表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梟悪譚  作者: シープネス
9/41

9:空白の間隙

浅く息を吸い込む間隙を一拍と呼ぶが、姿を消したまま攻撃してくる魔物と違って人間は例えどれだけ熟練した暗殺者であっても不意打ちを見舞う瞬間、その1拍だけは姿を現さなければならない。

これは人獣と人間に差異はなく人によって造られる使役獣も同じである事から、魔物と人間では本質的に透明化の本質が違う事が・・・


参照:「見えない怪物」より抜粋

この場において、各々の立場から来る致命的な勘違いが事態をより深刻にしていた。


フェニックスは単独で行動する狩人である。

彼女にとっての魅了は、褒められる事ではないとしても使うべき手段のひとつだった。

魅了された人間は嘘を吐く事が出来ない。

だからフェニックスは、リンの証言により人狼と彼女がまだ仲間ではないと考えた。

そこから状況を判断したフェニックスは、人狼が情報を漏らしたリンを粛清に来た可能性に行き当たる。

彼女を守らなくてはならない、例え一時的な関係であっても・・・彼女は私の大事な仲間なのだから。


***


オスカーは、群れで狩りをする人狼である。

人狼は獣人の中で人狐に次いで情が深く、仲間は裏切らず、恩を受ければ必ず報いる。

リンが思っている以上にオスカーは、共に戦い、恩人に報い、そして何より自分の姿を恐れもしないネクロマンサーを仲間に近しい存在として心に留めていた。

例えば、フェニックスが堂々と狩人や人狩としてリンの前に現れ、そして殺害するならばオスカーはフェニックスに対して何も思うところは無かっただろう。

しかし奴は、仲間の男を使って街中でリンを誘い、パーティーを組んでいる彼女を不意打ちで魅了して情報を奪った。

”仲間になると偽り、仲間から奪う”、それがオスカーの逆鱗に触れた。

リンが抵抗するなら・・・魅了されているなら殺してでも魅了を解除せねばならない。

俺ではフェニックスには絶対に敵わないだろう、それでも立ち向かわねばならない。

リンを救うために、リン自身に嫌われても構わない・・彼女は俺の大事な仲間なのだから。


***


モーリーは雑魚である、加えて言うなら背中がお留守にならなくなった雑魚である。


(うわー、フェニックスさんって人狩に恨まれてるとは聞いてたけどいきなり不意打ちしてくるとか人狼って無茶苦茶怖えぇ…というか敵が全員怖ぇ。)


モーリーはビビっていた、激怒する人狩の人狼と明らかに凶暴な目つきのコボルト達に心底ビビっていた。


(でも、リンさんを巻き込んじゃったから、せめて彼女だけでも逃がさないと、俺がしっかりしなきゃ。)


・・・ひとつ訂正しよう、彼は雑魚ではなく未だ成長過程ではあるが立派な冒険者である。

仲間を守ろうとするその誇り高い魂に敬意を表する。


***


そしてリンは焦っていた、土壇場での攻防により精神的な防御が揺らいだ事により全員の感情を大まかに読めたお陰で状況を推察する事はできたが、どう考えても和解は不可能だとハッキリ理解してしまった。


考えろ、考えるんだ私。


常に状況を把握する事こそが勝利につながる。

立地、位置、その場の誰が味方で誰が敵なのか、自分にとっての勝利条件・・・考える事はいくらでもある。

瞬きするほどの時間の中で私の頭はフル回転しながら状況の把握を試みた、最初は自分の事、そしてそこから外へ認識は広がっていく。


自分の事、ヒーラー用の装束、服の胸元にフクロウの仮面を隠している、カバンの中に爆薬が有るが量は少ない、しまった…いつもの小手が無い、シャドウサーペントは出てる、ホネッコを出すには状況がマズすぎる、三大基術の最後の1個はまだ心の中に仕舞ったまま、そのせいでネクロマンサーとしての能力を完全に使うことすら出来ない、面倒臭がらずに最後のも解除しておくべきだったわね。


現在の場所、洞窟型のダンジョン、入り口からの移動距離は約3000m、複数の迂回路有り、暗い、光源は光苔のみで視界は悪い、近くに水源…小川が有ったはず、天井は高いけど、飛べるほどではない。


全員の位置、私の左にモーリー少年、すこし離れた正面にフェニックス、さらに離れて入り口側の通路にオスカー、その後ろに4体の武装したコボルトが立っていて、オスカーの影の中にコボルトアサシンが2体隠れている、エンゼルはどこかに居るかも知れない。


そして、さっきフェニックスに殺されたコボルトアサシンが直ぐに崩れ去った所を見る限り、あのコボルトは全員オスカーの眷属だと思う、つまりあの眷属はオスカーより弱い。

その弱い眷属の襲撃に私は全く気付かなかった、つまり私はあの眷属より弱い。


つまり私は、私より強い眷属コボルト6体を引き連れた更に強い人狼1体に消極的に命を狙われていて、

フェニックスさんは私とモーリー少年が足手まといになるせいで本領を発揮できない。

私の頭は瞬くほどの間に状況の検分を終えて結論を出した。


あ、これ死ぬわ。


どう足掻いてもここから生きて帰るのは無理っぽい。

つまり、私が死ぬ事を前提に最も利益の有る勝利条件を目指さなくては・・・。


***


全員が状況を再確認する為に産まれた小さな間隙、時間で言えば息を軽く吸い込む程度の短い空白の時間の後で、コボルトたちが武器を構え、オスカーは少しだけ両足に力を込め、フェニックスは武器を握り直し、リンは行動案を再確認して、モーリーは覚悟を決めた。


そして物語は動き出す。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ