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梟悪譚  作者: シープネス
8/41

8:勘違いから大違い

魅了は相手に恋心を抱かせる魔法だと思われがちですが、正確には相手の精神を術者への愛情で塗り潰す精神汚染系の能力であり、用法容量や状況を誤ると危険です。

性的な意味だけでなく食欲的な意味でも危険ですので十分に注意しましょう。


参照:「魅了とヤンデレ」より抜粋

皆さんこんにちは、可愛いヒーラーのリンさんです。

ちなみに只今、絶賛ドナドナです。


少し前方では薄暗い洞窟を先行するモーリー少年、スカウトしての能力は未だ未熟だけれど必要最低限の能力は学んだようで何よりです。

それにしてもモーリー少年よ、私と目が合うたびに恥ずかしげに微笑むのは何故ですか?

リンさんルートにはまだ入ってないからね?私そんなにチョロくないから、本当だからね?


モーリー少年が先行している、つまり陣形の関係でフェニックスさんは私の隣で奇襲を防ぐ役目をしている訳ですが・・・正直、かなり気まずいです。

そんな私の内心を知ってか知らずか、この気まずい沈黙を破ったのはフェニックスさんだった。


「・・・すまない、迷惑を掛けている。」


「迷惑とは思っていませんよ?」


「それでも、すまない。」


あらやだ、しおらしい・・・ダンジョン入り口で見せた野蛮な笑顔と同じ顔の持ち主とは思えないわ。

まぁ、弱っている時を狙うのは大物狩りの礼儀という事で、日常会話を交えながら情報収集に勤しんだわけですが・・・。


「例えばの話、人狩が誰かを狩っている現場を目撃したらどうしますか?」


「何もしない。」


「じゃぁ、その人狩りが襲ってきたら?」


「焼く、共犯者も含めて皆殺しだな。」


正直、第一印象が鮮烈すぎて正義の精霊を信奉する狂信者並みのイカレた思考回路を覚悟していた訳ですが、この人は別の意味でイカレているというか、理想や物事の考え方は狩人や人狩よりも中立的で、考え方はむしろ衛兵に近いかも?


彼女の行動原理は確かに正義なのだけれど、微妙に融通が利かないというか。

ダンジョン内で人狩が誰を狩ろうとそれはダンジョン内のルールだから許される。

ダンジョン内で自分が襲われたら自衛として戦うし、敵は皆殺し。

そして彼女の正義にとっては人狩も狩人も全く関係なくて、違法な取引をした狩人達を皆殺しにした上に仲裁に入ったギルド幹部もまとめて斬首した事も有るそうです、聞けば聞くほど容赦なし。


恐ろしく強くて不正を許さず、狩人相手でも容赦しないとなると、狩人ギルドにとっては目の上のたんこぶでしょう、今までの悪評はどこかの狩人ギルドが広めた分も有るんじゃないだろうか?

うーむ、それにしても凄い閉心術だわ、会話で油断させても全く本心が分かんない。


私が、少し無理をしてでも内心を読み取ろうと集中したところで不意に目が合う、キレイな青い瞳の奥に夜の海のように暗い部分が見えて背筋が凍る、

フェニックスが静かに私との距離を少しだけ詰めた、彼女の手が私の左手を優しく握り耳元に口を寄せる。

歩調にも行動にも一切の乱れは無い、傍から見ればまるで友人同士が内緒話をしているようにも見えるだろう。


「リン、聞いてもいいか。」


「はい。」


口調はまるで愛を囁くように優しいのに、私を見つめる瞳の底に渦巻く闇だけがひどく深くて仄暗い、何も考えられなくなっていく私の耳に小さな声が届く。


「君の仲間に、人狩をしている人狼は居るだろうか?」


「1人居ます。」


嘘が言えない、というか言う気にならない、抵抗すらできない、誤魔化すつもりにもなれない。

急速に何かに染められていく私の心、しかし影の精霊は精神的な影響を一切受けない。

だから私の心の、影の精霊が居場所にしている部分だけは冷静なままで、そこに残った私の意識だけでフェニックスに対して嘘を言ったり誤魔化したり出来なくなった理由を考えてみる。


【愛している人に対して嘘をつく事なんて出来ない。】


なるほど、魅了か。

発動条件の一つが接触って事くらいしか分からないけど、抵抗も出来ないくらい一瞬で魅了するなんて随分とエグい能力を持ってるじゃない。

私だけじゃ実力差が違いすぎて能力を解除できない、これでは意識の一部だけが魅了から逃れても抵抗できない、魅了されたままの私の口は促されるままに質問に答えていく。

フェニックスが消音か何かの魔法を使っているらしく、先行しているモーリー少年に聞かれていないのが不幸中の幸いだが、ここ最近の情報は全部話してしまった。


ネクロマンサーになる覚悟をした話、ホネッコが暴走した話、宿屋が爆破された話、先日の狩りの話、仲間が欲しいと思っていて、仲間になってくれるかもしれない彼らの話。

一通りの質問をした後、フェニックスが少し気まずげに告げる。


「私の事、どう思う?」


魅了されている私は、感じた事をそのままに告げる。


「臆病な人ですね、魅了した相手すら信用出来ませんか?」


狂人の振る舞いは、裏に隠した怯懦を隠すため。

他者を斥ける暴力は、裏切りを恐れる恐怖心の裏返し。

これだけ強力な魅了をもちながら、相手に嫌われるのが恐ろしい。

彼女の本質は、臆病な人間なんだろう。

怖いから自分に関わらない相手には手を出さない。

怖いからルールに従い、従わせる。


解答に激高してそのまま処刑されると思ったが、フェニックスは呆けた様な顔で、私を見ていた。

魅了されている私も、次の質問を待って彼女の顔を見る・・・見詰め合う。


「すまない、魅了中の事を忘れてくれ。」


「はい。」


フェニックスが手を放すと、魅了が解除された。

普通の人なら命令通りに魅了されていた相手は質問とか答えた事とか忘れるんだろうけど、私の場合は心の一部が影響を受けていなかったから状況をバッチリ覚えている。


そこから何事も無かったかのように雑談が再開された訳ですが、相変わらずフェニックスさんの行動や表情に変化は一切無いし、内心も閉心術のせいで全く読めない。

魅了されていたとはいえ、トラウマを全力で抉ったみたいなので内心では怒り心頭かもしれない。

私だったら絶対に許さないね、というか私だったら事故に見せかけて始末するねっ。


そう思ったところでフェニックスさんが、一瞬で剣を抜いて私に迫る。

流石は上級者だけあって踏み込みが恐ろしく早い、剣は得意じゃないって聞いたけどそれでも私じゃ避けるのも厳しいだろう。

母上様、やっぱり狩られそうです、と棒立ちのまま心の中で辞世の句を読み終わったところで、フェニックスの放った暴虐的な威力の突きが私の顔の直ぐ横を通り抜けて何かを貫いた。


「・・・ッ」


振り返ると、顔面を深く貫かれたコボルトアサシンが断末魔も無く崩れ落ちる。

奇襲に失敗した事を悟ったのか、洞窟の薄暗闇から数体のコボルトを引き連れて、見覚えのある真っ黒な毛皮の人狼が登場した。


(何やってんですかオスカーさぁぁぁぁぁぁぁぁん!)


本当になにやってんですかオスカーさん・・・。

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