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梟悪譚  作者: シープネス
38/41

38:かんちがいネコちゃん、だいさんじ

一方その頃、ネコは物語と全然関係ない場所で悲壮な覚悟を決めていた。


子飼いの衛兵、支配しているスクィーク、ダミー拠点に設置したサーチャー、臨時雇いの冒険者、各組織の忠誠心が無い連中にはタップリ金を掴ませた。

ネコは、そうして町の各所に配置した共犯者の報告を受けながら、梟悪譚のギルドハウスの会議室の中心に陣取る巨大で豪奢なマホガニー製の大机に地図を広げ、その上に配置された陶器の小さな駒を次々と動かしながら現状を把握していく。


そんな彼の耳に、新たな報告が届く。


(赤国騎士団は当分出動できません、王城のサロンが爆破されたらしく王都は事実上の騒乱状態です。)

(現場の魔力暴走で犯人の証拠が全く残っていないのですが、占術師の報告では何らかの報復によるものとかで、爆殺された貴族の身辺調査が・・・。)



ちらりと、向かいのソファに身を預ける小娘・・・我らがリーダーであるフクロウ・・・ジョウ・リン・サンカを隠し見た。

リンは何故か裁縫道具を取りだし、フェニックスの防具を手直ししながら、時折ついでのように俺の動かす駒を何の気なしに眺めている・・・眺めているように見えている。


それを気に留めない風を装いつつも、細心の注意を図り俺が自身の魔力体に意識を向けてみれば、床に投げ出されたリンの素足から床に無造作に転がった靴を支点に床板を経由して、繊細に隠蔽された魔力パスが俺に繋がっている。

きっと、俺が誰から報告を受けているのか盗み聞きして・・・。


【違う、それだけじゃない。】

薄汚れた生存本能が警鐘を鳴らす。



吹き飛んだ窓。

抉れた石畳。

歪んだ装甲馬車。

大通りに満ちる・・・抗いがたい程に暴虐に渦巻く死の魔力。



【オスカーは、フェニックスがリンをダンジョンに連れ去ったと思った。】

【フェニックスは、ダンジョンでオスカーと戦う前に小規模な爆破を起こすアサシンに襲われた。】

【二人が争っている間に、小僧とフクロウは首を爆破されて・・・即死・・・】

・・・【超高濃度魔力暴露による爆殺】

速やかに思考は最悪の結論を導き出す。

これは・・・”選別”だ。


思考回路は目まぐるしく巡り、一瞬だけ逃亡の二文字が脳裏に浮かんですぐに消える、今考えるべきはそれじゃない。

あの黒メイドは間違いなく上級冒険者並の実力だった、それを死霊すら使わずに退ける相手に俺が逃げ切れる訳がねぇ。

今まさに俺が死んでいないのは俺と【何か】が天秤に掛けられている証拠でもある。

しかし、天秤が俺の側に傾かなければ・・・間違いなく殺される。

つまり、この場を乗り切るには天秤の俺の側を重くすればいい。

賢い飼い主は、金の卵を産むトカゲを殺さない。・・・つまり俺が居る事で利益が増える事を見せればいい。


金?地位?名誉? リンにとって大した価値が無いだろう。

驚くべきことだが、彼女は全くと言っていい程に贅沢に興味が無い。

順繰りに候補が出ては消え、結局の所、結論は最後の一つしかない事に気付く。


フクロウの異名を持つ偉大なる死の精霊は、人々が互いに義務を果たすことを何よりも尊んだという。

穏便な手段などいくらでも取れただろう、しかし彼女はそれを望まない。


つまり・・・。


俺は覚悟を決めて、小さく言葉を紡ぐ

知らずと頬が釣り上がり、凶悪なまでに歯を剥き出しなるのが分かる。

これほどまでに心から笑ったのはいったいいつぶりだろうか?




「俺の”とっておきのお宝”と、今使える全勢力で、ここの全勢力を巻き込んで大乱闘を引き起こす。

 騎士団も無ければルールもねぇ、思う存分・・・殺して、殺して、殺そうじゃないか。」




***




マインスケルトン、名も無き迷宮の怪物、ナイトメア、

リンの心に潜む死霊達は、三者三様に首を垂れる。

怯えている訳ではない、ネコさんの提示した結論への敬意である。


彼らの主であるリンは思った。

ネコさん、頭でもイカレちゃったの?

もちろん、心はヒエヒエである。



さーて、ネコさん頭がハッピーになっちゃったみたいだね!

みんなウッキウキでリンさんとってもハッピーだよ!

あ、ゴメン! ハッピー(幸福)なんて人を罪悪に導く悪意の言葉使っちゃったね!

でも、大丈夫っ!世界は救われてるねっ!

ここからサクっと各勢力に講和条約でも・・・。



・・・。

・・・。

・・・。



実はリンさん、さっき見ちゃいました!

ネコさんがね、さっき奥さんと手を触れたときに、

お互いの魔力をちょこっとだけ交換したんですよ!!!!

コレ、すっごい仲間っぽい行動だよね!!!!!!!!!

私もオスカーやエンゼルさんと魔力交換したもんね!!!

・・・あの二人は裏切ったけどね!!!!!!!!!!!



・・・。

・・・。

・・・。



つまり・・・その・・・。


リンさんも、ネコさんと・・・

こう・・・魔力をちょいちょいっと交換して、

私たち仲間だよねっ・・・。

・・・みたいな事をしたかったんだけど、

ネコさんは何か勘違いしちゃったみたいで。

私も今更、私達お友達だよねっ!とか・・・

その・・・言えなかった訳で・・・。



・・・。

・・・。

・・・。



マインスケルトン・・・ホネッコが、恭しくお辞儀をして膝を着く。

言わずとも分かる、【提案に乗ろう】って言いたいのね?


ナイトメア・・・父さんは、冷静に振る舞ってるように見えて内心ウッキウキだよね?

ちょっと足がもう走りたくて仕方ない的なアレになってるもんね?


名も無き迷宮の怪物は、もうすでに特定の形を保てていない、

所々で猫のような体の部位を見せる所から、彼がどれだけネコさんを気に入っているかが良く分かる。


「ご安心ください、我が主よ・・・。」


一同が歓喜する中、世界樹の種が不意に意思を寄せてくる。

おぉ、タネよ頑張るんだ!みんなを説得・・


「我が権能により短時間ではありますが皆で同一となって戦う方法を編み出しました、死霊ならざる身なれど、必ずやお力になります。」



リンは、めのまえが、まっしろになった・・・。

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