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9時から18時まで時給0円の仕事

日本の首都である東京都、普段なら秋葉原まで東部伊勢崎線と地下鉄日比谷線を使って、遊びにくる俺だったが、生まれて初めて自分の愛車の軽のハイローフワゴンを運転してここまで来た。

最近のカーナビゲーションシステムは優秀で、スーパーに勤めていた時に買った愛車には、後付けの某ハイエンドモデルが装備してある。

ほぼリアルタイム通信で渋滞情報が更新され、実際の交通法規を守らなければならないが、設定すれば確実に、見知らぬ土地でも分かりやすい様にナビで案内してくれる。

地元の人にとっては、ベストでなくてもベターなルートであっても。


月曜日の早朝暗いうちに出発して、早く出発して朝5時には、東京都内に入ったが街中の道は、それなりに渋滞が発生していた。

俺がダンジョン省、協会本部の入ったビルに着いたのは、省役人・協会役人が出庁する前だった為、適当な路地に車を止めて、人がいなくなったのを確認してから、車をアイテムボックスに収納した。

そこから、それなりの距離を歩いて霞が関のダンジョン省の入ったビルの近くで待機した。


一般人の来庁面会時間の午前9時になってから、俺は大きな待合席のある1階フロアで、銀行にある順番待ちの整理札発行装置に似た端末を操作して、ダンジョン協会の整理札を貰い、その時には前に50人が待っていた。

流石、東京だけあって入庁時間と共に整理券の札を発行したのに、50人もすでにいるとは、おそらく予約したりアポイントメントしてあったんだろうと納得した。


1時間待って、午前10時になろうかとした時、やっと俺の番が廻ってきた。

俺は受付の見た目が美人の受付の女性の前に立った。


「本日は、どのようなご用件でしょうか?」


俺は緊張しながら、


「え~と、とりあえず、ダンジョン協会で一番、偉い人に用があってきたんですけど。」


すると受付嬢の女性は再び、少し声に棘がある言い方で、


「ですから、どのようなご用件でしょうか?」


俺は少し女性にひるんだが、


「だから、偉い人に直接、お会いして話がしたいんですけど。」


すかさず女性は、


「では、どの部署の誰に用があるのですか?」


「だから、ダンジョン協会でもダンジョン省でも良いから、一番偉い人に内密の話、日本の経済を左右するお話。」


「誰かにアポイントを取りましたか。」


「いや、今日が初めてですけど。」


「では、少々お待ちください。」


「はい。」


う~ん、やっぱりアポイントが必要だったか、初めてだから仕方がないか。

でも、あの姉ちゃんの様子からすると会えるみたいだな、待てと言ってたから待つ。


俺は受付を待つ人の邪魔にならない様に、フロアの目立たない隅の方に移動して立って待っていた。


しかし、12時の昼飯時を過ぎても、午後2時を過ぎても、午後5時を過ぎても番号札の番号が呼ばれなかった。


「腹減ったなあ。」


朝早く家で飯を食って結局、夕方になっても呼ばれず、トイレに行くのも我慢したが、一般の人の時間を過ぎてしまい、最後の放送が終わって、受付の人も一般の人もいなくなったので、仕方無くビルを出て、人気のない路地で車をアイテムボックスから取り出し、八王子ダンジョンに向かった。


大平山ダンジョンより多くの探索者がいる、八王子ダンジョンの中に入って、地上内部のセーブポイントから、家の裏のダンジョンに瞬間移動した俺は、お母ちゃんと少し遅い夕飯を食べて、いつもの日常通り、バラエティ番組を見て、風呂に入って翌日に備えて眠りについた。


翌朝はいつも通りの時間に起きて、家の仕事を終えて、朝食を二人でたべて、お母ちゃんが作ってくれたお弁当を持って、再び八王子ダンジョンから、車でダンジョン協会のあるビルにやってきた。


ところが、この日も、次の日も、また次の日も、初日の繰り返しで、朝早くから夕方まで、いつまで待たされて、自分の番がやってこない。

とうとう、月曜から土曜まで6日間、連続して同じ事の繰り返しで、俺もイライラしてきてしまった。


日曜日を挟んで月曜日になっも、俺が呼ばれる事は無かった。


翌日の火曜日、再び朝の9時に顔なじみとなった受付嬢から、いつもの言葉で迎えられいつもの様に夕方になってしまった。

人も少なくなり6時5分前に俺は、受付嬢に聞くことにした、いや、詰め寄ることにした、出来るだけ優しく柔らかい言葉で、話すことを心掛けて。


「すみません、もう一週間以上も通っているんですけど、一体、いつになったら私の番が廻ってくるのでしょうか?」


「ですからアポイントを取っていただかないと、掛かりの者にお取次ぎする事は出来ません。」


「いや、毎日朝早くからここへ来て、夕方まで待っていて面会を求めているんだから、アポイントをとっているのと同じでしょう。」


「ですから、本人にアポイントを取っていただきませんと、お取次ぎする事は出来ません。」


「あのね、お姉ちゃん、俺は毎日、ここへ来て、トイレにも行かず、お昼も持参して、本来の仕事を休んでまで、ここへ来てるんだよ。

もう、お互い顔なじみと言ってもいいでしょう。

しかも、俺は一般人でちゃんと税金を納めて、毎日ここで来る人に迷惑を掛けない様に、立ったまま待っているんですよ。

貴方が責任者に取り継がないで、誰が取り継いでくれるんですか?」


「ですから、本人にアポイントを取っていただきませんと、お取次ぎする事は出来ません。」


「あのさ、本人、本人って、さっきから言ってるけど、一般人がそんな事出来るわけないでしょう。だから、毎日、貴方に会わせくれと、お願いしているんじゃあないですか。」


「君。」


後ろを振り向くと探索者の服をきた、若いあんちゃんが俺の肩に掴んできたが、今はコイツの事は無視だ。無視。

俺は再び受付の姉ちゃんにやさしく話しかけ続けた。


「大体、俺が、ずっといたことは、貴方だって知っているでしょう。」


後ろのあんちゃんは、俺の肩をつかんだ腕に力を加えているみたいだが、保育園の頃の姪っ子たちの肩もみ位の優しい力だったので、大した用事ではないんだろう。


「おい」


「だから、お姉ちゃんさあ、俺がアポイントを取っているって、お偉いさんに貴方から取り次いでくれよ。なっ。」


「ですから、私には、そんな権限はないのです。お引き取り下さい。」


「おい、お前、俺の話を聞け。」


後ろのあんちゃんが、五月蠅いけど俺は一週間以上、待っていたんだ。

これ以上、待たされて、いや、待てよ、夕方の6時か、そろそろ帰るか、

いや、今日はアポイントだけでも、取っておくか。


「なあ、お姉ちゃん、そろそろ、俺も帰るけど、あんただって帰りたいだろう?

あんたが責任者にアポイントを取ってくれたら、明日、出直すよ。」


「そんなことは出来ません。」


「・・なあ、お姉さん、貴方は一体、この一週間、いや、この受付で何をしてるんだい。

俺は一度も、貴方からアポイントを取る為のアドバイスも、何の言葉も掛けられていなかったよ。

俺が好きで、こんな糞冷たい人間のところへ来ていると本当に思っているんかい?」


お姉さんは何だか青い顔をしているけど、具合でも悪いんかな?

俺は受付のテーブルに手を着いて、頭を下げて更にお願いした。


「頼む、この通りだ、お姉ちゃんがアポイントを取ってくれたら俺も帰れるから。」


「・・分かりました。係の者に取り次いで置きますので、明日、また来てください。」


「本当!ありがとうございます。また明日、早く来ます。」


よし帰るか。

そうだ後のあんちゃんにも声を掛けておくか、


「あんちゃん、悪かったな、俺の用事は取り敢えず終わったから、待たせてしまって、ごめんな。」


さて、明日はやっと話に入れるぜ。

しかし、これが噂のお役所仕事か、税金が掛かり過ぎるぜ、国債が減らないわけだぜ。




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