『少女との出会い Ⅰ 』
少女は走る、獣の群れから逃げるために。獣は追う、少女を狩るために。
(はあっ、はあっ、どうにかして逃げないと!)
少女は痛む傷口を押さえながら必死に走る。少女の服には爪で引き裂かれた痕がある。血が滲んでいるところが何ヵ所かあり、傷は浅くはない。
(この先に確か村が在ったはず!そこまで逃げ切れば!)
しかし、獣の群れはそれを許さない。群れの内の数匹が少女の前に回り込み、少女の向く手を阻む。他の獣たちは少女を逃がさないように取り囲んでいる。
獣の群れは獲物が弱るまでどこまでも追う。傷つけ、逃がし、また傷つける。そして、弱りきった獲物をゆっくり食らうのだ。
今がまさにその時になろうとしていた。
(こうなったら戦うしか…)
そう決意し少女は短刀を構える。しかし、その決意とは裏腹に短刀を握る手は震えている。もう片方の手で押さえるが震えは止まらない。
自分は死ぬかもしれないと考えると、足が震え、手が震え、全身が震え力が入らない。
獣が少女目掛けて飛び掛かる。一匹目は辛うじて躱すが、二匹目の攻撃により吹き飛ばされ、少女は強く木に打ち付けられた。
「あっ!ぐっ!」
打ち付けられた衝撃により短刀を手離してしまった。意識が朦朧とする。体に力が入らない。
(今回は本当に駄目だ…)
途切れそうな意識の中少女はそう悟った。人気のない森の中、獣の群れ、助けを呼ぶ気力もない。少女は死を覚悟した。
獣たちは一斉に少女に飛び掛かる。少女はぎゅっと目を閉じた。
数秒が経ち少女は思った。獣たちが一向に襲ってこない。恐る恐る目を開けると、そこには灯りを持った人が立っており足下には先程追われていた獣たちの死骸があった。
その人は少女に何か話しかけてくるが少女の意識は遠くなる。
(良かった。助かった。)
助かったことへの安堵のせいか、それとも逃げていた疲れのせいか少女はそのまま眠りに落ちてしまった。