表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
梟悪譚  作者: シープネス
10/41

10:勝者不明

コボルトは弱い魔物だと思われがちですが、人狼の召喚する使役コボルトは別物です。

あれはコボルトの形をしているだけで小型の人狼がその数だけ居ると考えるくらいの脅威度だと思いましょう。


参照:「敵意剥き出し!ダンジョンワンコ」より抜粋

人狩というのは書いて字の如く、人を狩るのが本業で、

狩人というのは人狩の反対の名を持つ事から分かるように人狩を狩るのが本業になる、

共通点はどっちも人間を狩るのに躊躇いが無くてイカレてるって事くらいかな。


彼らに勝つにはどうすればいいか?

簡単な話である。

彼らが予想できないくらいイカレた事をすればいい。


小さな空白の時間が過ぎて、全員が動き出す。

その直後、私は腰のベルトポーチを取り外しながら叫んだ。


「気をつけてっ、遠くにも敵が…キャッ。」


バンッと派手な爆発音を立てて私の足元で爆発が起きる、正確に言えば私がコッソリ地面に落とした爆弾入りのベルトポーチが爆発した訳だけど、こうやって自分の足元で爆発させればフェニックスやモーリーから見れば遠くの敵に攻撃されたようにしか見えない。


彼らは私よりずっと人狩や狩人として強い、だからこそ誰かが襲撃してくる可能性に対応出来てしまう。

咄嗟とはいえ状況に対応すれば、一瞬でも思考の一部分がそちらに逸れる、思考が逸れれば隙が出来る、

隙が出来れば、誰だって木偶と変わらない。


叫んだ直後、私はこの場で唯一状況に対応出来なかったモーリー少年の手を持って走り出していた。


「リンッ、君達だけでは危険が・・・クッ。」


フェニックスが私を静止しようとした隙を見てコボルトアサシンが飛び出す。

私より強いコボルトアサシンは、フェニックスの剣であっさり両断された。


走る、走る、モーリーの手を握ったまま走り続ける。


あら大変ねフェニックスさん、貴方が油断したら人狼は私を追ってくるかも知れないわ。

それに、どこに居るのか見えない襲撃者は爆発攻撃をしてくるかも知れないかも?

洞窟の天井を崩されたらどうしましょう、恐ろしい人狩はどこに潜んでいるかしら?


下級のヒーラーくらいの身体能力を維持したままダンジョン内を駆け抜ける。


ダンジョンのずっと遠くで小さな吼え声がいくつも聞こえた。

そういえばオスカーさんって指揮官型の人狼だったのね、動揺していたせいか用兵があまり積極的じゃなくて助かったわ。


考えながらも足は止めない、モーリーに疑われないように少しずつ速度を落としながらも走り続けた。


背後で一際大きな爆発音、フェニックスは業を煮やして魔法を使ったみたいね。

そして、目的地に着いた所で限界を迎えたように座り込んで、荒く息をする。

出し抜いた・・・かな、でも絶対に油断してはいけない。

あ、ここで手を離さずに座り込む事で夢中で走りましたした感を演出しておくと、偽装がバレ難くなるからオススメね。


「リンさん。」


声を掛けられて振り返ると、モーリーは立ったまま荒く息をついていた。

おぉ、ギリギリまで追い込むつもりで調整したのに割と余裕あるじゃないか少年、鍛えてるね。


「逃げ切れたかな・・・ここ、どこだろうね。」


モーリーが予定より消耗していないので余計なことを考えさせないために、少し気丈に振舞いつつ、少し不安げに上目遣いで相手の顔を見つめる、援軍とか退路とか考えられてここから離れられると作戦が台無しを通り越して犬死するので要注意。


「大丈夫、俺が守ります。」


わぁ、カッコイイ~。

でもゴメン、君は私を守るんじゃなくて私から自分の身を守らないといけないというか、でも本当に自衛されると困るというか、簡潔に言えばここで私に狩られて死んでくれ。


「ありがとう、悪いんだけどちょっと水を汲んできてくれないかな。」


「あ、分かりました。」


私の演技にコロっと騙されて近くの小川に水を汲みに行くモーリー。

彼の居る小川の畔は、光苔が多いので少しだけ明るい、つまり目が光に慣れて私の居る暗がりが良く見えなくなる。

私は慎重に彼の死角になるようにカバンに手を突っ込み、小さな爆弾を取り出した。


先ほども爆発させたコレは【指時計】と呼ばれる品で、名前のとおり親指の爪ほどの大きさで、指を吹き飛ばす程度の威力、つまり半径10cm程度の爆発を起こせる爆弾です。


本来ならば金庫やドアの鍵を吹き飛ばしたり、宝箱の罠を吹き飛ばす為に使われるので、隠密製を重視して匂いでも魔力でも一切感知出来ない特殊な製法で作られています。

ちなみにお値段お高め、1個で金貨1枚もするんだけど、3個だけでも用意しておいて良かったわ。


指時計を取り出した腕を伝って、シャドウサーペントが私の手の平まで泳ぎ着き、爆弾にしがみつく。

シャドウサーペントは私の魔力が無ければ直ぐに消えてしまうのだけど、今回の使い方では私の体から離れた後の一瞬だけ本来の防御力があれば事足りる。


指時計は武器として使うには大した威力の無い爆弾だけど、狭い鍵穴に突っ込まれたコレは金属製のドアノブや強固な宝箱の鍵を簡単に破壊する威力を持っている。

つまり、何も無い場所では爆発の威力が広がり過ぎて大した威力が出ないこの爆弾も、シャドウサーペントで爆発の威力を収束して、相手の防具が薄い部分に貼り付ければ・・・。


残り僅かな魔力で感覚と腕の力を強化してシャドウサーペントのくっついた指爆弾に魔力を通してロックを外し、1秒後に爆発を設定、すかさずモーリーの首筋を狙って投げつけた。

首筋に爆弾を付けられた瞬間、モーリーが叫ぶ。


「リンさん、にゲッ【バスンッ】」


どこか抜けた音と共に立ち上がろうとしたモーリーがぐらりと揺らいで、崩れ落ちる。

即死、少なくとも痛みを感じる間もなく死んだのは、この技を思いついてから自分の体で致命傷になる位置を確認している私が保証する。


それにしても、金貨1枚の爆弾を3個とも消費することになるなんて、大損だわ。

隙を作るために1個、モーリーに1個、そして・・・自分に1個。


自分の首に指時計を押し付けてシャドウサーペントで強めに押さえる。

魔力で爆弾のロックを外し、5秒後に爆発を設定。


5・・・


フェニックスとオスカーさん、どっちが生き残るかは分からないけど、

少なくともどちらかは、私とモーリーの死体を発見するはず。


4・・・


フェニックスは私からの証言で、オスカーに爆弾を使う仲間が居ない事を知っているし、

モーリー君からフェニックスさんに死因とかそういう話は行くでしょう。

オスカーには、私が復活してからフェニックスさんとの誤解を説明すればいいや。


3・・・


この爆弾の件は出来る限り他の人…仲間にもできるだけ伏せたいので、

今回の勝者は、私とモーリーを狩った事にされる”正体不明の誰か”に譲る事にしましょう。

遠隔攻撃で爆発を引き起こすとなると、狙撃型のニンジャかアローメイジ辺りが疑われるかな?


2・・・


それにしても5秒ってかなり長いわね、次に自分へ使う時は3秒くらいが適切かもしれない。


1・・・


あ、そろそろ来【バスンッ】



「リン」は死亡しました、6時間後に所定の祭壇から復活します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ