22:ウサギまみれ事件
(”仲間として”進言する。)
私の心の中で、ナイトメアが意思を寄せてくる。
”仲間として”という想いを強調するのは、多分私の孤独を理解してくれているからだろう。
ナイトメアなのに人間の感情を深く理解して、それを行動に生かせる死霊って相当珍しいよね。
(我が偶然現れたように装って、そこの少年を襲い、死なない程度に痛めつけるのはどうだろうか。)
・・・なんで?
(その少年は、リンが傷を癒す度に深く感謝している。つまり偶然を装って死ぬ寸前まで傷付けてから癒せば、更に感謝を引き出せるかもしれん。)
・・・。
まぁ、理解出来て行動できるからって、正しい方向に使えるとは限らないのです。
誤解の無いように言っておくと、この進言には一切の悪気はありません、むしろ寛大な意見です、
このやり取りを見ているホネッコですら他人の感情は全く理解できないので、”この少年は感謝していたのか・・・”とか考えてますし、更なる感謝を引き出す為に周囲の人間を無差別に襲うのはどうだろうかとか意見を出してます。
・・・ダメだからね?
ちなみに、人間とは思考回路の著しく異なる死霊である彼らがある程度とはいえ私と意思疎通できるのは、私が幼い頃に契約した彼らが、私の願いを叶えるために長い年月を掛けて人間への意思の伝え方を習得してくれた結果であり、私が死霊の思考を理解している訳ではありません。
だから、咄嗟の事態や細かい状況の伝達は難しいのです。
例えば、今まさにホネッコとナイトメアが何かを見つけたらしく剥き出しの情報をそのまま共有しようとしてきた時とか・・・。
(※ギ♯%N…)
(オ++,==^;Ω…)
・・・待った、それ伝えられると私が死ぬ。
ナイトメアがこのダンジョンを余裕で覆える範囲の感知能力を有していようとも、感知した内容を直で私に伝えられると感知した情報が多すぎて頭が沸騰して死に至るし。
ホネッコがダンジョンの魔力経路?みたいな何かを通じてこのダンジョンで新たに出現する存在を発見した事を直で私に伝えられると、情報で思考が塗り潰されて狂死するわけです。
聖剣や魔剣を入手出来ても使い手がヘッポコだったら剣の力に負けて腕が千切れるのと同じ理屈ですね。
さて・・・やっと落ち着いたホネッコが伝えてくるには、何故かこのダンジョンの深層にネコさんが唐突に出現したらしいです。
別にそれだけなら問題はないのだけれど、それを聞いたナイトメアが彼の場所を確認した事で、何故彼らがこんなに焦っているのかが私にも理解出来ました。
ネコさん・・・そこって近くに人兎の隠れ里が有るからあんまり近寄るとマズいというか、そこって【イエウサギ】の巣が目の前に有るんじゃないかなーってリンさん思うのですよ。
しないよね・・・?
ネコさん、巣の爆破なんて・・・しないよね?
イエウサギって下級ダンジョンに出てくるとは思えない凶暴なモンスターだし、近くに隠れ里が有るのは公然の秘密だし、流石のネコさんだって、人兎に全力で喧嘩売るような真似は・・・しないよね?
そして無情にもホネッコの伝えてくる結末。
(大魔法級の規模で魔力的な爆発を感じた)
(敵の一部がここまで上がって来る、たぶん。)
ネ・・・ネコさんのアホーッ!!!
ダンジョン内に満ちる殺意、モーリー少年と切り結んでいたコボルトが慌てたように武器や防具を放り出して自分だけが通り抜けられる細い穴を抜けて逃げ去った。
ここでやっとモーリー少年も、何かとんでもないモンスターが出現したことに気付くが・・・。
「モーリー君、帰還スクロールは持ってる?」
「無いです、リンさんは?」
「ゴメン、持ってる。」
帰還スクロールは購入時の持主以外には使えない。
つまりこういう場合は、スクロールを持っている人間だけが逃げるしかない。
モーリー少年は私の言葉を聞いて、布袋を差し出した。
「それじゃ、今日のお礼に収穫だけでも貰って下さい、
有難うございました、出来るだけ足掻いてみようと思います。」
あー・・・もうっ。
預かってって言えばいいのに全部くれるとか、どれだけ覚悟決まってるんだ少年。
貴方だって余裕のある生活してる訳じゃないでしょうに・・・。
受け取った鞄を抱えたまま、帰還スクロールを発動する。
「これはいったん預かるね、後で返すから。」
全く、仕方ないんだから。
でも、だからこそ・・・。
***
だからこそ・・・助けてあげたくなるのよね。
帰還スクロールが発動した直後、私はダンジョンの入り口に居た。
モーリーの収穫物を鞄に仕舞い、代わりに取り出した黒装束を纏って仮面を付ける。
振り返れば既にナイトメアはテラーナイトとなったホネッコを背に乗せていた。
脱出してきた冒険者の驚きの声と悲鳴を浴びながら、ナイトメアの背に一緒に乗せてもらって、ダンジョンの奥へと駆け出した。
後に梟悪譚の最初の活動として報ぜられ、そのあまりの規模故に多くの冒険者を恐怖の渦に陥れた事件がとうとう幕を開ける・・・。




