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梟悪譚  作者: シープネス
23/41

23:嵐の協定

リンはネクロマンサーとしての才能は高いものの、その実力は経験の不足により才能に比べれば非常に低い。

才能と縁から上級冒険者のパーティを圧倒出来る実力を持つナイトメアを呼び出せるのに、彼女自身の実力は、単独の中級冒険者になんとか勝てる程度でしかない。

そして、テラーナイトは術師であるネクロマンサーの実力に依存する。

ホネッコ程度の実力ではナイトメアに騎乗してもその力の一片すら引き出す事など出来ないだろう。


この前提を覆す事など出来はしない・・・本来であれば。


ホネッコ、つまりマインスケルトンは、ネクロマンサーが自身の骨を媒体として呼び出す死霊であり。

テラーナイトは、マインスケルトンを術師の血肉そのものであるブラッディジェムで補い、心の中に潜む影の精霊を鎧として纏わせるものである。

リンの骨を持ち、リンの血肉と、リンの心の一部を纏うソレは、もはやリンそのものである。

そして、リンは召喚の才能には比べものにならないものの、自己強化への才能を持っている。


リンはホネッコそのものであるが、彼女は人間である。

「人間は肉体の限界を超える強化を施す事は出来ない。」


ホネッコはリンそのものであるが、彼女は人間ではない。

「死霊は自己強化の才能を持たず、他者強化の対象にもできない。」


人間が魔剣や聖剣を持っても、その力の全てを発揮することは出来ないのは、脆弱な命の器を持つ人間では、その力に肉体が持たないからである。


しかし、死霊の前提を超える為に大量の魔力を消費する必要はあるが、テラーナイトには生者のように命の器に依存した「肉体の限界」などという枷は存在しない。

ホネッコは主から流れ込む魔力に答えるために全力で強化を受け入れ、ナイトメアは己の全力を為して尚も余力を見せる騎士に仕えた事に歓喜した。

そして彼らを率いるネクロマンサーは・・・。



***



こんにちは、可愛いネクロマンサーのリンです。

何と言うか、ちょっとナイトメアからの魔力供給が多すぎるので、思い付きでホネッコに強化を試したら予想以上と言うか、逆に予想外と言うか・・・。

ナイトメアに乗りまして、(モーリーの所まで移動してね、道中の敵は適当に倒して。)って頼んだら数秒後にはモーリー少年の前に到着してました。


なんか、今更絶叫とか怒号が背後から聞こえてくるんですが・・・ホネッコの槍に色々と突き刺さってるんで、通り道で邪魔な相手とか皆殺しになってますよねコレ。

はい、そうです・・・。

強化したホネッコに相応しい速度でナイトメアが走ると、速すぎて命令が間に合いません。

あの・・・モーリー君?

リンさんは君を助けに来たんですが、何でそんなに呆然としてるのかなぁー・・・。


モーリーが呟いた。

「・・・フクロウ。」


・・・うわぁ。

これ絶対、「助けてくれてありがとう!」って態度じゃないよ。

むしろ、「くっ・・・殺せ。」って感じだよ。



***



モーリーは、呆然としていた。

目前で起きたそれは、あまりに圧倒的すぎてもはや現実にすら見えなかった。

攻撃なんて生易しいもんじゃない、これはまるで荒れ狂う黒い嵐だ。


さっきまで俺を追い詰めていたモンスター・・・資料でしか見た事が無かったヘルハウンドが、蒼い炎を浴びた途端に絶叫を上げながらのた打ち回り、直ぐに動かなくなった。

黒い嵐が通ってきた場所の所々でモンスターの残骸が蒼い炎を上げながら燃えている。


俺の居る広間も、もはや屠殺場の方がマシかもしれない。

辺りに満ちる血と臓物の匂いに反して、炎からは驚く程に何の匂いもしない。

視線に映る限り生き残っているのは・・・殺されなかったのは人間の俺だけだった。


蒼い炎を出す馬はナイトメア、黒い騎士鎧はテラーナイト。

黒い梟面と黒檀の手甲、ドレスではなく黒装束を着る女性のネクロマンサー。

・・・数日前のオレだったら、助けが来たと思ってバカみたいに何も知らずに死ねただろう。


最近、町はとあるネクロマンサーの噂で持ち切りだった。

全く表に出ないままでインペリアルを半壊に追い込み、教会の責任者を白昼堂々制裁した。

悪名に反して被害報告が全く出ていないのは、数十名の人狼を私兵として囲っているからなんて噂も有る。

下級や中級ダンジョンにしか出没しない人狩ギルド【梟悪譚】のギルド長・・・。


”都市崩壊級の暗躍人狩・・・”

「・・・フクロウ。」


呟いた俺の声を聞いて、ネクロマンサーが俺の顔をじっと見る。

そういえば、フェニックスさんがコイツの事を言っていたはず・・・。


(もしこいつに出会ったら【絶対に何もするな】、下手に逃げれば食われるぞ。)

・・・フェニックスさん、むしろビビって足が動かないです。


テラーナイトに支えられたフクロウが地に降り立つと近寄ってくる、俺の目前に立つフクロウ。

仮面越しに金色の目が爛々と光る、紡がれる言葉は絹糸のように滑らかで。


「嗚呼、何て事だ・・・今の私は満腹なんだ。」


慈愛に満ちている。



***



リンさん考えました、もはや手はコレしかねぇ・・・。

題して「今日は満腹だから別に君は襲わないよ?」作戦ッ。

モーリー君、コレがトラウマにならなきゃいいんだけど。


「満腹・・・?」


「逃げ給え、今宵拾った命を大切にすることだ。」


呆然と私の言葉を繰り返すモーリー少年、イケメンは呆然とした姿も実に美しいですね!


「あ・・・


あ?


「嵐の協定を、望みます、貴方に。」


・・・へ?

あ、え・・・おいおい少年何て事を口走ってるんだ意味分かってるの?

というかヤバいヤバいよモーリー君ソレは実にヤバいよこの状況でそれとかとんでもないってか

あ、ちょっと、そういう協定を持ち出されると本当に断れなくてマズいんですよ・・・


【嵐の協定】

かつて嵐(荒らし、つまり人災だった説もある)に巻き込まれた狩人・人狩・冒険者がお互いの立場を忘れて共に協力して脅威を退けた逸話から。

ダンジョンの内外を問わず、緊急事態や異常事態の際は、人狩や狩人であっても立場の前提を無視して協力を要請できる協定。


これ・・・協定なので強制力はないですが、余程の事情が無ければ普通の人狩は断りません。

何故かって?

この協定の大本になったのが梟悪譚だからだよ畜生。


あー・・・なんか、もう・・・酷いじゃん、私関係ないじゃん。

そうだよ、そもそもネコさんがイエウサギの巣を爆破したせいじゃん・・・。

オスカーさんがあの女狐とイチャイチャするのが悪いんだ・・・。

人兎共が暴れるから、ダンジョンが無茶苦茶になったんだよ・・・。



イライラする。

・・・だから。


「嵐が止むまで、仮初の協力を。」



そう答えるとモーリー少年は驚いたような顔をしていた。

大丈夫だよモーリー。

ネクロマンサーはね、仲間は大事にするんだよ?

だから・・・私と一緒に問題を起こした連中を全員ブッ殺そうか。


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