『少女との出会い Ⅱ 』
『約五千年前、地上は魔族によって滅ぼされようとしていた。抗う者は殺され力は及ばず、魔族を恐れた人々は神に助けを求め祈りを捧げた。魔族を討ち滅ぼす力を。神々は人々の求めに応え、神の力を星に宿し地上へと落とした。その星は剣へと姿を変え人々に力を与えた。人々は神の力振るい魔族の猛威を退け、見事魔族を討ち滅ぼした。人々は神に感謝し、神の剣を祀った。そして剣はこう名付けられた。“星剣”と… -星歴書より-』
目を覚ますと見慣れない天井があった。簡素な窓があり、自分はベッドに横たわっているのだと外の景色を見て気付いた。
少女は昨晩のことを思いだし自分は助かったのだと安心した。しかし、ここが何処なのか、誰が助けて治療してくれたのかわからない。疑問を確めるため少女は起き上がろうとした。
だが、全身に痛みが走りベッドに戻されてしまった。獣の群れにやられた傷が痛む。痛みに顔を歪ませながら考える。
(ここは何処なの?)
少女は少し落ち着き自分の状況を確かめようと周りを見回した。
周りには同じベッドが幾つか並んでおり、部屋には消毒液の匂いがした。
ベッドの近くの机には赤黒く染まった包帯がたくさんあった。少女はすぐに自分の治療に使われた物だと気付き、その量に青ざめ、また意識が遠くなりそうになる。
(ここは多分病院だ。誰かが助けて運んでくれたんだ。)
そんなことを考えながら外の景色を眺めていると扉の開く音がした。
「良かった。目が覚めたのね。」
そう声をかけてきたのは白衣に身を包んだ女性だった。格好から考えて彼女は女医だろう。
「どこか違和感を感じるところは無いかしら?」
「傷は痛みますが、それ以外は大丈夫そうです。」
女医の問いに対して、安心させるために少女は笑顔で答えた。
そして先程考えていた疑問を女性に問う。
「あの、ここは何処ですか?」
「アイノアという村よ。ここはその村の病院。」
アイノア村、どうやら森を抜けた村にいるらしい。続けて少女は問う。
「どなたが私を助けてくれたのでしょうか?」
しかし、女医は少女の問いには答えず、
「いろいろ聞きたいことはあるだろうけど、まずは傷の具合を確認させてね。」
自分のことなど後でいいと少女は思ったが、治療をうけている身だと考えると言い返せない。
「傷は塞がってるわね、良かった。こんな重症になる患者さんはこの村にはいないから、星晶石を用意してなかったのよね。でも塞がっていて安心したわ。」
女医は困りながら笑い傷の具合を確認している。
『星晶石』とは星剣の刺さっていた所にあり、星の加護を受けた石のことである。星の加護にはいろいろあり、火の加護を受けた石は火を起こせ、水の加護を受けた石は水を出す。このように受けた加護によりその効果を発揮する石のことである。
「星晶石無いんですか!?」
少女は驚きのあまり体を起こそうとした。しかし、痛みでまたベッドに戻されてしまった。
星晶石は生活に大きく役立つ。ましてや、命の加護を受け傷を癒す力を持つ『命の星晶石』が病院無いことに驚きを隠せなかった。
「ここは小さな村だから星晶石が手に入りづらいのよ。生活するための星晶石は貰えるんだけど命の星晶石は高価だから。」
確かに命の星晶石は高価で手に入りづらい。王都では重症を負う人がいるので重宝されているが、小さな村や町では重症を負う人が少ないので使うときがなく、高い金を払っても無駄なのである。
「じゃあ、この傷が治るまで大分かかりそうですね。」
少女は溜め息をつき少し焦った顔で呟く。
(傷痕残ったら嫌だな…)
少女もやはり女の子だ。傷痕が体に残るのは嫌である。少女は焦りと不安で顔を曇らせる。しかし、女医はそんな少女とは真逆の嬉しそうな顔をしている。
「そんな顔しないで。昨日あなたが運び込まれてから大至急、命の星晶石を貰いに行ってもらったの!」
少女はまた驚きのあまり起き上がろうとしたが、すぐさま女医に止められた。女医の握っている物を見ればそこには白く光り、小さく脈打つ石があった。少女はまた溜め息をついた。今度は安心したためである。
「そんな安心した顔が見れるなら頑張って用意した甲斐があったわね。」
「あるなら勿体振らずにすぐ出してください!」
少女は騙された気持ちになり少し拗ねた顔をする。
「ごめんなさいね。じゃあ、すぐ治しちゃうわね。」
そう言って女医は石を少女の傷口にかざす。
「あっ。」
石は光を放ち少女の傷を包み込む。石の脈打つ早さが増す。傷口にかざすこと数秒、傷は痕も残さず綺麗に癒えた。他の傷口にも同様にかざし少女の体は綺麗に治った。
「どう痛みはないかしら?」
少女は起き上がり確認する。腕を振り、体のあちこちを触って確認する。
「ありがとうございます。痛みは消えました!大丈夫です!」
「それは良かったわ。で、聞きたいことがあるのよね?」
先程のやり取りですっかり質問のことを忘れていた少女は女医に問いかける。
「どなたが私を助けてくれたのでしょうか!」
少女の問いに女医は少し悪戯っぽく答えた。
「あなたを助けた人はね―――」