40:違うんです、無関係なんです。
普段は人々が行き交う都市の中央広間は、地獄と化していた。
狂気に満たされ、暴走する人狼とそれに従う彼の仲間たち。
それを制するべく剣を交える勇者を率いた天使と狩人たち。
最初は狩人たちが優勢に進めていた戦況は、空から降り注ぐ爆雷の雨により反転する。
文字通り決死の覚悟で爆撃を防ぐ護術師。
死を厭わず諸共の結末を狙い突撃する人狼。
狩人たちは、護術師を守るために攻めの姿勢を保てない。
このまま押し込まれるかと危惧する雰囲気が満ちる中。
一瞬の隙を見て勇者モーリーが、狂狼と化したオスカーに迫る。
まるで戯曲のような決闘だった。
凄まじい程の聖なる力に満ちた剣を振りぬく勇者、
狂狼はそれを躱すべく咄嗟に身を竦めるが・・・攻撃を避ける事無く踏み止まる。
オスカーの背後には、一匹の使役コボルトが居た。
それは、周囲の死体から魔力を抜き取り、主であるオスカーに魔力を贈る役目を帯びただけの、ただの使役コボルトである。
コボルトが纏う黒いローブに、フクロウを模した銀の刺繍が施されていても、それはただの使役コボルトでしかない。
攻撃を避ければこのコボルトは破壊されて、今度こそこのコボルトの核となっている魔力は霧散してしまうだろう。
そうすれば、誇り高い人狼であるはずの彼が地面を這いまわりかき集めた誰かの魔力は、今度こそ消えてしまうだろう・・・逆に言えば、起る事は、ただそれだけ。
召喚主である自身の命に代えられるものではないはずなのに。
オスカーは一瞬の逡巡もなく回避を拒絶し、斬撃を受けて・・・倒れた。
「なんで・・・。」
狂気の感染源を失って烏合の衆となり押し込まれていく人狼の群れを顧みる事も無く、勇者は・・・モーリーは剣を下ろして呟いた。
空から降る爆撃が障壁に弾かれる音と、鬨の声を上げる仲間たち。
人狼の黒い血が、割れた石畳に流れていく・・・多分致命傷だろう。
そんな中で、もはや意識も失いつつあるオスカーが弱々しく手を伸ばし。
主に守られたコボルト・ネクロマンサーがその手に己の身を委ね、主である人狼自身の身と共に魔力として溶けて大気に混ざり消えていく・・・。
モーリーは下ろした剣を再び強く握りしめ、今度こそハッキリと声を上げる。
「なんで・・・あなたなんですか。」
流れ出る魔力が向かうのは、
爆撃の雨が降る街の中を悠然とこちらに歩み寄るたった一騎だけの死霊騎兵。
テラーナイトにその身を任せる彼らの女王が、フクロウの面を付けていても
勇者として選ばれ、力を得た自分には彼女がだれなのか見間違うことなどありえない。
モーリーの頭の中ですべてがつながる。
初めて会ったとき、彼女はスケルトンに襲われている自分たちのそばにいた。
彼女をパーティーに誘ったとき襲い掛かってきた人狼は今回の騒動の主犯で、
これほどの力を持つ人狼が、心酔し忠誠を誓い続けている・・・。
思い返せば、梟悪譚のギルドリーダーとただのヒーラーであるはずの彼女には明らかな一致点が多かった。
どちらも真っ黒な髪で小さな体躯、押し殺しても感じ取れるほどに強い魔力。
すべての事実が・・・一本の線に繋がっていく。
真実を知って尚もモーリーの心は揺れる、
もしかしたら、彼女にも何か事情があったのかもしれない、
全ては誤解だとか、誰かに脅されているとか、何か事情が有るのかもしれない。
そんな想いすらこの恐るべきネクロマンサーの罠なのかもしれない、
何がただしいのか、もうわからない。
それでも、自分にはやらないといけないことがある。
この騒動の黒幕を・・・彼女を倒さなくてはならない。
モーリーは覚悟を決めて剣を向ける。
たとえ相手が、圧倒的力を持つ相手であっても退くことなどできない、
仲間と・・・この町の人たちのために。
***
一方、剣を向けられたリンはこう思った
(アレ・・・これなんかとんでもない誤解されてるんじゃね?)
すさまじい勢いで回転する脳内で、数百通りの好意的解釈をしてみるものの、
今回の騒動の黒幕が私であると勘違いされているとしか思えない状況である。
しかも、見る限りここに残っている人たち以外にもう防衛勢力が国内に残っていない、
ここで私が勇者をブチのめしてしまうと、”内乱が成功した扱いにされる”気がする。
内乱の首謀者だと誤解される
↓
赤国の王様が激怒
↓
指名手配
↓
可愛いヒーラーさんから、危険なテロリストへ華麗に転職。
・・・。
ままままま・・・まてまてまて、まぁ待とうじゃないか、ちょっと落ち着こうじゃないか私。
どうしてこうなった?おかしいよねコレ?
私はネコさんに頼まれてほんのちょっと時間稼ぎに暴れようぜ!って思っただけであって、
・・・そのついでにちょっと、ほんのちょっとだけ、大通りの店から売り上げの一部をちょっと拝借しちゃおうかなって思ったけであって、断じて内乱の首謀者デハナイノデスヨ?
そして事態はさらに悪化する。
キリ、キリ、キリ、キリ、小さな金属の擦れる音。
コツ、コツ、コツ、コツ、石畳を踏む鉄靴の音。
あの子がこんな場所に居る訳が無い・・・
そう思ってみても、やがて私の隣にひどく懐かしい姿が並び立つ。
どうやら私より先に交戦して、遠くに吹き飛ばされていたらしい幽霊管弦楽団は、ボロボロになったマスクと帽子を自ら毟り取った。
マスクの下の本来顔が有る場所に顔は無く、首のある場所から突き出した無数の楽器達と、大きく開いたコートの胸元から覗く巨大なオルゴールが、血煙を吐き、歪な声で歌う。
「《天使め・・・我等が・・・我らが女王の憎悪を、思い知るがいい。》」
・・・誤解ダヨ?
私、こいつの仲間じゃないよ?




