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梟悪譚  作者: シープネス
19/41

19:大は小を兼ねる・・・とは限らない

昔々、世界より死が忘れ去られる頃。

消え去るはずだった死の精霊を救うために一部の人間達は、己の心に精霊の居場所を作り精霊を匿ったのです。

人はいつか死んでしまう、しかし彼らは子を成し、産まれた子が死の精霊の居場所を引き継いでいく。


・・・時は巡る。


死の精霊と精霊の率いた配下達は、決して恩を忘れない。

例え、偉大なる死の精霊が、哀れな影と成り果てようとも。

例え、人間達が、先祖の偉大なる行いを忘れようとも。



参照:「偉大なる死の巫女【禁書】」より抜粋

ネクロマンサーの契約にはいくつかの種類が存在する。

一時的でない契約を結ぶならば、ホネッコのように自分の一部から変質した者も含めて、シャドウサーペントのように私の心の中に、彼らの居場所を作ってあげる必要がある。


街の外に出て、何もない平原の真ん中で本来の姿を現したナイトメアと向かい合い、ナイトメアを特別な相手として心に受け入れようとする、もちろん仮面は付けていない。

さて、仮面を使わずとも意思の疎通が出来る相手として呼んだハズなんだけど・・・。


お互いの視線が交わり、心が重なる。

まるで自分の異質な一部を受け入れるように、全く別の存在を心の内へと受け入れているのに、不思議と違和感は感じなかった。


私は目を閉じて、やがて・・・草原に風が吹いた。



・・・。



目を開けば、先ほどと全く変わらないナイトメアの黒い瞳が私の視線と重なった。

澄み渡った心は繋がり、お互いの全てが理解し合える。

そうか、こんなに情けない私をずっと待っていてくれていたのか。

勘違いからスケルトンホースだった彼を父と呼んでいた頃が懐かしい。

お互いにそれを望むことはもう二度とないけれど、だからこそ・・・。


「ナイトメア、どうか私に力を貸して下さい。」


ナイトメアは肯定の意を示すべくカツンと蹄を打ち鳴らし、頭を垂れる。

こうして私は新たな仲間を得た。



さて・・・実力差の有る相手と契約すると、ここからが大変なんです。

こう言うと察しのいい人は、「あぁ、魔力切れだろ?強いのを呼ぶとキツいよね~」とか思われるかもしれませんが、むしろ逆です。


魔力を与えて相手を維持する召還術や、私自身の魔力を共有しているホネッコ達とは違って、ナイトメアは私の祈りに答えて”自発的に”協力しているので、維持費はナイトメア側が用意しているんです、つまり完全にノーコストです。


では、何が問題になるかといいますと、家賃代わりなのか何なのか心の中に居場所を貰った死霊は契約主に魔力を譲渡する事を非常に好むのです。

そして当然ながら、死霊は術師の容量とか考えない訳ですよ。

つまり・・・。


契約直後から私の心に溢れる暴発寸前の魔力を何とか抑えながらナイトメアの説得を試みる。


「ねぇ、ほとんどのネクロマンサーが契約中に死ぬ原因って使役に譲渡された魔力が多すぎて爆死する事らしいよ?」


ナイトメアが、私の言葉に答えて更に出力を上げる。

やった、凄い出力だねっ!

これが暴発したら小さい建物くらいなら軽く消し飛ぶね!


「違うから、爆死するほど出力上げろって意味じゃないから。」


私の言葉を聞いたナイトメが私を背に誘う・・・何かイヤな予感がする。

とりあえず質問してみる、今何考えてるの?


(獲物が多い場所へ行こう)


違うから。

リンさん自爆に巻き込む相手が少ない事に抗議した訳じゃないから、というか私は人型爆弾になりたいわけじゃないから。

仮面無しでも意思の疎通は出来るし、ちゃんと制御も効いてるのに微妙に私の意見が伝わらないのはアレだ・・・多分仮面を着けていない状態での練度が足りないんだ。



あー・・・この子の魔力がヒーラーの時に使えたら凄く便利だと思ったんだけど、これは修行が必要だわ。

この後、なんとか仮面を着けないままでも譲渡される魔力の量を絞ることには成功したのですが、気が抜けた拍子に体内に貯まっている方の魔力制御に失敗、保有限界を遥かに超える魔力と肉体が混ざり合いそのまま雲散するという割と珍しい死因により消し飛びました。



***



「・・・って訳で、無事に全部片付いたんですよ。」



寂れた古代遺跡の奥に潜んでいた彼を見つけ出して、私は今までの経緯を話していた。

ボサボサの黒い髪の毛を後頭部で乱暴に一まとめに括ったその男は、下卑た目で私を見ながら嫌らしく笑う。



「チチチ…それを話して俺に何の用なんだ、お前どっかイカレちまったのかい?」


「えっと、私の部屋を爆破した事、感謝してます。」


「なーに言ってやがる、俺は薄汚ねぇ脱法犯だぜ? 怖ーい事になるかもしれないぜ?」


「その演技、まだ続けるんですか?」



”衛兵隊長さん”



笑顔で彼の正体を告げる私と、私の顔を凝視する男。

お茶会の最中、私ではなく「ソレ」が今までの経緯に生じた違和感に気付いた。

違法ギリギリの商品を取扱うせいで誰とは無しに【廃棄遺跡のネズミ】という蔑称で呼ばれる闇商人、彼は何故私の部屋を爆破したのか?


「ソレ」に指摘されるまで、私すら彼も自分の利益の為に脱法行為を行ったと勝手に思っていた。

外部から指摘されて初めて違和感に気付いた、ネズミの名は誰でも知っているのに、目の前の男の顔が覚えられない・・・恐らくは、演技の応用で意図的に認識を逸らしている。


私の言葉を受けて、男からそれまで感じていた雰囲気がアッサリと消え失せる。

感情を失った顔はまるで作り物のように無機質で、唯々深く、暗く、黒く・・・何も感じない。



「・・・・ニャハハ。どこからバレたか教えてくれるか?」


「えっと、実は正体を見極めたのは私じゃないんですよ。」


「なるほどなるほど?」



口調とは裏腹にネズミと呼ばれていた男の黒い瞳は深い闇を湛えており、閉心術を使われている訳ですらないのに、感情の欠片すら全く感じ取れない。

私の感じている未知への警戒を感じ取った「ソレ」・・・シャドーサーペントが私の足元から湧き上がる。


私すら違和感を感じなかったこの男の違和感を影の精霊は感じ取って私に教えてくれた。

そう伝えると、全てを理解したかのように男は笑う。



「ニャルホドナーッ!これも神様の思し召しか。」


「カミサ?・・かみさま?って何ですか。」


「んー? 君は禁書とか読んだ事が無いのか?」



意外とイイ子ちゃん!と言って男が笑う。



「禁書?・・・あの、何か状況がイマイチ読み込めないんですけど?」


「そりゃ、本来なら色んな場所で情報を集めるのが定石なのに、いきなりブチ抜きニャー!でここに来るから・・・まぁ、それでもルールはルールだ!。」



訳の分からん事を勝手に言いつつ自分で納得していく男、やがてウンウンと縁起っぽく頷いてから、告げる。



「加入条件はただ一つ、【ギルド長の正体を突き止めて本人に伝える事】…そういえば自己紹介がまだだった・・・ニャ。」



男が笑う。



「獲物共は俺をネズミ呼ばわりするが、俺の名前は”ネコ”だ、よろしく。人狩ギルド【梟悪譚】の現ギルド長で、正体は衛兵隊長、正体を突き止めた君を歓迎するニャ”フクロウ”のお嬢さん。」



***



あ、何か聞きそびれたんですけど私の部屋を爆破した理由は、恐らくホネッコが暴走した件で、狩人が私を告発される前に問題を大きくして有耶無耶にした…辺りが理由ではないかと思います。

そう考えると、衛兵を使って保護に来る辺りも含めて見た目以上に情に深いタイプなのかも・・・。



「歓迎パーティのクラッカー代わりに何件か家でも吹っ飛ばすかニャ?」



やっぱりコイツただの爆弾魔かもしれない。


母上様・・・。

お礼言いに行ったら都市伝説だと思っていた人狩ギルドに加入してしまいましたが私は元気です。

ついでになんか明らかにヤバい事に巻き込まれそうな気もするけど全力で忘れて普通の日常に帰りたいと願う今日この頃です。

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