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梟悪譚  作者: シープネス
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7:袖すり合って地獄直通便

今日のイケメンは街の雑踏で見かけた彼っ!

周囲のもはや殺意に近い嫉妬の視線も、貢がせ屋の女の子も全部無視して意中の彼女に一直線!

さっすがイケメン、お相手の女の子に妬けちゃうね!


参照:「今日のイケメン」より抜粋

久々にヒーラーでパーティを組む事になりました。

しかし私の気分はどん底を通り越して地獄の3丁目に乗りかかってます。

母上様、先立つかもしれない不幸をお許しください。


「はぅ…。」


前を進むモーリー少年に見えないように小さくため息を吐き出す私と、そんな私を不思議そうに見る女性の魔法剣士。


「大丈夫か?」


「だいじょーぶです。」


正直、貴方が大丈夫な間は私の命も大丈夫だと思います、そう願います。

袖すり合うはなんとやらとは言うけれど、

まさか、この人と組む事になるとは思わなかったわ…。



***



事の起こりは数時間前。


「リンさん!」


街中で偶然私を見つけたらしく、街中を真っ直ぐに駆けて来るモーリー少年。

うむうむ、何気ない姿も実に絵になっている、やっぱり美形は徳だね。

そして本人には全くそんなつもりはないだろうけど、今の行動だけでかなり周囲から目を惹いている。


相対的に私も無茶苦茶視線を向けられている、主に嫉妬の視線が全身に突き刺さる。

少年、私は何処にでも居る可愛いヒーラーさんとはいえ、流石に君よりかなり見劣りするからそんなにキラキラした目で私を見るんじゃない。

ネクロマンサーの件とか無関係に謀殺されかねない嫉妬を全身に浴びつつもちょっと優越感を感じてしまうのは人の業だろう。


「先日振りね、剣士さん。」


「モーリーです、名前で呼んでください。」


「・・・モーリーさん。」


少年が嬉しそうに指貫グローブを付けた手で私の両手を握る。

私が敢えて距離を離そうとしてる事を理解しろよ少年。

ついでに、周囲から届く私に向けられた嫉妬と殺気にも気付きなさい。

なんというか、相変わらず凄い子だわ。


「リンさん、一緒に狩りに行きませんか?」


え・・・誰か殺るの?


「これから、パーティを組んで下級ダンジョンで少し実力を試してみたいと思うんです。」


ああ、モンスターを狩るのね、って普通はそっちの話よね。

というか今日もグイグイ来るわねモーリー少年。

フラグ?本当にフラグなの?リンさん攻略ルート希望なの?

ネクロマンサールートとか裏ルートを通り越して地獄の底まで一直線よ?

貴方の人生設計大丈夫?


私、今までの人生で人から好意を向けられた事がほとんど無いから

あんまり勘違いさせると、とんでもない方向に誤解するわよ?

これで裏切ったら謎のネクロマンサーが貴方を襲撃するからね?


というか裏切るとか以前にこの子の精神的な防壁が弱すぎて内心が丸見えなんですけど。

しかも感じ取れる感情が歓喜一色で見る意味が無いというか、コッソリ見ているのが申し訳ない位だよ。


グルグルと頭の中はオーバーヒート寸前で何を言っていいか分からなくなっていた私の思考を元に戻したのは、不意に聞こえた若い女の子の声だった。


「剣士様、宜しければ私たちもご一緒させて頂けませんか?」


声を掛けられた方を見る、可愛らしい姿で反吐みたいな内心を隠した女の子が3人。

もう一度改めて言うが、彼女たちは同性である私から見ても非常に可愛らしい。

そして、その内心は人狩である私すら反吐が出るようなドブに溜まる汚泥以下の下種である。


違和感を感じさせない範囲で媚びる声、内心を覆い隠す笑顔、偶然を装った異性を誘うような仕草、無理の無い範囲で煽情的な面を感じさせる服装。

要は男を釣って貢がせるタイプの冒険者である、そっち方面では相当な実力者だろう。

その奇麗な防具は一体どれだけの男たちの血を吸ってきたのやら。


「無理、先約が有るから。」


そしてそんな彼女達の媚びを見向きもせずに袖にするモーリー少年、こいつ本当に凄いな。


「そんな事言わずに…ね? 一緒に狩れば効率もいいですよ?」


それに対するこの女も面の皮がとんでもないな…きっとプライドはズタズタだろうに口調にも声にも表情にもそんな様子が微塵も出ていない。

私が、そういうのに敏感で無かったら本当に全く気にしていない様にしか見えないだろうけど、私の感覚は彼女がモーリー少年を只のエサから、相応に痛めつけて絶望させるべき敵にクラスアップしているのが感じ取れる。


少年よ、このままだと君がコイツらより私を選んでると思われて私への敵対心がバリバリ上がるから、速やかに私の手を放して彼女たちとどこかに消えたまえ。

ついでに、彼女たちを逆に篭絡してハーレムを作って私の事は速やかに忘れてくれ。

大丈夫、君ならできる、むしろ今すぐにそうするべきだ、早く行け、私に構わず進むんだ。


ここでバカなことを考えていたせいで、私は恐るべき敵の接近を赦してしまった。

ネクロマンサーの時にこれだけ油断していたならば、私は間違いなく死んでいただろう。

そして、この油断が私をとんでもない災厄に巻き込むことになる。


私とモーリー少年と、クズな3人組を取り囲んでいたやじ馬達の一角が、まるで迫りくる炎から逃げる鼠の大群のようにザザザッと音を立てて引き下がる。


石畳の道路を歩く装甲ブーツが立てる小さな足音。


あ・・・これ何か相当ヤバい事になる、と思って逃げようとした所でモーリー少年が私の手を掴んでいるせいでコッソリと逃げる事が出来ない。

ここで今更ながらに、厄介ごとに片足どころか全身で突っ込んだことに気付くが後の祭り。


モーゼのように人の海を割って登場したのは、意外にも女性…それも、簡単に言えば長身で、グラマラスで、美人な女性だった。


金色の髪をショートカットにしているのは兜を身に着けるからだろう、瞳は澄んだ青色で、背は高め、全身を覆う柔軟な筋肉から相当鍛えている事が分かる。


今は軽めのクロースアーマーとキュイラスを身に着けているようだが、歩き方や筋肉の付き方から見る限り普段は今履いている装甲ブーツと同じ型の全身鎧を・・・。


あのブーツと同じ型で、全身鎧・・・?


そこまで考えが至った所で咄嗟にクズの三人組に被害を押し付けようと視線を向けると、プライドがズタズタにされても顔色一つ買えなかった少女達が真っ青な顔で震えているのが目に映る。


(詰んだ。)


人の海を割りながらも近寄って来る彼女が、モーリーに話しかける。


「モーリー、折角お誘い頂いたけれど…やはり君に迷惑を掛けるのではないだろうか。」


恐らく素早く逃げ去る人ごみのせいで、現状がまだ見えていないのだろう。

少し恥ずかしそうにそんな事を言う彼女に、モーリーが私にとってのトドメの一言を告げる。


「大丈夫ですよ”フェニックス”さん。」



***



あ…この後、話に出てきた3人組のリーダーは、フェニックスさんに何か耳打ちされた直後に崩れ落ちてそのまま動かなくなりました。

何を言われたのかは知りたくありませんが、色々と余罪の在りそうな彼女たちの御冥福をお祈りします。


うん、そうなんだ、この美人があのイカレた狩人なんだよ。

鎧着てない日は普通の冒険者として活動してるんだって。


とんでもないトラップだよ。

それとも噂の正義中毒が男用の全身鎧じゃないと身長とかが合わないからって鎧の隙間に詰め物して着てる上に普段からこんな男口調で話す女でモーリー少年が以前から仲良くしていた事を予想できなかった上にちょうど良くヒーラーを探している所に私が見つかったのが悪いのでしょうか母上様。



「あ、そういえば。」


モーリー少年、もしかして急用で今回のパーティは延期とか言い出さないかな?

私は、もう既にどうやって自分の正体を隠し通すかを考えるだけで精一杯なんだけど。


「フェニックスさんってなんで剣の腕を磨きたいんですか?」


「実は先日、不覚にも斬れる間合いで術師に斬撃を避けられてしまってね、実力不足を痛感したんだ。」


「へぇ、術師?コボルトメイジとか?」


あ、聞きたくない聞きたくない聞きたくない・・・


「いや、アレは間違いなく・・・ネクロマンサーだ。」


次は絶対に殺す、とフェニックスが美人なのに歯を剝き出しにして野蛮に笑う。


そうですか、上手くいくといいですね。


母上様、先立つかもしれない不幸をお許しください。

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