『少女との出会い Ⅲ 』
『魔族を討ち滅ぼし平穏が訪れてから数年、人々の間である噂が広まった。各地にある88本の星剣を集めれば、天に扉が開き神が願いを叶えると。大半の人間は自らの欲望の為に神を利用するなど恐れ多いと考え、噂を否定した。
しかしある日、小さな村で星剣が盗まれたという情報が大都に入った。事件の内容自体は小さなことだが、盗まれた物が物だけに人々に広がる波紋は大きかった。きっかけは些細なものだった。この事件を機に、己の為に神を利用することに恐れを抱いていた者が次々と行動にでた。民家を焼き、人を殺し、事は大きくなり、大戦へと発展した。
星剣を崇める星教徒は過去の大戦と照らし合わせ、憎しみも込め彼らのことを異教徒・魔徒と呼んだ。 -星歴書より-』
少女は病院で治療を受けた後、すぐにある場所へと向かった。
今は白いローブに身を包み、顔をフードですっぽり覆った格好である。
ローブには金のラインと所々に星の刺繍が施されており、左胸にはクロスされた剣を中心に小さな七つの星がある。
少女が向かう先は、先程病院の女医に教えてもらったこの村唯一の酒場であった。
同時刻、アイノア村の酒場では、昼時もあって店内は賑やかで男たちの騒ぐ声が聞こえる。そんな騒ぐ男達の中、一際目を引く男がいた。
男は襟の長い白のコートを羽織り、服は上下共に白である。服には赤と金のラインが入っており、白さを一層引き立てている。左の胸元には金色で刺繍された剣が三本交差したマークがあり、全体的に騎士をイメージさせる服装である。
容姿の方は、白に近い銀色の髪に、雪のような肌に宿る真紅の瞳。整った凛々しい顔立ちだが、白銀の髪が所々跳ねており、少し幼さを感じさせる可愛さもある。
身長は百七十後半、腰に長剣と短剣を一本ずつ提げている。
村の男たちが騒ぐ中、男は一人カウンターで黙々と食事をしている。そんな男が食事をしていると、店の扉が開き女が入ってきた。
少しウェーブがかった亜麻色の髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、艶っぽい目つきに潤った唇。黒のチューブトップでは隠し切れない胸に、引き締まったウエスト。ロングのサイドスリットから見える生足が何とも艶めかしい。身長は百六十五程度。腰に交差するように短刀が提げられている。
その女は誰かを探すように店の中を見渡し、カウンターの男の所で目を止めた。そして男の方に真っ直ぐ歩み寄り話しかけた。
「森の結界は問題なかったわアスク。」
「ありがとうエリザ。ところで、お昼はもう済ませたか?まだなら一緒に食べないか?」
男の名前はアスク。女の名前はエリザというらしい。二人は親し気な様子で会話を交わす。
「じょあ、ご一緒させてもらおうかしら。」
そう言ってエリザはアスクの隣に座る。
「昨日の夜は大変だったわね。結界が破れてるなんて驚きだったわ。それにまさか女の子まで拾うなんてね。」
昨晩アスクたちは村長から結界が破れ、獣たちが森を抜けてきたので駆除してほしいと頼まれた。
エリザはアスクをからかう様に悪戯っぽく話したが、アスクは表情を変えずに食事を続ける。
しかし、アスクは何か思いついたのか、少し笑いながらエリザに向かって言った。
「グリノアの群れは怖くなかったのか?もう少し怖がったほうが女の子らしくて可愛げがあるぞ。」
グリノアとは肉食で全身を灰色と黒色の毛で覆われ、口には鋭い牙があり、太い四肢で地を駆ける狼に似た獣である。
エリザはアスクをからかうつもりが自分がからかわれていると気付き、顔を赤くして悔しそうな顔で言い返した。
「もう怖がっても可愛がられる年でもないわ。それに怖がってちゃこの世界は生きていけないわ、私たちみたいなのは特にね。」
悔しそうな顔から真面目な顔になりエリザはそう答えた。
二人が食事を再開すると、店の扉が開きまた誰かが入ってきた。
入ってきたのは男のようで、袖のないタイトなシャツとロングパンツ。腰巻をしており、身軽そうな服装をしている。茶色の髪は短く前髪はあがっており、鋭い目つきをしている。身長は百八十丁度といったところで、体格はがっしりしており隆起した筋肉がそれを物語っている。背中に自分の身長ほどある大剣を提げている。
「疲れたー!腹減ったー!」
その男は店に入るなり大きな声でそう言ってアスクの隣の席に着く。
「ダリウスうるさい!」
「事実なんだから仕方ねーだろ。それに店の中も騒がしいんだ。俺の声なんて誰も気になんてしねーよ。なぁ、アスク?」
そんなやり取りをエリザとしているこの男の名はダリウス。どうやらダリウスもエリザと同じように、何か仕事を終えた後らしい。
「疲れているところ悪いが報告を聞かせてくれないか?」
ダリウスは注文したものを頬張りながら答える。
「グリアスは昨日あらかた片付けたから見なかったぜ。他には数匹違う種類の獣はいたが脅威になるほどじゃねーと思ってほっといた。報告っていったらこんなもんかな。」
「なら、依頼完了だな。二人の食事が済んだら村長に報告しに行くとしよう。」
「今回は結構貰えるらしいから今から楽しみだぜ。」
報酬の額や使い道などの話しをしながら三人は食事を続けた。