11:仮初の死
昔色々有ったせいでフェニックスは死体を見るのを凄く嫌うんです、自分で殺した相手なら絶対に灰になるまで焼くはずです。
だから、首だけ爆破して放置されているなら犯人はフェニックスじゃないと思います。
あ、これ内密にお願いしますね。
参照:「フェニックスの潔白を証明した関係者の証言(最重要機密)」より抜粋
指時計が爆発した直後、私は仮初の死の時間を過ごす精霊様の部屋で目を覚ます。
そこは夕焼けの日差しが部屋の外から差し込んでいる部屋だった。
同じ形をした木板と金属製の棒が組み合わされた一人用の机と椅子がずらりと並んでいて、
正面には深い緑色の巨大な板に白い鉱物質の塗料を使って几帳面な字で【質問は3個まで。】と書かれている、ついでに板の端っこには”日直:せいぎ”って書いてある。
出入り口は横にスライドするドアが部屋の側面に2つ、天井には1mほどの発光する棒が規則正しく供えられていた。
夕焼けの日差しが差し込む窓から外を眺めれば、歪な何かの怪物の抜け殻がところどころに転がっている黒い道と、牢獄のように灰色で真四角な石の建物が視界の果てまでずっと広がる。
いつも思うんだけど、精霊様の美意識は人間には理解し難い、この部屋は精霊様の世界の牢獄だろうか?
海とか森とか山とか、普通の風景の部屋に混じってたまにこういう訳の分からん部屋が来るから飽きないのはありがたいが、以前こういう風景の時に壁に掛かっていた絵が【背中から鳥の生えた子供が空を飛び回る風景】で、余りのおぞましさにしばらく眠れなくなったのもいい思い出・・・まぁ、それはどうでもいい。
「精霊様、質問。」
私は少しだけ考える…質問できるのは3回だけ、慎重に内容を選ばないと。
「今回の事件、私が誰かに殺されるように仕組んだ人は居ますか?」
【ピンポーン】
ふむ…流石は正義の精霊様、今日も素晴らしく即答ですね。
今回の件はどうにも、妙にタイミングが良いと思ったら、やっぱり誰かが暗躍したらしい。
「仕組んだ人は、私の事を知っている人ですか?」
【ブブーッ】
私が殺されるように仕組んでるのに、私の事を知らない・・・つまり死ぬのは誰でも良かった?
この辺りはオスカーさんに情報入手の経緯を聞かないとダメだけど・・・。
普段からフェニックスさんの位置や行動を監視できる立場・・・身に覚えが有る狩人か人狩ギルドの幹部くらいしか思いつかないけど、さて・・・どっちかな。
「今回の事件、狩人ギルドが関わっていますか?」
【ピンポーン】
はぁ・・・目的は彼女が仲間を守れなかった事実を作る為の妨害工作って辺りかしら。
確かにあの人、狩人としては異端も異端の更に端っこだけど、無関係の冒険者を巻き込むなんて、随分と度の過ぎた嫌がらせをされる程とは思えないわ。
被害者2名を狩ったの私だけど(自爆含む)。
なるほど、これが正義の味方がやる事かしら?
・・・ムカついたわ、ぶっ壊してやる。
***
教会の祭壇の上で、柔らかな光に包まれながら私は復活する。
視線を巡らせると、教会の隅っこでこちらを伺う女の子が1人。
私がダンジョンに行く前にモーリー少年を釣ろうとしていた3人組のリーダーらしき子が、閑古鳥の鳴く教会で妙に浮いていた。
私の顔を見て、反吐の出るような内心を隠した少女が、カツカツと私の方に歩み寄って来る。
さて・・・今回の事件がフェニックスに悪評を付ける事に有ったとすると、この子…というか彼女達の立ち位置がイマイチ分かんないんだよね。
正直な所、初心者を適当に巻き込むならモーリー少年が入れば良いわけだし、別件にしては彼女も妙にタイミングがいいというか、監視員とかなのかな?それにしてはやたら格好が目立つというか…。
あ、なんかまた妙な事考えてたらもう目の前に居るじゃないか、ってかこの子もやたら怒ってるな、って何でこんなに怒ってるのかサッパリ分からん。
しかも、この子人獣だったようで、興奮したせいでカチューシャの合間から髪の毛と同じ薄金色の尖った耳がピョコンと飛び出し、スカートの合間から柔らかそうな尻尾が2本伸びる。
【ぱぁん】
何されるのかと思ったらいきなり平手打ちされたんですけど。
「あの子に近寄らないで、この女狐っ!」
「人狐なのは貴方ですよね?」
【ぱぁん】
思わずツッコミ入れたらもう一回平手打ちされたんですけど。
胸倉を掴まれて目で威嚇してくる、この子本当に顔は可愛いな・・・。
「あの子を・・・フェニックスを傷付けるなら、オマエもコロス。」
少女の強い意思を秘めた切れ長の青い目は淡い金色に染まっていく。
完全な金色に染まらないのは、この子が未だに人間を獲物として見切れていないから…ってこの子も人狩だったのね。
というか、何か重大な勘違いをされている予感がするのですが。
「目。」
「め?アンタも狩人なら金目くらい見た事あるでしょ、何が…あ。」
捕まれた胸倉をそのままに少女を抱きしめて顔を寄せ、目の前の少女を獲物として”見る”。
殺害人数こそ少ないとはいえ、私はこの子みたいに相手を獲物として見る事に一切躊躇いはない。
私の目は黒からオスカーさんと同じような完全な金色に染まる。
「金目…アナタ、インペリアルの兵隊じゃないの?」
「人違いです、久々にパーティーを組んだだけの可愛いヒーラーさんです。」
「ふぇ・・・。」
・・・勘違いだよ、超勘違いだよ。
そりゃフェニックスさんをハメようとしてる狩人だと思われたならあんなにドス黒い感情向けられるわけだよ。
というか、お前”も”殺すって・・・。
「ついでに言うと、一緒に組んでた剣士の子もバカなだけで狩人じゃないです。」
「・・・あ。」
人狼の情の深さを示す際に、人狐に次いで情が深く、仲間は裏切らないし、恩を受ければ必ず報いると書く事からも分かるように、人狐は人獣の中でも類を抜いて情が深く。
そして、その中でも愛情が一途な上に飛びぬけて深いので暴走しやすい。
性別の壁とか一瞬で乗り越えるくらい暴走する。
自分の毛皮を自分で剥いで、愛する相手の防具を作ったりするくらい暴走する。
そして、好きな人の敵を街中で暗殺しちゃうくらい暴走する。
自分の愛がどれだけ大きいかを示すために暴走するのは人狐のならわしなのです。
でも今は、色々ややこしいから私を巻き込まないで頂きたい。
10分後、近くの公園にて毒死したモーリー少年を発見した事と、この人狐の少女・・・シンデレラが、フェニックスさんに無茶苦茶説教された事をここに記しておく。




