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梟悪譚  作者: シープネス
29/41

29:裏の裏の裏の話

発生した規模に反して、呆気ない程にアッサリと事件が終息したその夜。

誰も居なくなった下級ダンジョンの最下層、大部分が更地になったそこに、数名の野良メイド達が密かに集まっていた。

彼女達はそれぞれの持つスコップやピッチフォークを巧みに使って残骸を次々とひっくり返して何かを探し続ける。

そして・・・一人の野良メイドが残骸を掘り起こしていた手を止め、押し殺した声で告げる。



「・・・ナナ様、見つけました。」



残骸を掘り起こしていた野良メイドと、ナナの手により”ソレ”・・・金属質の箱が残骸の下から姿を現した。

その箱は、持ち上がらない程に重く、開いた蓋の中には複雑な構造の金属体がまるで内臓のように内部を埋め尽くしている。

箱の中身を見た野良メイドの1人が思わず後ずさりする。



「これは、・・・まさか”キカイ”ですか?」



その声は緊張を多分に含んでいる・・・無理もない。

”キカイ”とは旧世界に存在した魔力を持たないゴーレムの総称であり、伝説では旧暦世界は暴れ出した”キカイ”によってたった1日で滅ぼされたと伝えられており、

その災害の詳細は失われてしまった物の、伝説には偉大なる正義の精霊が世界を救うために、”キカイ”に立ち向かい、彼等が餌とする”デンキ”を奪って暴走を止めたと記されている。


余談ではあるが、現代において、”デンキ”とは”伝記”の事を指す説が有力であり、伝記を餌とする・・・つまり、”キカイ”とは人間の記憶を食らう金属製のゴーレムであると推定される。

”キカイ”の脅威度は、運命の塔を占拠している”ソラウサギ”や、大空を支配する”帝竜”と同等以上の災厄として恐れられている。



「落ち着きなさい。」



動揺の広がる野良メイド達から、ナナは一歩進み出る。

人熊としての完全な異貌を持つ彼女の姿は、既に人のそれではない。

彼女は、誰が止める間もなくその太い剛腕を振るい、箱を一撃で叩き割った。



「これは只の亡骸です・・・それよりも。」



ナナは、蓋についていたプレート・・・箱から弾き飛ばされて目の前に転がった【世界樹の種子】と書かれたそれを見て顔を歪める。

旧暦世界の文字は読めずとも、この形状の文字の意味と”ソレ”がどれだけ恐ろしい物なのか、彼女は誰よりも身に染みて知っていた。



「・・・今夜中にギルド”世界樹”の結成を行います、大至急準備を。」



その声を合図に一斉に野良メイド達が動き出す。

ほとんどのメイドがダンジョンから飛び出し、残った数人は死んだ”キカイ”の残骸を高濃度の魔力で念入りに分解していく。


その姿を見ながら、ナナは1人思考を巡らせていた。

あの箱は中からしか開けない、つまり”世界樹の種”に選ばれた人間が居る。

探さなくては・・・アレに選ばれた人間を見極めなくてはならない。


そして、もし選ばれたのが相応しくない持ち主ならば・・・。

ギリリ、と思わず握り絞めたメイスが軋んだ。



***



むかし、むかしの、おおむかし、世界に芽吹いた一つの種が有りました。


その樹は、とてもとても大きく育って、いつしか世界樹と呼ばれるようになりました。



そして、世界樹もやっぱり樹だったので、


やがて花が咲き、小さな果実が出来て、そして種が出来ました。



しかし、その種は親である世界樹があまりに大きくて世界の全部に根を張っていたので


産まれた種は、根を張る事も、育つことも出来ません・・・


だから、種は思いました。



「世界を腐らせればいい、親である世界樹を枯らせばいい、そして、壊れた後の世界で芽を出そう。」




***



・・・といった感じで。


世界樹とその世界はそうして常に攻防を繰り広げて来たのです。


私は、一つのネクロマンサーである貴方に賭ける事にしました。


一つの世界樹の種である私は、貴方に一つの道を示します。


この世界を腐らせ、世界樹を枯らし、貴方を新たな世界の主にする事を約束します。


だから、どうかこの世界を・・。



「あのさ、ちょっと提案が有るんだけど。」



私の話を聞いても、世界の主に成れると言われても、


この幼いネクロマサーが何の希望も抱きませんでした。


だから私は、所有者である彼女が、示してくれた、


細くて儚く、そして朧気な道を選んでみたいと思ったのです。


そう、何故か私は、彼女のくれた道を信じてみたいと思ったのです。


不思議な貴方・・・導く存在である私を逆に導いていく貴方。


だからどうか・・・今だけは、貴方の世界で眠らせて下さいな。

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