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梟悪譚  作者: シープネス
28/41

28:偽りと愛と真実と

シンデレラにとっての愛とは、強制するものではない。

彼女の魔眼は相手の自由意思を阻害しない、オスカーは明確な自我を保ったままだった。


シンデレラにとっての愛は、受け入れる物である。

だからオスカーが、異貌化した手を伸ばせば、彼の”大事な人”は、簡単にその腕に収まった。


どんなに弱い獣でも、守るべき巣や愛する番を護る為なら命懸けで牙を剥くだろう。

それは恐ろしいイエウサギも、弱々しいネズミでも・・・、



人狼だって変わらない。



人狼は情がすごく深くて、仲間や家族を絶対に裏切らない。

”大事な人”を護る為なら無意識の内に制限している本来の実力すら発揮する事が出来る。


(だから・・・ゴメンね。)


シンデレラは心の中で最後にもう一度だけ詫びた。

後悔なら十分してる、覚悟はまだ出来てない。

それでもやらなきゃならない。

それは”大切な人”を動かす・・・魔法の言葉。



「助けて、オスカー。」



***



この日を境に、都市の保有する名も無き下級ダンジョンの入り口を緊急封鎖した狩人達と、ダンジョン内から逃げ出してきた冒険者達により、密かに一つの噂が広まり始める事となる。



「オスカーちゃん、早すぎて目が回うぅぅぅぅぅ…吐、き、そ、う。」

「やかましいっ、舌噛むから黙ってろ!」



凄まじい速度でジグザグに飛び跳ねながらモンスターの群れを突っ切るオスカーに並走して数体のコボルトが並走している。

その内の1体、荘厳な装飾を施した銀剣を持つコボルト・ホーリーセイバーが素早く剣を上に掲げると、ダンジョンの天井に遮られていようとも、聖剣は太陽の光を受けて光り輝き、その剣を振り下ろすと共に輝きを斬撃の衝撃波として辺り一面に撒き散らした。



「オエッ…吐くっ、乙女の尊厳がッ・・・死ぬっ。」

「だから、舌を・・・クソッ。」



彼等を追う無数のモンスターの一部は光り輝く斬撃に巻き込まれて消滅したが、この厄介なコボルト達の主人を仕留めようとしたイエウサギ達が衝撃波の隙間を通り抜けて一斉に飛び掛かって来る。

普段は白い綿毛のような可愛らしい体で偽装されたイエウサギの体の半分以上を占める巨大な口とそこに並ぶノコギリのような乱杭歯は容易に相手の肉を食いちぎるだろう。

しかし、その牙がコボルト達の主に届く事は無い。



「合わせろ。」

「ワンッ!」



コボルト達はまるで馴染んだ仲間たちのように容易に意思を汲み取るとオスカーの足元に陣を組み替えた。

オスカーが渾身の力で踏み込んだ足はダンジョンの石畳を用意に踏み破り、左手だけで保持したハルバードを大きく弧を描くように真横へ振り抜けようとする。

本来であれば、例えどれだけ暴虐的な威力を誇ろうとも横一線の攻撃のみでは視界を埋め尽くす程に飛び掛かって来るイエウサギ達を迎撃する事は出来ないだろう。



しかし・・・。


「ワフッ!」



まるで最初からそこに居たかのように、ピエロのような装束を身に纏ってオスカーの左手の上で逆立ちをしていたコボルト・クラウンが奇術を発動する。

何故か背中に貼ってある紙には [範囲攻撃化] と自分で発動した奇術の説明まで書かれており、その効果の通りオスカーの一撃は斬撃の散弾へと変化して、イエウサギ達を八つ裂きにしつつ吹き飛ばした。


そして、周辺のあらゆる命が刈り取られた事で一時の静寂が訪れる。



「ふぅ・・・シンデレラ、生きてるか?」


「死んでりゅ…。」


「そうか、無事で何よりだ。」



腕の中でグッタリとしたまま動かないシンデレラの胸元に鼻を寄せて、愛おしい彼女へ親愛の情を示すと、鼻面をそっと彼女の指が撫でる。

大切な人を護る為に戦う事がこんなにも幸福で素晴らしい事だったのかと、オスカーは表情に出さないながらも内心では非常に驚いていた。



「オスカーちゃん、好きな人には優しくしないといけないんだよ?」


「優しくしてるだろ?」



確かに、これだけ激しい戦闘にも拘らずシンデレラは無傷である。

ちなみに乙女の尊厳とかそういうのが漏洩する件については考慮されない。



「オスカーちゃん、私は…「分かってる。」



オイラは意識を阻害されていない、だからこれが本物の愛じゃない事を理解している。

それでも”大事な人”を潰さない程度に強く抱きしめた。



「オスカーちゃん・・・。」



一瞬だけ抵抗しようとした彼女は、直ぐに身を預けた。

この想いはホンモノじゃない。

それがどうしたってんだ。

オイラは・・・本当に彼女を愛し・・・



足に触れるコボルトの小さな手。



邪魔をする使役を威嚇しようとしてその姿を見る、



オイラの中にある魔力を使って生まれた使役コボルト



それは黒い装束のフードを目深にかぶっていて



・・・



仮面の代わりに、黒い装束の肩とフードに銀糸でフクロウの刺繍が施してあった。




「キャッ。」




シンデレラが小さく叫んだ事で、

オイラは彼女を取り落とした事に気付いた。


仮初の愛が解ければ、オイラの能力は再び制限を取り戻す。


目の前のコボルト・ネクロマンサーも制御を失い只の魔力に分解されていく。


手を伸ばせば、今ならまだ・・・。


今なら?


今更・・・?


オイラは・・・。



・・・この日を境に、都市の保有する名も無き下級ダンジョンの入り口を緊急封鎖した狩人達と、ダンジョン内から逃げ出してきた冒険者達により、密かに一つの噂が広まり始める事となる。



曰く・・・。


狩人ギルド【インペリアル】は、次代の勇者候補を確保している。

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