手記・5
■手記は幅約10cm・長さ約20cm・厚さ1mmほどの木の板に、インクで書かれている。板は左上に穴があき、ひもでまとめられている。
■手記の原本は、劣化を防ぐため保存処置後に保管庫へ格納。手記者の家族には複写が渡された。
(12枚目)
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明日は帰る日だ。風呂に入ってきれいにして
いろいろと準備も終わっている。明日着る服だ
とか。制服が入らなかったのがショックだ。
太ったのではなく背が伸びたことにする。しかし
もうすぐ20で高校の制服はつらい。着られ
なくて良かったことにする。荷物に入れた。
明日は帰る日なので、板をもらった。習慣だ
そうだ。いくら食べても、一度変わってしまえば100%
ではない。どこか、体の内側の重要な部分が
力であれば、結果として死ぬ。何十人か何百人か
に1人は出るそうだ。
日本への道は無事に見つかった。連絡用の
板も日本へ渡され、私の代金も支払われるこ
とになり、首都に来た。代金は私を確認
したら払われる。生死に関わらず。
日本に帰ることにした。残っても良かった。職
も紹介された。残りたいなら残って良いと言われた。
こちらで死んだことにして、こちらで生きていく。ここ
では役に立つから。死ぬのはこわい。今もこわい。
帰らなくても十分にやっていける。
(13枚目)
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帰ることにした。明日、私は日本に帰る。
ここは日本ではない。きっと記憶があるからだろう。
嫌なこともあったはずだが、今となっては楽しい思い出
ばかり浮かぶ。会いたい人は日本にいる。親もみん
なも。良くしてもらったけれど、ここは来たくて来た場所
ではない。それに、こうと決めたらやりとげるタイプで
ありたい。まだしていないことがある。正直、忘れ
られているような気がする。覚えられていても、迷惑
がられるような可能性もある。というか高い。2年も
たっている。だが言う。私は言いたい。生きていく
なら言いたい。言えないまま生きていくのは嫌だ。
だから帰る。帰って言う。生きて私は言う。フラれ
たって知るものか。
落ち着くこと。悲観的にならないこと。自分の
望むゴールをイメージすること。力はイメージだ。
守られていた毎日はとっくに終わっているけれど、
教えてもらったことが私を守ってくれている。あとは
私が決めること。
教官はいらっしゃるだろうか。できたら一目お会いしたい。
引渡しは異形戦の後とのこと。私の確認も含めて、フィール
ドに入られることはありうる。大丈夫だと信じているが、
もし、という時でも、教官からみんなに伝えてくれるだろう。
(14枚目)
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最後の板だ。今までのものはすべて荷物に
入れて持ち帰る。いずれ、親の手元にいく
と思うので(お願いします)、万が一だ
めでも、これが形見ということで。いろいろ書いた
が、笑って読み返せると想像する。
できることは全部した。人事は尽くした。尽く
しに尽くした。料理は今でも口にあわないが、
ガマンして食べた。
生きて帰る。絶対に生きて、絶対に
言いに行く。
瀬里澤 仙子
■次回更新日:3月20日 22時




