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星の剣~88の輝き~  作者: 春春
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『旅の理由Ⅰ』

『人間の中には星剣に対して特殊な力を発揮する“星の民”と呼ばれる者たちがいた。星の民たちは魔剣を浄化し星剣へと戻すことができる。しかし、魔剣から発せられる魔の瘴気や負の感情に飲まれやすい。だが、星の民たちは一刻も早く戦争を終わらせるため星教徒に協力し、魔徒の鎮圧と魔剣の浄化にあたった。

 戦争も終盤となったとき、星の民の協力もあり魔徒側の殆んどが鎮圧され戦争が終ろうとしていた。そして、魔剣を全て浄化して星教徒と魔徒との戦争は終結した。

 戦争終結後、魔徒鎮圧の戦果を讃えられ英雄と呼ばれた男がいた。その男は二度と悲惨な戦争が起きないように星剣の噂を利用して神に平和な世界を願うことにした。88本の星剣を教会の祭壇に祀り神に願いを乞う。すると、星剣が輝きはじめ辺りは眩い光に包まれた-----。      -星歴書より-』


「断る。」


 少女の申し出に対してアスクは迷うことなく返事をした。アスクの反応を予想できていたのか少女はあまり驚かなかった。


「勿体ないぜアスク。こんな可愛い子の騎士を断るなんて。」


 そう言ってダリウスが横から話しに入ってきた。本心からというよりは冗談半分でからかう様に言っているようだ。しかし、アスクは


「お前はどこの誰かもわからないやつの騎士になりたいのか?そんなに言うならダリウスがこの子の騎士になればいい。」


 アスクの提案から話しの矛先が自分に向きそうになったダリウスはでとんでもない、といった顔でそそくさと後ろに引っ込んだ。

 アスクは再度少女に向き直り話しを進める。


「理由もなにもまず名前を名乗れ。話しはそれからだ。」


 アスクには少女の様子から何か焦っている様に見えた。騎士になるかどうかの話しの前に名前やどうして森で倒れていたかなど、少女の様子を考え何か情報を聞き出したいとアスクは思った。

 少女は自分が名乗っていないことに気づき、申し訳なさそうな顔をして頭を下げた後名乗りだした。


「大変失礼しました。私はエトワール・ローレンスと申します。オーベルヴィリエから参りました。今は旅の理由などをお話しすることはできませんが、とても急を要することなのです!」


 少女の名前はエトワールというらしく、オーベルヴィリエと聞いた時三人は驚き顔を見合わせた。


「オーベルヴィリエって王都オーベルヴィリエじゃねーか!地竜でどれだけ早く来ても一か月以上はかかるぞ!どうやってきたんだ!?」


 二人の抱いた疑問を代弁するようにダリウスはエトワールに問いかけた。


「オーベルヴィリエは二か月前に出発しまして、アイノア村付近までは地竜で来ました。ですが途中で面倒事に巻き込まれてしまって地竜を失ってしまいました。逃げるために森を抜けようとしてグリノアに襲われてしまって、その後はアスク様もご存知の通りです。」


三人はまた驚き顔を見合わせる。三人が驚くのも無理はない。アイノア村や付近の町などは商業が盛んなわけでもなく、現地でしか手に入らないといった特別な物もない。王都に住んでいたのならこんなところに来る必要がない、ある理由を除いては。


「あー、聞きたいことは山ほどあるが一応こっちも名乗るとしよう。改めて俺の名前はアスク、今はただの旅人だ。」

「エリザ・ラバーレよ、よろしくね。」

「ダリウス・グランヴァスだ、よろしくな!」


 三人が名乗り終わった後、改めてエトワールが三人に頭を下げて挨拶をしている。ここまでのエトワールの行動を見る限り、害意は感じないと三人は思った。


「入り口で話し続けるのも邪魔だ。座ってゆっくりと話すとしよう。」


 そう言って四人は席に着いた。アスクはエトワールに何から質問しようかと悩んでいる。エトワールはその様子を見てそわそわしている。

 アスクは数秒考える素振りを見せた後、整理がついたのか顔を上げゆっくり口を開きエトワールに質問をする。


「まず、旅の目的を聞かせてくれないか?」

「申し訳ございません。今は………言えません。」


 アスクは少し悩んだ後さらに質問を続ける。


「言えない理由も教えてはもらえないのか?」

「………それも今は言えません。」


 アスクはエトワールが先程も言えないと言っていたので諦め半分で聞いたのかエトワールの答えを気にせずに次の質問をする。


「じゃあ次の質問だが、俺に騎士になってくれと言ったが必要なのは俺だけか?」

「い、いえ!できれば旅にはラバーレ様とグランヴァス様にも同行していただければ有り難いと思っております。」

「俺のことはダリウスでかまわないぜ。」

「私のこともエリザって呼んで。」


 エリザやダリウスはエトワールに対しての警戒を解いたのか気さくに接する。エトワールもエリザとダリウスの反応をうけ少しホッとした表情を見せる。そんな三人の様子を気にせずアスクは質問を続ける。


「なぜ傭兵じゃなく騎士なんだ?旅の警護なら傭兵でもいいだろう。それに騎士となると俺はお前と主従関係を結ぶことになるが、それはごめんだ。」

「騎士と言った理由についてはちゃんとあります、しかし説明が少し面倒でして………。主従関係については形だけで大丈夫ですので!」


 アスクはここまで質問して頭を抱えた。ある程度は言えないこともあると踏んでいたが、まさかほとんど言わないとは思っていなかったからである。

 エトワールに対してアスク自身も警戒はほとんどしていないが、もしも出会ってからずっと自分たちを騙す為に演技をしているとなると相当な役者である。 

 アスクは次にどんな質問をするべきかと考えていると、エリザがエトワールに質問をした。


「どうしてアスクに頼んだの?森で助けてもらったから?それとも他に何か理由があるのかしら?」


 エリザの質問にアスクが便乗してさらに問いかける。


「それは俺も疑問に思っていた。騎士としてならエリザやダリウスでも充分務まる腕はあるが。」


 アスクとエリザの質問に対してエトワールはアスクを指さしながら答える。


「それはアスク様の着ている服が全ての理由です。」


 アスクは自分の服を、エリザとダリウスはアスクの服を見て三人同時に納得する。


「なるほど星教騎士服ってわけか。」


 ダリウスがアスクの着ている服について言葉を発する。

 ダリウスが言った星教騎士服とは、星剣を守るために教会が組織した騎士団に与えられる服のことである。教会は魔徒との戦い“星戦”から過去の過ちを繰り返さないため、世界中に教会を建て星剣を守る騎士を集めた。集まった騎士を教会に所属する信者を星教徒と呼ぶことから星教騎士と呼んだ。

 星剣を守ることは世界を守ることと同義なので、相当な実力がないと入ることはできない。よってアスクの着ている服が星教騎士服だとわかれば実力はわざわざ言う必要もない。


「アスク様は星教騎士なんですよね?どうしてこのような場所で旅人などをしているのですか?」


 先ほどから一方的に質問されていたエトワールが今度はアスクに質問をする。


「正確には星教騎士だっただな。」

「だった?どうして騎士団を退団なさったのですか?」


 エトワールの質問にアスクは少し顔を曇らせたがすぐに返答した。


「人には向き不向きってものがあるだろ?俺には向いていなかったんだよ。何かを守るなんて大層な事はな。」


 エトワールはアスクがなぜか悲しそうに見えた。しかし、アスクはすぐいつもの表情に戻りエトワールに質問をする。


「いろいろ質問させてもらったが最後に二つだけ質問させてくれ。ここの近くで面倒事に巻き込まれたと言ったが何があったんだ?」

「賊に襲われまして。地竜はやられてしまい、賊を撒くために森に逃げ込んだのです。」

「なるほど。じゃあ賊に襲われたのも、旅や騎士を必要とする理由もそのローブが関係していると俺は考えたんだがどうだろうか?」


 アスクはこの質問でエトワールに付いていくか否か判断することにした。今までの質問は言わばこの質問のための材料と言っても過言ではない。

 アスクの質問に対してエトワールは驚きを隠せないでいた。エリザとダリウスはエトワールの反応を不思議そうに見るがアスクはじっとエトワールの目を見つめる。

 エトワールは焦った顔で必死に悩んだ後、アスクの問いに答えるため口を開いた。


「それも……………言えません。」

「わかった。話し合いはこれで終わりだ。頼るなら他をあたってくれ、二人とも村長のところに行こう。」


 エトワールの答えを聞くなりアスクは立ち上がりその場を立ち去ろうとする。立ち去ろうとするアスクにエトワールは呼び止めるように声をかける。


「まっ、待ってください!どうかお願いします!力を貸してください!」


 そうアスクを呼び止めるエトワールの姿は、ただ頼み事をしているだけとは思えない必死さを感じた。どのように説得すればこの人は私の願いを聞いてくれるだろうかと考える顔は、今にも何かに押しつぶされそうな程酷い顔をしていた。

 エリザとダリウスはエトワールの表情からこのままアスクを行かせるべきかと悩んでいる。

 だがそんな彼女をアスクは一瞥するだけでそのまま歩きだし酒場のドアに手をかけようとした時、少女は大きな声で言った。


「星剣!………星剣を集めるために旅をしているんです!」


 少女の発言はアスクをその場に留めるには十分すぎる効果があった。アスクは驚き振り返ったが、それと同時に少女に対して敵意を向け、柄に手をかける。エリザやダリウスも同様である。

 そんな彼らの行動を予想していたのかエトワールは全く怯まなかった。代わりにアスクの目を真っ直ぐ見つめる。エトワールの表情からは先ほどまでの必死さはなく、覚悟を決めた様な顔をしている。

 

 少女の発言に賑やかだった酒場は一瞬にして静まり返った。


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