27:ニセモノの愛
シンデレラの父親は、モテモテになりたいという純粋な思いを限りなく昇華し続けた結果として魔眼を得た剛毅な男であった。
努力と研鑽により愛の魔眼を得た彼はその力に頼り多くのロマンスを繰り広げ伝説を作ったが、自分に向けられる愛が魔眼により強制された物である可能性について生涯苦しみ、やがて永遠の暗闇と共に己の両目を封じる事で結末を迎えた。
されど、因果は巡る。
”魔力に依存しない特殊能力は、子供の異性側の親から遺伝する可能性が高い”。
男は、光を失ってから2人の女性の間に子供を成した。
彼の幼馴染として過ごし、妻となった女性との間に生まれたのがシンデレラ。
そして、光を失った男に正体を隠して密かに通じた彼の妹が身ごもった子供が、フェニックスである。
愛は偉大である。
しかし、それは多くの形を持つものでもある。
真の愛を信じきれなかった哀れな男のように、相手へ正しく己の想いを伝える力は紛れもない愛だろう
フェニックスが母の愛を真似たように、相手の心中すら塗り被す暴虐的な想いも愛だろう。
そして、シンデレラは魔眼の力を自分自身に向けて望んだ。
それは、自分と同じシンデレラの名を持つ御伽噺のように、
それは、王子様がガラスの靴を持って国中を探し回るように、
【愛されて、求められる存在になりたい】
他者から拒絶され続け、人間に失望したリンにとって、シンデレラの想いは反吐が出る程に薄汚く穢れた理想であり、他者に媚びる雰囲気も含めてリンが感じる強い拒絶感と嫌悪感がシンデレラの能力を敵意を減衰させる物だと見誤らせる一因となっていた。
結論から言えば、シンデレラの魔眼は【対象に愛される存在に変化する事で、間接的に相手へ干渉する】能力で、リンのような極一部のブッ飛んだ例外を除けば、人は誰かに愛を向ける事に肯定的であり・・・。
それは、彼女の悪友である人狼も変わりないのである。
***
「ごめん・・・ダメだったら私が養うから。」
「それは要らん。」
本気で謝ってみても、オスカーちゃんはアタシの言葉を軽く茶化して笑った。
オスカーちゃんは、本当にいい男だと思う。
せっかく、反目する種族同士でも友人になって分かり合えたのに・・・。
このまま、ダンジョンの入り口にモンスターが殺到したらとんでもない被害が出ちゃう。
でも、オスカーちゃんにアタシの力を使えば・・・アタシが魅了したオスカーちゃんなら、それを食い止める事が出来る。
インペリアルに・・・それもギルド長を直接助ければ、オスカーちゃんは人狩としてもカワスズメギルドの幹部候補としても立場が悪くなるはずなのに、それでもアタシに危機を教えてくれた。
そんな彼の友情を人質に取って、アタシは彼に酷い事をする。
・・・リンちゃんにバレたら、今度こそ眼を抉られるかも。
自然と震える体を、人狼に異貌化したオスカーちゃんがそっと抱きしめてくれる。
胸から響く少し早い心音・・・耳元で呟くオスカーちゃんの掠れた低い声。
「これがリンにバレたら。」
「うん。」
「インペリアルの予算で夕飯奢るから勘弁してくれって言おうぜ。」
「・・・ふふっ。」
もう、震えは止まっていた。
オスカーちゃんったら、本当にいい男なんだから。
覚悟を決めて、魔眼を開放する。
もっと、目の前の彼に愛される存在へ・・・
もっと、目の前の彼が求める存在へ・・・
そして、オスカーちゃんも”愛する人を守るために”能力の全てが開放されていく。
シンデレラと出会った王子様は、ガラスの靴を持って愛する人を求めて国中を探し回った。
【愛する人のために強くなる】その愛する人の居場所を、アタシの魔眼は偽装する。
誰かの履くはずだったガラスの靴を横取りして自分で履いてしまう。
それは、本物のガラスの靴を履こうとして自分の足を切り落としたシンデレラの姉達と同じ。
お父さんみたいに魔眼の報いを受ける覚悟はとっくにできてる。
だから、今だけは・・・
偽者の恋人 の為に、戦ってください。