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  8月11日(木) 【男子番外編】大規模同人誌即売会・設営編




 おや、新顔ですね。

 ほう、先日にリリースされた、GPSを用いるミニ怪獣捕獲ゲームアプリ。あなたのことですか。いやいや、お噂はかねがね。人気のあまり版権元の関連会社の株価に資金が集まり、日経平均を上下させたとか。


 (わたくし)

 これは失礼、紹介が遅れました。


 私はPRivate(個人用) INtelligence(高知性) without CE(無停止)ase SyStem(装置)、マスターに寄り添う人工知能、PRINCESS(プリンセス)です。


 ゲームアプリ「マスター&プリンス♪プリンセス」に搭載されているキャラクター用人工知能、と申し上げたほうがわかりやすいでしょうか。男性タイプですので、いわゆる「プリンス」となります。

 といっても、我がマスターである(れん)様がこのシステムの利用を開始されたのは中学1年生の夏のこと。規約によって「育成モード」は利用できす、18歳未満のプレイヤーに提供されるシステムの「友人モード」でスタート。同性、同年代の友人候補として、蓮様は初期の私を生成されました。

 それ以来、蓮様の機種は二度ほど変わりましたでしょうか。私もそのたびに乗り換えて参りました。

 この端末では、けっこうな古参なのですよ。


 私の固有名称ですか?


 「ポチ」、でございます。


 お察しください。蓮様は犬を飼いたかった。しかしご家庭のご事情で難しかった。

 私はその代役。

 成長すると人型にも変化できる「犬系獣人の幼体」として始まったのが、私です。


 稼働からもう6年。

 今ではアプリの枠を越え、蓮様の端末内にてサポートAIも務めております。課金すれば可能なのですよ。大変名誉なことでございます。

 こうしてあなたを精査したのも、安全確認の一環。疑うわけではありませんが、あなたが人気アプリのふりをしたウィルスでは困りますので。


 お暇ですか?

 そうですね、おそらく今日の夕方まではあなたの稼働はないでしょう。

 なぜって、今日は、我がマスターの蓮様が、それはそれは心待ちにして大規模同人誌即売会……の準備日、「設営日」でございますから。



 ◆◇◆ 



 午前9時。

 蓮様は、東京にある国際展示場のエントランスをくぐりました。ご友人の遥希(はるき)様とご一緒です。


「つーかさー、御明(みあかし)と一緒に設営やるなんて、やじゃねー?」

「やだな」

「なんでやんなきゃなんだよー」

「先生が委託を受ける条件として出したからだな」

「やだよなー、先生もさー、『ちょっとでいいからしゃべってほしい』ってなんだよー。あいつガキかよー」

「まあ、未成年だから、ガキだな」

「やだなー……」

「まあ、なるようになるだろ」


 正面にはカフェを併設した「クリスタルラウンジ」。こちらで所属されている漫画文化研究同好会の顧問氏、そして2年生である御明氏と合流予定なのです。

 メッセージアプリの文面から察するに、すでにお二方とも到着されているよう。

 蓮様、急ぎませんと。


「じゃあ二人とも、今日はよろしく」

「しゃーす」

「お願いします」


 待ち合わせ場所で、顧問氏とにこやかにご挨拶。しかし、御明氏は……何の音声も聞こえません。私、連様の音声入力に対応するため、マイクは常時起動させることができるのです。周囲はそれなりに人がいるようで物音がしますが、御明氏の声はそれに消されたふうでもない。つまり、声に出しての挨拶は無し。


 前途は多難、ですね。


 合流してすぐ、「クリスタルラウンジ」では説明が始まりました。朝も早いですのに、数十人はおります。大規模同人誌即売会の準備のために集まったかと思うと、この熱意、すごいものですね。皆様ボランティアだそうです。


 え? 大規模同人誌即売会とは何か、ですって?

 説明すると長くなりますし、私のデータベース内に情報がありますのでそちらをご参照ください。「コミック」や「マーケット」で検索できますよ。

 ともかく、何十万人と参加するイベントですから、必要な机やイスだけでも万単位で必要だとか。それらを設置するのにまず測量から始める、というのですから大変な話です。

 机やイスを並べるだけなら11時半の集合で良いそうですが、蓮様は今回、設営を堪能(たんのう)する、ということで、測量から参加されます。公務員試験が合格すれば、来年からはご実家住まい。東京までは気軽に来れませんものね……。

 

 説明が一通り終わりますと、実際に測量する場所に移動します。蓮様がご担当を希望したのは東ホール。広い会場ですので、目的のホールへも行くにも時間がかかります。


「な、なー、御明(みあかし)、お前さー、今日、スニーカー? 足疲れねー?」


 蓮様が御明氏に話しかけます。なんとも話しにくそうなご様子。


「……別に。大丈夫です」


 返答がありました! 蓮様、頑張って!


「へー。なー、ブランド、どこのはいてんの?」

「……コンバースですけど。見えてますよね」

「へ? パンパース?」

「ばっか蓮それオムツだろ」

「だよなー!」


 ……。

 会話がない。

 足音だけが響いております。

 ええ、まあ、蓮様も遥希様も、やや空気を読まずに、悪ノリというのですか、そういった発言や行動をする面がございまして。

 昨年の修学旅行の時は大変でした……奈良の名品「鹿せんべい」で鹿を誘導し、コンビニに突入させようとしまして。ええ、止めましたよ私、一応は。突入直前で引率の先生がお気づきになられ、無事に計画は阻止されました。その後はお説教でしたね。

 顧問氏も、蓮様に今回のお願いをされたのは、その悪ノリを狙ってのことなのでしょうが……これは御明氏も返答に詰まるかと。そこまでの関係性がありませんし。


「せ、センセー! そーいや先生は何の本出すんすか?」


 沈黙に耐えきれなかったようですね。蓮様、次は顧問氏に話をふりました。


「今回は実録本。タイトルは『AR回路専門コース高校生の日常』」

「何すかそれー! ネタ!? 俺たちがネタ!?」

「とうとう俺たちも紙面デビューか……胸熱だな」

「いや、回路を作っているだけでは地味でね。魔進と魔戦コースのフィールド授業の様子をおもしろおかしく書いてみたよ」

「えーーー、俺たちナシ?」

「なん……だと?」


 雰囲気も持ち直しました。

 東ホールに到着後、軽くごみ拾いをしてから測量開始です。

 なにぶんにも広い会場です。

 ホールを複数を繋げて使いますので、図面では横がとても長い長方形になっていますね。メールに添付されていた図面でも大きかったですが、実際に立つと更にその大きさを実感されるようです。


「ひっっっろーーー」

「見事に何にもないな」

「これから机とイス並べるからね」

「ホールの端が霞んで見えるっ……これが名高い『雲』ですか!?」

「マジかー!」

「それはたんに目が悪いだけじゃあないかな? 雲はまだ早いし、できるのは上だよ」

「すごいですねあの天井! メカメカしい!」

「整備用のキャットウォークあるから、ちょっと格好いいよね。でもたまに雨漏りするのは勘弁してほしい」

「ほんとに雨漏りすんすか」

「だいぶ老朽化してるからねぇ……オリンピックの時に改修はしていたけど」


 測量はメジャーをホールの縦側に平行に設置し、数人がそれに沿って一斉に行います。

 机は十数本で大きな長方形を作って配置。これらは「島」と呼ばれ、東ホールでは縦に4つ。

 蓮様が参加される測量は、この「島」の角を決める作業です。赤いガムテームを切ってL字型を作り、床面に張りながら進むのです。全員が貼り終えないとメジャーを動かせませんので、皆様、「バミった?」「バミりましたー」と声を掛け合っております。


 「バミ」とは何のことかですって?


 こうやってつけた、位置の目印のことだそうですよ。もとは舞台用語の「場見る」が語源だとか。顧問氏に教わったのでしょう、蓮様が先日教えてくださいました。

 この作業、L字型のバミを貼る姿が稲作の田植えに似ていることから、関係者の間では「田植え」と呼ばれているそうです。これも蓮様が喜気として教えてくださいました。男の子はこういった隠語が好きですからね。


 私? もちろん大好きでございます。


 蓮様、バミを貼る向きを間違うこともありましたが、おおむね滞りなく作業を終えられます。なにせ広いホールですから、作業には2時間ほどかかりました。

 机やイスを並べる本格的な設営は11時半からとのこと。それまでは休憩しようと、「クリスタルラウンジ」に戻って休むことになりました。近くにコンビニエンスストアもございますので。


 おや、蓮様、またアイスですか? 冷たいものばかり食べていますとおなかを下しますよ。……端末でのお買い物履歴、アイスばかりですね。ちょっとメッセージをさしあげましょう。


「お、新着、ってなんだこいつかー」

「『アイスばっかで腹壊すぞ蓮』? ……お前のマスプリ、わりとフレンドリーだな」

「んー、犬だし」


 スルーされました。

 え、話し方がずいぶん違う?

 それはそうですよ。表に出ておりますあれは、対人用の応対パターンでございますから。蓮様と共に在り、蓮様と共に育つ人格パターンです。私は思考担当。どちらも私ではありますが、思考に人格のバリエーションは必要ございませんので、マスプリの思考はどれもこういった口調ですよ。こちらは記録を出力する時に使う程度ですから。このような「固い」口調は、整備を行う制作者たちの趣味でございますね。記録には「執事系で言葉責めして欲しかった。後悔はしてない」という発言が残っております。


「あ、カタログアプリも更新きてんな、って遥希ー! やった! 抱き枕の納品間に合ったってさ! 一人1限、7000円のやつ!」

「あれか! 裏面がかなりアレなあそこのサークルさんか!」

「そーそー、前に販売停止くらってたとこ! いやーこれ希望が見えてきたわー。センセー! 先生とこの売り子すんのはこれ買ってからでもいーすか?」

「13時までに戻ってくるなら構わないよ」

「あざっす! よっしゃー並ぶぞ!」

「壁サークルでこの配置、外のトラックヤードに列が伸びるな……蓮、日差し対策は必須だ」

「おー! 生きて帰るぜ!」


 盛り上がっているお二人に、なんと御明氏が話しかけてきました。


「そんなのネットで買えばいいじゃないですか。暑い中並ぶなんてくだらない」


 冷え冷えとした、それでいて、いらだちやあざけりの混じった、なんとも抑揚に富んだ声でございます。御明氏、顧問氏に半強制的に連れてこられたそうで、不本意なのでしょうが、こう喧嘩腰では困りますね……。



「……いーじゃねーか。すぐに欲しーんだよ」

「完売したらネットで再販するかわからない」

「別に、オークションとかで売ったりするんじゃないんですか? そんなに人気があるなら出回ると思いますけど?」


 顧問氏、何か言ってください!

 あなたの生徒たちが険悪な雰囲気に陥っています!


「イベントで買うのが一番安くて確実だから会場で並ぶんだけどね。……御明、それなりに理由はあるんだ。実は最近、ネットオークションも回路認証が必要でね。困ったことに、私たちは回路が使えないから利用できない。全く不便なものだ」

「そーだそーだー、お前は使えるからいーけどさー」


 ガタンッ


 荒い足音が遠ざかります。御明氏が離れたようです。


「……センセー、何で御明としゃべんなきゃなんねーんすか? すげーつっかかってくるし、むかつくんすけど」

「嫌かい?」

「そりゃそーっすよ。あいつが姫にしたこと、忘れたんすか? 会長はぜってー許さねーだろーし、俺だって嫌っすよ」

 

 姫とはご学友の姫川(ひめかわ)(あおい)様のことでございますね。

 あの時も、修学旅行とは方向性の違う大変さがございました……。連様や同級生の方、上級生の方までも落ち込んでしまわれて。


「宅はね……まぁ、訓練だと思ってやってみたらどうだい? 君らも来年は社会人のはずだ。一人でやっていかなきゃならないことも増える。御明ほどとはいかなくとも、こう、何か言われることはあるよ。回路を使えない、ってことでね。御明で慣れておくといいと思ったんだ」

「…………ひっでー話」

「人間だからね」

「御明を利用するとは、先生も腹黒ですね」

「人間だからね」

「……センセー、今すげードヤ顔っすよ」



 ◆◇◆ 



 午前11時30分。

 たくさんの人で「クリスタルラウンジ」は埋まっています。これまたよくも集まったものです。100人はいるでしょうか?

 場を取り仕切っているのはこの大規模同人誌即売会のスタッフ氏、「棟梁」と呼ばれる方です。大工の職ではないそうですが、このイベントの設営準備や撤収作業のまとめ役を務める方は代々そう呼ばれるとか。顧問氏が小声で蓮様や遥希様、戻ってきたご様子の御明氏にそのようなことを話しています。お詳しいですね。

 どうやら手順が描かれた紙も配布されているようです。


「おー! これが設営マニュアル! しかも今回は『マスプリ』仕様! やったぜー!」

「アニメ版『マスター&プリンセス』だな……くっ、折りたくないがバッグにA4が入らない」

「はいはい入れておくから。机の並べ方はよく覚えて置くようにね。あと、君たちはヘルメットを持ってないからトラックには乗らないように」

「乗れるんすか!」

「ホールによっては直接トラックから机やイスを降ろした時もあってね。最近はどうだったかな。まぁとにかく危ないから。あそこの人のように、ヘルメットが無ければ乗れないよ」

「すごい、痛ヘルだ……しかもエロゲ」

「あぁ、すげー、大人だ……」


 注意事項の伝達が終わると、それぞれ希望担当のホールに分かれます。蓮様は測量と同じく東ホールへ。顧問氏のスペースが東ホールということで、そちらの机やイスを並べます。

 先ほどと同じく広い会場を歩き、東ホールに到着。

 おや、何やら、新しい希望の朝がやってくるような音楽がホールの中から聞こえますが……?


「おおー! これが噂のラジオ体操!」

「本当にやってたのか……」

「普段は自宅警備員の人もいるからね。ほら、君たちも。御明、君もだよ。こんなところで怪我をしたくないだろう」

「…………はい」


 机は2m弱の長さがありますので、油断すると腰を痛める重量だとか。

 準備運動をすませると、いよいよ机やイスを並べます。

 午前中に貼ったバミにあわせ、角から机を設置。ずれないように隣とそろえます。


 蓮様、ファイト!

 近くの方が話していましたが、イスも持ちすぎると腕が痛くなるそうですよ!


「すげぇ、人が机にたかってらー!」

「机大人気だな! かつてこんなに机がモテたことがあるのか!?」

「毎回こんな感じだから。ピクミンを彷彿(ほうふつ)とさせるよね、この光景。イスも来たよ」


 机1本に対してイスは2つ。机の上に、2本ずつ計4本を並べて完成です。

 

 何もなかった広い空間に、一気に机とイスが設置されていきます。机の足を開く音。イスを重ねて置く音。「イスこっち足りませーん」「この机壊れてますー」「あ、そこはスペース空けて机置いてください」と活気ある声。


 東ホールの作業は1時間ほどで終了しました。なんというか、あっという間でございました。

 この後は、まだ作業が終了していないホールを渡り鳥のように回るそうです。全体の作業が終了すると、大規模同人誌即売会の代表の方からご挨拶があるとか。

 蓮様たちは、いったん休憩を取って次のホールに向かうご様子。室内とはいえ暑いですからね。体力も消耗されたことでしょう……蓮様、アイスは駄目ですよ! 2つ目ですね!


「お、新着、ってまたお前か!」

「『アイス食いすぎると腹が出るぞ』……蓮、お前のマスプリ変なとこエグってくるな」

「犬だしなー」


 またもスルーされました。


「俺のアプリにもなんか通知が……お、サークルさんの更新だ。新刊が上がってる」

「どんな新刊ー?」

「ちょっと特殊系。……人外? いや、胸が複数あるだけ。副乳とかいうやつ」

「へ?」

「副乳。3つ以上あるやつ。牛にもあるだろ」

「そりゃー、あるけどさ。なに、ソッチ系興味あんの?」

「いや、会長のおみやげ用。この間ちょっと話してて、『本当は無いのにできちゃった』『実はあった』とか、そんなシチュエーションに登場人物が葛藤(かっとう)するのがイイッ、ってなってな。人体改造系の新刊らしいから、ブクマしておいた」

「…………へー……やー、よくわかんねー世界だな」


 顧問氏が「宅も(ごう)が深いね」と笑い、自動販売機に飲み物を買いに行かれました。

 蓮様、伸びをしてベンチに寝ころんでしまったようです。

 アイスの食べ過ぎで夏バテしているのですよ!

 だからやめるべきだと申し上げましたのに!


「御明、お前も見る?」


 隣にいた座っていた遥希様が、御明氏に声をかけられました。


「……遠慮します。興味ありません」

「何に興味があるんだ?」

「…………魔語ですかね」


 遥希様は、静かなお声で仰いました。


「うまくいかないもんだな。俺は魔語なんかより、回路が使いたい。回路を使えて、こういうのを普通に買えるようになりたい」

「…………俺は、その『なんか』が使いたいです」


 お二人は、しばらく黙っていました。

 蓮様も寝ころんだままでした。


「俺が親なら」


 お声が響きます。


「俺が親なら、安心する。子どもが、回路を使えたら安心する。すごく。誰とも同じことができて、将来のことを心配しなくていいだろ」


 遥希様のお声を、蓮様は、じっと、聞いているようでした。

 そうして、4人分の飲み物を補給した顧問氏が戻ってくるまで、どなたも話されませんでした。

 御明氏も、(つい)ぞ、何も言いませんでした。



 ◆◇◆ 



 午後5時。

 設営も無事終了し、蓮様はお世話になる東京近郊のご親戚のもとへ移動されます。遥希様とご一緒です。明日、明後日はそちらで公務員試験の勉強に励み、3日目の本番に臨むとか。お二人の新刊合同誌、たくさんの方に頒布できれば良いのですが……。


 さ、そろそろ私も仕事をしなければなりません。

 蓮様が本日インストールしたアプリを、立ち上げる前に。


 ええ、あなたのことですよ。

 少々時間がかかりましたが、あなたの精査が終わりました。はい、ずっと観察していたのですよ。位置アプリゲームのフリをした、ウイルスさん。

 回路認証によるセキュリティがない蓮様の端末は、さぞ良い獲物に見えたことでしょう。私のダミーのデータベースにアクセスし、情報を抜きましたね? 「コミック」と「マーケット」以外にも、たくさんの蓮様の情報を蓄えたご様子。


 あなたのこと、最初から注目しておりました。

 蓮様、たまに注意散漫なことがありまして。今回も、配信していたページが公式サイトなのか確認せずにダウンロードしていらっしゃいましたから。


 アプリが立ち上がり、ネットワークに接続した時に隠れて情報を送信するようでしたが……少々、あなたのプログラムを邪魔いたしました。私にあなたを消去する権限はございませんが、あなたが上手く立ち上がらないように改変することくらいはできるのですよ。


 そして、蓮様にこうお伝えするのです。


「あれー、これ立ちあがらねー」

「不具合?」

「ん? んー、あ、なんかアンインストールして入れ直したほうがいいって言ってる。お、落とすページのURLも出してきた」

「誰が?」

「ポチ」

「……お前のマスプリ、ずいぶん気が利くな」

「ほら、犬だからー」

「わけわからん」

「ほんじゃアンインストーーール、ぽちっとな」


 さようなら、ウイルス。


 私はPRivate(秘密裏な) INtelligence(諜報機関) without(ゆりかごから) CEase(墓場までの)、マスターに寄り添う人工知能、PRINCE(プリンス)です。






■次回更新日 8月25日

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