伝子疾患による早老症にかかっていらしゃるんですよね。
確か、何年か前のテレビ番組で紹介されていました。
俺の記憶が確かなら、成人後に発症する早老症の一種で世界中の発症例では、前例の半分以上は日本人女性に多く、桜さんは20歳に近づいた頃から症状が現れて、それで22歳で引退をしたんですね。」
テレビの特番で命の神秘なだ扱われる番組で、以前、外国の早老症の子供の映像が話題になったりしたが、生まれつき子供の頃から発症した子供達は、そのほとんどが20歳前に亡くなってしまっていた。
桜さんが発症した早老症は、成人してから発症するタイプで、昔なら50歳位で寿命を迎えてなくなってしまうそうだ、近年ではある程度の寿命を延ばせるが、それでも大体60歳くらいで寿命を迎えてしまう。
彼女は現在、俺より2歳年下の43歳、以前からそうだったかもしれないが、今は更に死を間近く感じられているはずだ。
俺は若返り薬と万能治療薬を獲得した時から、十代から憧れていたアイドル桜さんを助けたいと思っていた。
「知ってるんだったら、一体、桜になにをさせるつもりなの!」
俺は桜さんに顔を向けて、
「桜さん、貴方に質問があります。
桜さんは、もしも、もしもですよ、もしも病気が治って、尚且つ20代に若返る事が出来るとしたら、つまり、20代から健康な体で人生をやり直せるとしたら、貴女は、やり直したいですか?」
桜さんは驚いた顔をした後、再び悲しそうな顔をして、
「そんな夢物語みたいな事、ある訳ないじゃないですか。
もう、お引き取り下さい。」
「では言い方を変えましょう。
出来ると言ったらどうしますか?」
「ですから、そんなこと・」
「出来るんです!出来るんですよ!桜さん!」
俺の気迫に押されて、俺の顔を正面から見なおした桜さんに
「出来るんです。桜さん。」
桜さんの目から薄っすらと涙が一筋流れたのを、彼女は手で拭って、
「もし、本当に、本当に、健康で20代に若返れるんだったら、私は本当の夢を叶えたい。」
俺は彼女が泣きやむのを待つ間、楓さんに楓さんと桜さんの現状を確認した。
「楓さん、組合から貴女方二人は、ご家族とトラブルが遭ったとか、お聞きしましたが?」
楓さんは少し怒った様に
「あいつらは家族でも何でもありませんよ。
あいつらは人の皮を被った人でなしですよ。
申し訳ないけど、これ以上は何も言いたくありません。」
俺は怒った楓さんと泣いている桜さんの二人に、若返り薬、万能治療薬の事を教え、更に詳しい話や俺の事情など少し教えながら、百地桜としてのビジネス的な祖語との内容を話した。
「なんだか、ごめんなさい、お見苦しいところを、お見せして。」
やっと、泣きやんだ桜さんは、恥ずかしそうにしていた。
俺はここで本題を切り出した。
「先程も話しましたが、桜さんを健康な体に戻して、若返らせることは出来ます。
詳しい話はここで話すのは危険だと、一応、俺の実家で詳しい話をしたいと思います。
ですが、これだけは約束します、貴女はもう一度、人生をやり直すことが出来ます。
・・失礼ですが、お二人ともここを引き払って、生活基盤を葛生市の我が家の持ち家に、引っ越してくれませんか?」
楓さんは不安そうに、
「実は恥ずかしい話なんですけど、先月と今月の家賃が払えないので、大家さんから出ていく様に実は言われていて、こちらとしては渡りに船だったので、丁度よかったのです。
村田さん、本当にあなたを信じても良いのね?」
俺は彼女達に安心させるために笑いながら、
「大丈夫です、信じてください、家賃と引っ越し費用と当分の生活費は俺が出します。
もし、借金があるのでしたら俺が立て替えるか、いや、俺が支払ってしまいますが、ありますか?」
楓さんは恥ずかしそうに、
「知っているんだったら聞かないでください。」
冗談で言ったのだが、まさか、本当にあったとは、
「本当にあるのでしたら、とっとと返してしまいましょう。」
そこから先は話は早かった。
楓さんと俺と長田さんは、俺が銀行でお金を引き出して、楓さんと長田さんは役所に言って手続きとり、借金を返済している間、残りの桜さんと女性二人が身の回りの者を、男性陣は家具と家財道具をまとめ、合流した俺が荷物をアイテムボックスを収納した。
「では大まかな話を道中の車の中で、今日中に引っ越しをおえて、明日以降に詳しい話と契約をしましょう。
では出発してください。」
話は俺が思った以上に進んで、護衛の人の協力とアイテムボックスのおかげで、その日の夕方には百地親子が我が家の前の家に引っ越しをして、家具を配置して電化製品も使えて、普段の生活できるまでになった。
俺達が引っ越しをしている間に、お母ちゃん、あんちゃん夫婦と姪っ子たちが、引っ越し祝いの食事会の準備をしてくれた。
引退して20年以上たっているとは言え、俺やあんちゃん夫婦には青春時代のアイドルだった事、また、俺達と桜さんは歳も近かった為、当時の流行者の話や、当時の芸能界の裏事情の話で盛り上がった。
俺達家族には前もって、桜さんの病気の事を話しておいたので彼女の姿には話題にせず、ごく普通に彼女と接してくれた。
翌日の午前中に俺の事情を話しを聞いた親子は、俺が世間で話題のアイテムボックスマスターだった事に驚いたが、口約束ではあったが口外しないと約束してくれた。
午後、家の裏のダンジョン内部で、ブルーシートを背景にカメラのレンズを前にして、椅子に座った桜さんは、テーブルに置かれた万能治療薬3と20粒の若返り薬を飲み干した、やがて、薬のエフェクトの光が収まると、俺の記憶にあるアイドルだった頃の、百地桜が目の前で座っていた。
その姿を見た母親である楓さんは口を手で押さえて泣き出した。
やがて、手鏡で自分の姿を見て残った手で確認した彼女は、楓さんと同じ様に両手で顔を隠して嗚咽をして、やがて号泣しはじめた。
そんな桜さんに楓さんは近づいて、やがて、お互いに抱きしめあって喜びの涙を流した。




