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天才は知らない間に生まれてくる

何気ない日常って意外と難しかった。

5月の第4日曜日、公休日だった俺は、お母ちゃんに頼まれて、車で地元から40分離れた大山市の総合陸上グランドへ来ていた。

あんちゃんの長女、俺から見れば姪にあたる、中学1年生の村田百花(12)が、100メートル走と走り幅跳びで出場するので見にきたのである。

百花が在籍している地元、市立西中の陸上部は弱小とは言え、身長140cmの女子としても小柄な百花が、先輩達を抑え、更にはレベルが高いとは言えないが、葛生市の市陸上大会の女子中学生の部門で優勝をして、それなりに大きい大会に出場するというのである。

運動音痴の俺とは違って、それなりの運動神経を持つ、あんちゃんと同じく、それなりだったという明子義姉さんの娘が、両親と叔父が立った事がない舞台に立つと言うのだ、祖母として孫の活躍を見てみたいのだろう。

朝、早く起きて一仕事を終えて、グランドの駐車場が開く7時半より30分早く着き、8時の観客席の開場には、グランドの観客最前列には、あんちゃん夫婦と百花の妹の小5の村田千春(10)そして、お母ちゃんと俺の5人は陣取っていた。

観客席には他の出場選手の家族や、学校関係者、陸上大会関係者がいて、満席とまでいかないが、思った以上に人がいて驚いた。

明子さんによると、中学生の大会とは言え、県内の中学は元より、近隣の県の強豪中学校選手も出場しているそうだ。

何でも全国大会や県大会、この大会の様に比較的大きな大会には、強豪高校や大学、挙句にはオリンピック強化選手として、注目される事もあるそうだ。

百花は小学校の時はクラスでは速い方だったが、中学に入ってからは、部活で陸上未経験者の数学の顧問の指導の元、めきめきと成長して、ゴールデンウイークに行われた市の中学大会で優勝したそうだ。

そして今日は西中代表、葛生市の中学生代表として、今大会に出場したのである。


「そんなに凄かったのか、百花は」


「うん、母親の私もビックリしたのよ。特に市大会の時は驚くと言うより、目が点になったわ。」


「俺なんて、大会当日は出勤日だったから、メールで知って、その場で同僚に自慢したよ。」


あんちゃん夫婦の娘自慢を聞いた、祖母である、お母ちゃんは負けずと孫自慢を言った。


「私も百花の優勝した、と聞いた時は嬉しくて涙が出たわよ。」


なるほど、息子二人の不甲斐無さで、このような大会を経験した事がないせいか、少し興奮気味のようだ。

俺は、もう一人の姪が、地元の女子バスケットボールクラブに通っているのを思い出しながら、


「千春の方はどうだ、バスケットのほうは?」


「うん、私もすごく調子良いよ、お姉ちゃんと朝のランニングを一緒にやってるし、相手チームやクラブのみんなの動きがハッキリ見えるし、動いても前より疲れなくなった。」


うーむ、球技が苦手だった俺から見ると、とても羨ましい言葉ではないか、こんな130cm位の小さな体から、自信あふれる姿が眩しくて直視できない。


「それとコーチが言うには、私って視野が広いんだって、何となく後ろにいる人の動きが、走っている音とか、呼吸しているのが、聞こえる様な気がして分かるんだよね。」


なんと、この姪っ子はダンジョンの外で聴覚感知を使えるというのか、まさにリアルチート、いや、これが天才か、生まれて44年、初めて見たぜ。

と言った事を話したら


「コーチも、叔父さんと同じ事を言ってたよ。『俺にも村田の様な才能が有れば、高校・大学・プロと違った人生だったろうに』だってさ。」


うん、うん、分かるぞ、その気持ち、どんなに努力しても報われない時ってあるもんな。

大多数の人は凡人だから、天才や努力して才能を開花させた人には、羨望と称賛と嫉妬してしまうんだよな、最も俺の場合は、周りのみんなが対象だったけど、最後には達観して、何の感情も湧かなくなっちゃたんだよね。

いちいち、周りの事を気にしている余裕も無かったし、誰かが誰かを嫉妬して、拗らせたのを見たことがあるから、ああは、なりたくないと思ったもんだよ。


百花が100メートル走を決勝に勝ち上がった、その時にテレビの陸上競技でよく見る、デジタルのストップウォッチを見て、


「明子さん、最近の中学の大会でも、あんなのがあるんだ。」


「今頃、気が付いたの? さっきも言ったけど、ある程度大きい大会だと、ああ言った機械は普通よ。人間が測ったタイムだと、公式記録にはならないのよ。」


「スタートのフライングなんかも規定の反応速度で、すぐに分かるしな、いろいろんな陸上関係者やスカウトも多いし、3年生の選手も本格的な大会に慣れたりするのに参加しているんだろ。」


決勝戦では、8人の選手の中では1年生は百花が1人だけ、他は2年生が2人、残りは3年生の5人が、予選を勝ち上がってきた。

8人の中で百花は最も身長が低く、明らかに少し前まで小学校に通ってた女の子、と初々しかった。


「位置について、用意」


パン!


全員が一斉にスタートしする中、緊張していたのか百花は、若干ではあるが遅れたが、そこからの追い上げるスピードが凄かった。

50メートル位で先頭の選手に追いつき、更に選手を引き離し、そのまま1番にゴールラインを超えた。


「100メートル走、中学生女子の部、優勝、葛生市立西中学校、1年、村田百花さん。」


「記録、11秒66 大会新記録です。」


『うわ、百花の奴、はえー、高校の時の俺より3秒位、速いタイムで走れるんだ。』なんて考えていたら、会場中が感嘆の悲鳴だったり、なんだかザワザワした軽い興奮した雰囲気が、漂いはじめた。


「なあ、あんちゃん、周りの様子がおかしいけど、どうかしたのか。」


「いや、俺もよくわからないんだが、」


「ちょと、私が聞いてくるね。」


明子義姉さんは、そう言って大会関係者に聞きに席を立った、ほどなく義姉さんは戻り興奮気味に話しなじめた。


「百花の記録って、あと零コンマ数秒で中学女子の記録だったんですって!」


更に続けると、あの体格で1年生での記録なので、陸上競技関係者を中心に、凄い選手が現われたとの事だった。


午後の走り幅飛びでは、6メートル30cmと、これまた中学記録に、もうひと伸びという記録を出し、大会新記録を更新した。

大会終了後、あんちゃん夫婦は早くも、陸上関係者、陸上強豪高校の関係者から、沢山の名刺を頂いた。

俺はそんな、光景を見ながら一つの懸念が、頭を横切った。

もしかして、ドロップアイテムの肉を食べた効果かもしれない。


ダンジョンのに潜りレベルアップしたスポーツ選手が、好成績を出してドーピングではないかと、スポーツ界で問題になっているのだ。

何しろレベルアップするだけで、超人的パワーアップが行えるのだから、問題になるのは当然である。

とりあえず、アマチュア選手は非探索者が原則で、注意するようにとスポーツニュースでは言っていた。

ドロップアイテムのほうはと言うと、大会中に使用しても、体に残留するものでもないので、使用しても問題はない。

ドロップアイテムの食べ物の摂取は、動物実験の結果では、身体能力は向上するが、鑑定してもレベルアップはしておらず、成長の伸びもレベルアップとは違い、一定の成長でとまるので、これまた問題が無かった。


しかし、万が一、百花と千春が裏のダンジョンでレベルアップしたら不味いので、あんちゃん達には帰りに、二人にはダンジョンの事は、絶対に内緒と言う事を伝えた。


家に着いたらなるべく、ダンジョンが目立たない様に、木を周りに植えたり、つる草でカモフラージュしたり、ダンジョンの天井部分に土を盛って、雑草を生やしたりする必要があるな。

他には、ドアに鍵を掛けたり、ドアが見えない様に何かで隠したり、ドアの方に二人が行きたくなくなる様にしなくては・・・


何だか鬱になりそうだぜ。








ドロップアイテムの食べ物はドーピングではありません。

体内に取り込む魔力は一時的な物ですし、体内には残りません

例え、魔力感知で探っても、「あるのかな?いや、ないな。」と言うレベルです。


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