日本のダンジョンは恵まれている
しばらくの間、攻略の情報が公開されていなかった日本のダンジョンだったが、ここへ来て一気に公開された。東京の八王子ダンジョンが実は地下60階層を超えていたのだ。
その他のダンジョンもすでに地下40階層の下を探索しているとの事だった。組合の発表によると40階層のボスは特殊らしく、八王子の先鋭3チームを除く40階層ボス戦クリアチームが、各ダンジョンの40階層ボスを倒して、その下のセーブポイントから戻り、地元チームとセーブポイントに一緒に行くことによって、ボス戦を回避して、そこから攻略するという戦略をとったのだ。
地元チームからのプライドを、へし折るようなやり方ではあったが、さすがは公務員だけあって、お上の命令には逆らわなかった様だ。
日本には政府が把握しているダンジョンは120ヵ所あるが、海外に目を向けるとダンジョンがあるのは、海岸線に比較的近く、また山にも近く人が住む居住地域にも近い場所に、多くのダンジョンは現われている傾向にあった。
また、各国が把握して公表しているのを、数で見るとロシア約200、アメリカが約170、お隣の某大国が約100、東南アジア諸国が合わせて約150、北欧諸国を含むヨーロッパ約240、豪州諸国で約150となっている。補足するとお隣のK国は38か所と公表していて、北の国は50ヵ所としている。
勿論、中東・アフリカの他各国が、公式には発表していない物や、俺んちの裏のダンジョンの様に個人所有の物や未発見のダンジョンもあるが、その中でも日本は面積・人口と比較して諸外国から比べても恵まれていた。
現在、我が家の裏のダンジョンは、俺が単独で35階層で攻略を停滞している。
組合のホームページには一応、組合の規定を守らないで攻略してる、熟練の探索者の損失を防ぐ意味でも、一応40階層までの情報を40階層のボスを除いて情報は出している
地下31階層からは犬、狼、がメインで32階層の5メートル位の赤い虎を倒してから、33階層からは32階層のボスの劣化版が普通に徘徊して来て難易度が一気に上がった。
ドロップアイテムも、魔石の色が濃くなり更にドロップする比率が下がり、鉱物資源・ポーション類・武器・防具類のドロップする比率が鉱物資源を中心に高くなり、ポーション類、武器・防具の種類も増えてきた。
只、モンスターのスピードこそ草食動物型と変わらなったが、牙・爪と言った攻撃力と種類が増え、タフネスさも上の階層より上がり、防御力も上がったように感じる。
ホームページによると武器による攻撃も通じるが、攻撃魔法がメインにして武器による攻撃は補助的に回した方が良いと書かれていた。
「村田さんのタイプは何型ですか?」
大平山ダンジョンで月に何度かの給料を取りに来た俺は、顔なじみの大学生と世間話の中で、斎藤君に話を振られた。
「いや、急にそんな好きな女性のタイプを聞かれても答えの困るなあ、あえて芸能人で言うと昔から『百地 桜』だけど。」
「好きな女性のタイプではなくて、戦闘スタイルの方のタイプです。って言うか百地桜ってだれですか?」
「ああ、引退した昔のアイドルだよ。てっきり女の子でも紹介してくれるのかと思った。」
高橋君、斎藤君、その彼女達はのパーティーは、一般の探索者達が許可されている、地下30階層をクリアしたそうだ。
その下を攻略するのに4人だけで、攻略するのには心細いと判断した様で、高橋君は彼の同級生で、将来の国家公務員がほぼ確定している、同級生たち4人のレベルアップ待ちをしつつ、自分たちの熟練度をあげているとの事だった。
高橋君は斎藤君の会話を引き継いで、
「公式な規格ではありませんが、攻略者同士の会話でよく使わられる、戦闘スタイルの事ですよ。例えば僕は攻撃魔法と身体強化魔法を使う魔法戦士型、斎藤は身体強化魔法と身体防御魔法の戦士型、薫は攻撃魔法と攻撃補助魔法の攻撃魔法士型、玉藻君は回復魔法と治癒魔法の回復魔法士型、といった感じです。まあゲーム内の職業で話す人が多いのですが。」
なるほど、つまり某少年魔法先生漫画や国民的人気ゲーム『最後の幻想5』の職業システムの様な物だな。
「それだと俺は、攻撃方法が主に直接攻撃がメインで、アイテム魔法が回復魔法の代わりだから、アイテム戦士といったところかな。」
「やはり、村田さんもアイテム魔法の攻撃魔法化はできませんか。」
「うん、魔法レベル2を身につけたんだけどねー、よく分からない上に魔石の魔法化も、大きくなるだけで攻撃魔法としてはねー、せめて身体強化魔法が使えれば、もっと楽ができるんだけど。」
「ああ、そう言えば県警本部の石松さんって言う人が、村田さんが今いったタイプですよ、彼の場合アイテム魔法は、ポケットの代わりになってしまいましたが。」
「その気持ちは分かるなあ、魔法レベル2も使い方は分かるけど使えないから、結局、直接攻撃が唯一の攻撃手段になるんだよ。」
この時、初めて高橋君の彼女さんの白石さんが、俺に話しかけてきた。
「村田さんは他の人が魔法を使ったのを見たことがありますか?」
言われてみれば、
「いや、そう言えば動画ではあるけど、実物を見たことはないなあ。」
「もし良ければ、参考になるかは分かりませんけど、私たちの魔法を一通りお見せしましょうか?もしかしたらアイテム魔法の攻撃魔法化のヒントになるかもしれませんよ。」
「え!いいのかい?」
白石さんは高橋君に向けて
「私たちは、やる事がないんだし、いいわよね?義王?」
「うん、かまわないよ、薫。」
「じゃあ、階段を降りて安全な所でやりましょう。」
「では、私から」
地下に降りた俺達は他に人や魔物がいないことを確認してから、攻撃魔法の実演を壁に向けて行う事にした。
白石さんは右手人差し指を前に向けると、「フリーズブリット」と魔法を放った。瞬間、氷で出来た5㎝くらいの弾丸が放たれ、壁に命中した。
ん?俺は何か違和感を感じて、白石さんにお願いした。
「悪いけどもう一回、同じ魔法を今度は動作を少し力を溜めるイメージで見せてくれる?」
「かまいませんよ。」
彼女は再び同じ動作をゆっくりと行い、「フリーズブリット」と唱えた。
その後、白石さんは魔力強化魔法を、高橋君、斎藤君、玉藻さんと続けて、其々わざわざ2回ずつ実演して見せてくれた。
俺は彼らの魔法を見逃すまいと、目と魔力感知をフルに使って頭に焼き付けた。
「みんな、今日はありがとう。おかげでこの目で本物の魔法を見ることが出来る、良い経験になったよ。」
俺はわざわざ自分の為に、時間と魔力を使ってくれた彼らに礼をした。
「いいえ、私たちの魔法が少しでも参考になれば幸いです。」
「村田さん、頑張ってください。」
「頑張って、村田さん。」
俺は彼らの応援を受けて
「うん、みんなの魔法に少しでも近づける様にがんばってみるよ。本当に今日は、ありがとう。」
と彼らに挨拶をして家路に急いだ。
家路に着く俺は、彼らの魔法とドロップアイテムとアイテム魔法の事で、すぐに確認して検証する為に家のダンジョンで実験する事に頭がいっぱいだった。




