33:嘘から出た報復
全ての事情を把握した後、ネコはちらりと机の上に乗ったソレを見る。
「ミィッ。」
星空のような瞳を持った黒猫が、俺の視線を感じて可愛らしく鳴いた。
こいつは”名も無き迷宮の怪物”というとんでもない名前の死霊らしい。
へー、ほほぅ・・・なるほど、そりゃぁー怖いな、ブルッちまって漏らしそうだな!
今朝家を出る前に家の鍵を閉めたかどうか思い出せないのと同程度にブルっちまったよ。
「ホレ、クッキー食うか?」
「有難く頂こう。」
普通に人間の言葉で応対してるじゃねえかコイツ。
どっからどう見ても霊獣か星獣の幼体だろ。
その横に並んだ、深い赤色の宝玉を手に取って眺める。
フクロウの言うには、これが世界樹の種らしい、
はい、アウトー。
俺は実物を見た事あるから知ってるんだよ。
アレは青色でもっとヤバい雰囲気なんだぜ?
正面の椅子に座るフェニックスと、その背後に立つフクロウを眺めつつ、ネコは考えた。
人間誰しも秘密の100個や200個はあるもんだ、俺だって嫁さんと一緒に居られるようになるまでに、どれだけ誰を騙したかもう分かんねえし。
俺の隣には、先日結婚したばかりの嫁さんが居る。
人兎なんだぜ、カワイイだろ?
ウチの嫁さんはさっきからせわしなく長い耳がピクピク動いてるし、口元に耳をやっても聞こえない程度の小さな声で何かを話してる。
人兎は凄まじく耳が良くて、こうやって群れでバラバラになっても会話できるらしい。
旧暦世界で使われていた言語の一つを操る人兎の伝達言語は俺には意味不明だが、
最初に聞き取れた「【漏れの旦那が世界崩壊シナリオに巻き込まれてる件 part220】」というのが何らかの符号だと思う。
正直、世界樹の種がどうとかそういう話より、秘匿主義の人兎達が語る叡智はどんな物なのか少し気になるが、今は置いておこう。
まぁ・・・何かフクロウにも事情が有るんだろ。
つまりアレだな、この【世界の危機ゴッコ】の参加者になれば良いわけか。
この明らかに霊獣か星獣の幼体っぽいアレは世界崩壊級の死霊だし、
この明らかに色の違う世界樹の種が、本物の世界樹の種で間違いなし、
昨日までリンは色んな重圧と心労イカレて暴れ出しそうになりつつも、
都市の近くにあるのに今まで偶然にも誰にも全く知られなかったダンジョンに行って、
そこで暴れ出した所を偶然、フクロウを追いかけていたフェニックスに助けられた訳だな。
スゲェなフェニックス、ナイトメアとテラーナイトに単独で勝てるのかよ。
今からでも赤国騎士団の団長とかブッ飛ばして国に雇ってもらったらどうだ?
俺の役割はこの節穴だらけ抱腹絶倒の世界の危機ゴッコにそれっぽい本物感を加味しつつ、参加者の1人・・・というか中心人物の1人?になりつつ物語を修正すればいいんだな。
***
ネコさんは凄い、改めてそう思った。
最初は何を聞いてもダンマリだったフェニックスさんなのに、ネコさんが個人的に事情聴取をしたいって言って私を追い出してから数分後、ネコさんは事情を全部聞き出したらしい。
正直、私が居なくなったら魅了の魔眼を使われるんじゃないかと思ったんだけど、フェニックスさんは”完全に観念しました”みたいな顔してる。
一体どうやって聞き出したんだろう・・・人兎の叡智か何かを使ったんだろうか。
ネコさんは、自信満々に”全部わかってるぜ?”みたいな顔してる。
最初はこの人が、10年越しで罠に嵌められていたんだと思ったけど、先日のイエウサギの巣を爆破した件も含めて【暗躍】の一部だったのかもしれない、全然分からなかった。
何より世界崩壊級の死霊を前にしているのに、動揺の欠片すら見られない、
これが熟練した暗躍人狩の胆力・・・凄いやネコさん。
「フクロウ…結論から言おう、フェニックスは無関係だ。」
そっか、もしかしたら・・・って思ったんだけど。
そう答えようとした所で、ネコさんの実力に改めて舌を巻くことになる。
「それで、コレで終わりって事は無いだろ?」
「どうにか、出来るの?」
私の驚いた顔を見て、してやったりとネコさんが笑う。
「もちろんだ、犯人共に思い知らせた上で色んな奴から金を巻き上げてやろうぜ。」
全く・・・ネコさんが敵じゃなくて本当に良かった。
こんなに恐ろしい人狩と敵対しなくて済むんだから。
***
この日・・・。
梟悪譚メンバーの手により未発見だったダンジョンの一つが発見された。
この情報を国に献上する事により、梟悪譚は多額の報奨金を得たとされている。
しかし、この日から街中で奇妙な噂話が広まる事になる。
”そのダンジョン内にて魂を汚染する宝玉を発見された。”
”梟悪譚は、その事実を隠蔽する為に国と密約を交わした。”
”先日の勇者候補の話は、情報封鎖の為に意図的に広められた”
そして・・・”その宝玉に深くかかわっている異世界人の集団が居るらしい。”
本来であれば取るに足らない噂であり、火種は直ぐに消えるはずであった。
しかし、梟悪譚は不自然な程に権力と金を使い、その噂を消し止めようとする。
まるで・・・隠したい事実がそこにあるかのように大慌てで荒っぽく、乱雑に。
人は、誰かが隠そうとしている物が有ればその中身を見たがるものである。
梟悪譚の恐ろしさを誰もが知っている、だからこそ零れ落ちた情報を誰もが必死で拾い集める。
そして拾われた情報は人々の口を継いで、噂話は広まっていく。
まるで・・・
”最初からそれが目的であったかのように”




