後悔は先に,フラグは後には立たない
格闘シーンは難しいですね。
分かりにくいかもしれません。
俺も顔はどこにでもいる日本人特有の特長のない醬油顔で、目尻は二重だが大部分は一重、鼻は低めで唇は普通、最近耳の周りの髪の毛が白髪が気になる。
高校生の頃は三十代に見られ、最近は小学校の同級生から言わせると苦労知らずの「とつぁん坊や」と十歳位若くみえるそうだ。
だけど、俺から言わせてみれば女性のほうが年齢不詳の人が多く、俺の様な男は世間一般から見てもやはり普通だと思う。
そんな俺だが人並みに結婚したいとは考えてはいる、結婚イベントを主催する会社でお見合いや旅行に、毎年最低1回は出ているし、口下手ではあるが話もする。だけどお付き合いまで発展した事は一度もなかった。
主催者からの女性の意見を聞くと『いいひと』で終わってしまうそうだ。女性から言わせると物足りなく感じるようだ。
「村田さん、本日はありがとうございました。良いご縁がありますように。」
今日は県庁所在地である宇宮市の会場でお見合いパーティーが不発に終えた俺は少なからず落ち込んでいた。
やはり早期退職してダンジョンの低層階で探索者としてお金を稼いでいるせいなのか、それとも結婚した場合、田舎で母と暮らすのがいやなのか、鬱病経験者で今の生活パターンを維持したい希望したのが悪かったのか、ただ単に俺の事を、生理的に受け付けないのかは分からなかったが。
現在の探索者の収入状況だが、スライムエリアは初心者や安全第一主義者が多い為、リポップする事もあって相対的に収入が少い、平均年齢も50歳以上のアルバイト感覚の年配者が多い、現在は落ち着いているが、年替わりには混んで収入が少なるだろうと組合は見ている。
10階層代エリアからは民間人ではプロの探索者が多い、収入はピンからキリまでだが、大体サラリーマンの平均年収倍以上稼ぐ人が大半だ。
20階層代エリアを探索者はドロップする鉱物資源の質が上がる為、10階層代の倍以上稼ぐ人が多いが、モンスターの強さや大きさ・迫力が違うため、ここで挫折して10階層代エリアで落ち着いて探索する人も少なくない。このエリアを探索するプロは全体の20%はいないだろう。
鉱物資源は現在のところ世界的にみて、圧倒的に新しい物が足りていない、日本などの先進国でもリサイクル業界が、がんばっているが、輸出分はおろか国内分ですら危ぶまれている。
民間人探索者のドロップアイテムの回収率の悪さもある、魔石を回収しなくても探索者は割の良い鉱物資源だけを回収しても、ドロップした鉱物資源のうち8割いや9割が回収されないでいた。
回収されなかったドロップアイテムや探索者や外からの非生命体の落とし物は、ほぼ、6時間後には、光の粒となってきえてしまう。その為、なるべく探索者達はドロップアイテムを回収しているものの、回収量が決まっているので上手くいっていない。
世界的に見て日本は恵まれているものの、いつ経済がはじけてもおかしくない状況である事は確かであった。
そういう訳で現在は人手不足の上、相変わらずドロップアイテムの値段は魔石以外、高値で買い取っているのだ。
特にポーションは一般探索者には高価なボーナスでポーション2ともなると最低でも10万から上で買い取ってもらえる。
俺の場合は基本、家の固定費と俺の小遣い程度稼げればいいかな、と思っているのでスライムエリアでの平均収入を週に1回程度で給料を稼がせてもらっている。
組合の探索者が一人一人どこまで潜っているのかなど聞かないので、おそらく地下10階代で探索しているのだろう位しか興味を持っていないのだろうか。
現在、日本の探索者は地下30階層までしか表では行けないのだが、基本的に自己責任なので実はもっと深くを潜っている人がいるので、もしかすると聞いてはいけないマニュアルなのかも知れない。
実は探索者には死者こそいないが行方不明者は出ている、日本の場合、法律上、行方不明になってから7ねんで死亡扱いとなり戸籍が消えてしまう。だから行方不明の探索者達も7年後このままでは死亡となり、その年から死者の数は跳ね上がるのだろう。
俺は車を宇宮市営の駅前の駐車料金の安い駐車場に停め、母に夕飯を食べて帰ると連絡し、車内で私服に着替えて繁華街の探索をしていた。繁華街と言っても飲み屋とか夜の大人の店ではなく、本やアニメ・映画・音楽などの取り扱っている店ではあったが。
わが県には2か所のダンジョンが存在する。一つは家の近所の大平山ダンジョン、もう一つが県庁所在地であるここ宇宮市の北西に位置し、かつての有名ブランド石材の削掘跡地に現れた『大谷ダンジョン』である。
規模は大平山ダンジョンとほとんど同じだが、ここ宇宮市の市街地や高速道路、鉄道などのアクセスの良さ、夜の繁華街の大きさ、グルメの知名度が葛生市と比較し様がない、また近くには行楽シーズンでは有名な観光スポットもあり、首都圏から日帰りが出来る温泉地の有名温泉『鬼怒温泉』がある為、大平山ダンジョンより探索者がはるかに多かった。
俺は午後9時半位に帰宅出来ればいいと思っていたので、帰宅ラッシュを避ける意味でも午後8時頃い宇宮市を国道を使って帰るつもりでいた。
午後7時半を回ろうかとした時ラーメン店から出た俺は、店のすぐ脇から怒声が響くの聞いた。見ると70代後半の色付きの眼鏡を掛けた女性と60代後半位の小柄な妹と思われる女性を、20代から30代の体格が身長190㎝位の若い男が怒鳴っているのを目にした。
若い男は酒が入っている様で、かなりエキサイトしていて、周りには男の仕事仲間と思われる、身長180㎝越えの3人の男達が賢明に押さえいた。
「毛塚!いい加減にしろ!」
「良いを醒ませ!」
「相手はおばあさんだぞ!」
「てめえ!ババア!*%$#&<>tabaア!」
周りの野次馬の話からすると、どうやら70代と思われる女性に大男が仲間と喋りながら、よそ見をしてぶつかって相手の女性が倒れたらしく、仲間の男が女性に謝罪をして、起こそうとしたのだが大男は謝罪もせずに立ち去ろうとした所、妹と思われる女性が諫めたのを切っ掛けに口論となったらしい。
口論の末、女性を殴ろうとした所を仲間の男達が、羽交い絞めにした所、大男は今度は仲間の男達を殴ろうとした所、仲間の一人が足を掛けて、3人がかりでうつ伏せの状態でおさえこまれていた。
女性の方は丁度、男達がいる所から避けにくい位置にいる上、男達のあまりの迫力に押されていて怯えて足腰が立たない感じがした。
大男は3人がかりで抑え込まれたのだが突然、
「ウガーーーッ!」
と奇声を上げたかと思ったら、3人をまとめて持ち上げ振り回しはじめた。
これは誰がどう見ても大男は探索者だと見て取れる現場だった。
大男は仲間の男達を一人、また一人と片手で投げ飛ばした時、俺はこの時、ふと女性を立たせることができるのでは思い、隙を見て女性のそばに立った。
大男は3人目を突き飛ばしたあと少し離れた俺と目が合い、さらに大きな奇声を発した。
「てめえ!$#&%*@=!!!」
俺は内心ビビリながらも後ろに女性がいたのと、男がそんなに強い探索者だと思わなかったので、男を正面から見すえた。
「あんた、逃げろ!」
男の一人が叫んだが、後ろの女性が気がかりだったので無視した。
大男は振りかぶって右コブシに体重を乗せて放ったのを、遅いと感じつつ放たれたパンチの外側に体を躱して、右手で手首を左手で肘近くの二の腕を掴んで、相手の勢いをそのまま受け流す様に足を払った。
更に後ろにいる女性に大男が巻き込まれない様に、自分を中心にして、相手の右腕を掴んだ形で投げるジャイアントスイングの様に回転して、相手をうつ伏せになる様に地面に投げ落とした。
握っていた男の手が開いたので、素早く男の小指を掴んで、小指と右腕の関節を掛けたまま男の背中を足で踏んで固めた。
男は自分の身に起こった事が信じられない顔をして俺を見ていた。
気が付けば男の仲間達も驚いた顔で、周りの人達は何が起こったか分からない顔をしていた。
そのあと仲間の中の先輩らしき男が大男の頭を殴り、正気を取り戻した男は先ほどとは打って変わり俺と女性に謝罪をした。
仲間の男達も同様に謝罪して、その場を逃げるように後にした。
「この度は本当に助けていただきまして本当にありがとうございました。」
「いえいえ、お互い怪我がなくて良かったですよ。」
今から考えると兄以外と喧嘩をしたことがなかったので正直いって、今になって急に怖くなったってきたが、姉と思われる女性から礼を言われて、俺は何となく女性に既視感を抱きつつ恥ずかしかった。
妹と思われる女性は大男に不満はあったようだが、女性が無事だったのと俺に礼が言いたかったのと、警察が入ってくるのが面倒だと思ったのか、とりあえず矛を収めたようだ。
女性達は電車に乗って家路に着くとの事だったので、駅に向かうとの事で、方向が一緒なので駅近くまで歩いていきましょうとなった。別れ際に改めて礼を言われて俺は本当に恥ずかしかった。
ビビリな俺にとって大変珍しかったこの行動が、まさか大きなターニングポイントになるとは、この時には夢にも思っていなかった。
ちょっと時間が掛かり過ぎたかな。




