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梟悪譚  作者: シープネス
12/41

12:ネクロマンサー

ネクロマンサーはテラーナイトを呼び出せるか否かで脅威度が数段階変化する。

特に中級ダンジョン以降は、騎馬状態のテラーナイトによるランスチャージを常に警戒しなくてはならない。


参照:「オススメの中級ダンジョン特集」より抜粋

本格的にネクロマンサーとして活動するならば、その前にやらなくてはならない事がある。


覚悟を決めた私は、モーリー少年の死体を抱えて教会に入って来たフェニックスさんに無言でシンデレラを押し付けて、そのまま宿屋の私が借りている部屋に入り雨戸をシッカリと閉ざす。

いつものように黒装束を身に着け、仮面で顔を覆い、左手だけ素肌を晒し、魔力を高めていく。

ネクロマンサーがネクロマンサーである事を示す三大基術の最後の一つ。


体内に漲る血潮は左手の肉を内側から食い破り、鮮血の色をしたスライムは私の傷口を塞ぎながらドロリと流れ落ちながら蠢く。


三大基術の3番目、己の血肉を魔法生物して使役出来る”ブラッディジェム”


魔法生物といってもほとんど自意識の無い粘液体で、敵に攻撃された際に傷口から召喚する事で即座に傷を塞いでダメージを最小限に抑えたり、そのまま相手の武器に粘着して武器を使用不能にしたり・・・。


シャドウサーペントに小さな欠片を持たせれば内在する魔力で長時間活動させて偵察とか、そのままダンジョン内に落ちている大量の血肉(意味深)を食べさせて増殖させてから自分の魔力に還元するなんて事も出来る。

出来ることは、出来る…出来るが。

こういう事をするから、ネクロマンサーを目の敵にする奴が増えるのではないかと思う事もある。



***



さて、ネクロマンサーは3つの基術を全て身に宿す事で私は本当の意味でネクロマンサーとして覚醒した。


三大基術の1番目は己の心を媒体として宿した影の精霊の操る牙”シャドウサーペント”

薄暗い部屋の中ではシャドウサーペント達が自由に泳ぎ回っている。


2番目は魔力の象徴である自分の骨を媒体とした死の砦を守る番人”マインスケルトン”

気が付けば、私と向かい合わせになるようにホネッコが立っていた。


3番目、術者自身から作られたブラッディジェムが、シャドウサーペントにより細かい破片に分けられて一斉にホネッコの許へと集結していく。


私の心、私の魔力、私の体。

一度は私から離れ、分かたれた者が一つに戻っていく。

ホネッコの体が赤と黒で覆われていく。


私が目を閉じ、やがて全てが過ぎ去った後で目を開けば、そこには黒い全身鎧とマントを身に着けた一体の怪物が立っていた。

テラーナイトとして現世に再臨したホネッコは、兜の内側に仄暗い光を宿し、静かに片膝を付くと術者たる私に改めて忠誠を誓おうとするが、それを制して私はホネッコに歩み寄り、素肌を晒している左手を差し出した。


ホネッコはこれから何が起こるのか理解しているかのように、跪いたままで差し出された手を支えてくれる。

理解しているんだろう、例え恐ろしいテラーナイトになってもホネッコは私自身なのだから。



「初めて貴方を呼んだ時、忠誠を受け入れずに逃げてしまってごめんなさい。」



初めてテラーナイトとしてのホネッコを喚んだ日、私は忠誠を誓うホネッコから逃げた。

ホネッコが異形だったからじゃない、その姿が私自身だと理解出来てしまった事が怖かった。

覚悟を決めて、手を握ったままで仮面を外す。

私の剥き出しの恐怖は、ちゃんとホネッコに伝わっているだろうか?



「今でもあなたが…自分が怖いと思う、でもそういう部分も全部含めて私自身なんだなって思ったの。」



覚悟を決めて言葉を紡げば、心の震えはもう止まっていた。

自分の事を恐ろしく思う事と、自分を信じられない事は違う事。

テラーナイトは怖いけど、それでもホネッコは私で、私の大事な一部分だと思っている。

懐から、ずっと渡せなかった刺繡を施したハンカチを取り出した。



「私の騎士様、どうかこれを私だと思って、私の為に戦ってくれますか?」



私が捧げる様に差し出したそれを、ホネッコは立ち上がって受け取り、自分の盾の裏に忍ばせた。

そして再び私の前に跪き、永遠の・・・



唐突にドアが開く。


「リン、何か色々ややこしい事になってて悪かっ・・・あ、やっべ。」


パタン、と音を立てて勢いよく扉が閉まる。



「・・・。」

「・・・。」



仮面から剥き出しの私の驚きが届いても、ホネッコは暴走しなかった。

何事もなかったかのように跪いたままで、改めて私に永遠の忠誠を誓う。


召喚や制御下に有る普通の死霊ならともかく、術師自身を媒体にしているマインスケルトンが自分の心で暴走するような心境だった事がそもそも間違いだったんだ。


「ホネッコ、これからもよろしく…それとオスカーさんは機会が有ったらブッ殺そうか。」


「カタカタッ。」


母上様、ネクロマンサーとしても生きていく事とヒーラーとしての夢も追い求める事って矛盾しないと思うんです。

だから、他の人が食べてるケーキを奪ってでも生きていこうと思います。

私は、ネクロマンサーだから。

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