手記2
■手記は幅約10cm・長さ約20cm・厚さ1mmほどの木の板に、インクで書かれている。板は左上に穴があき、ひもでまとめられている。
■この手記では文字の大きさもそろい、書き損じも減少。※書き間違いは●で表記。読みとばし推奨。
■6枚目の上部には手記作成者(以下、手記者)の氏名・出生国・連絡先などが日本語と英語で併記されている。Mareを用いなかったのは、これを渡した現地で意味が通じないこと(日本ではないこと)を見分けるためか。ここにあるものはその控えと思われる。
■6枚目の下部には家族や知人に宛てたメッセージが記載。最後には右手五指の指紋。インクのつけ過ぎで数回失敗している。これらの指紋が特定技能者データベースで照合され、手記者本人であることが確定された。
(3枚目)
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日々の生活や仕事にも慣れた。今日は
手紙、というか私を証明する、伝えるための
板を与えられた。余分にもらったので記録をつけ
ようと思う。
この世界にも暦はあって、季節もわかりづら
いがある。1ヶ月はどうも30日ほど。季節は暖か
い時、寒い時といった感じだ。地球とよく似て
いる。こちらに落ちて6ヶ月はたっている。思えば長く
過ごしている。仕事は魔語(こちらではMareか)
を書くこと。全ての神殿がそうかは知らないが、
この神殿では商売の契約書に魔語を書くこ
とで料金を取っているようだ。神殿の受付には
いろいろな種族(本当にいっぱいいて驚く。中に
はスライムのようなものに石がついている生き物も)
が来る。すべてが声を出せるわけではないから
意味を全員に通じさせることができる魔語は
役に立つ。ここの人たちは契約書を重視する
から、魔語はなくてはならないのだろう。
こちらはどこでも力の濃度が高い。私も、
何の制限もなく魔語を書ける。いろいろできる。
ここでは生活の役に立つ技能だ。しかも全員
が書けるものではないようだ。魔語が書ける
奴隷は高価だそうで、扱いも悪くない。この間、
神殿の書記官(この人も奴隷)の助手となった。
嬉しいのは大部屋から4人ほどの部屋に移れたこと。
(4枚目)
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役に立つ。評価される。しかも一般に、ごく
知られる職業として。同室の同じ仕事をしている
人たちに聞くと、生きている間に自分を買い戻して
奴隷の身分から解放するくらい稼げるという。
呪い(妊娠や安産祈願。浮気相手へ不幸を願うことも)
もするが、こうして神殿に回してもらって、代
●筆屋として暮らしていけるのだそうだ。意外と
地位もある職らしい。これらのことは魔語
で書くことで確認できた。
魔語で話すこともできる。日本ではそんなこと
したことがなかったので最初は慣れなかったが、
文字を書く時のようにコツをつかめばできた。
おかげてこちらの言葉は、聞きとることはできるが、
話すことはできない。普段の会話でも力
を使ってしまう。自力ではとてもしゃべれない。
あいかわらず、料理は口に合わない。電●気製
品などは一切見ない。冷蔵庫のようなものも見た
ことがない。食べ物の保存がきかないからだろう
から、とにかく●●●スパイスが強い。こしょうの
ようなものものある。口がヒリヒリするくらいかかっている。
あまり食べられない。食は細くなったと思う。だが
油を多く使うせいか、やせない。本当にやせない。
大浴場に行った時に売り子から干したフルーツを
買うのが楽しみだ。この世界の人はけっこうきれい
好きで、風呂の設備がすごい。スーパー銭湯
よりも大きい。まだおなかはこわしていない。
(5枚目)
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前の2枚を見返すと、ずいぶんと取りとめなく
書いている。しかも細かい字で。これが最後の板だ。
書くことはたくさんあって、書ききれない。
ネット小説で、異世界に来ると、日本の知識を使って
いろいろ取引する話を読んだけれど、私が提供で
きるもので魔語以外に価値のあるものはなかった。
ここは地球以外の多くの世界とつながっているそうで、
そこから様々な技術や思想をすでに得ているようだ。
回路の技術もこの世界のものではなく、他の世界
から教わったものだそうだ。こちらでは回路は使われていない。
ここはターミナル駅のような世界なのかもしれない。
この世界は私のような姿が多いけれど異界の者(こち
らではそう呼ぶ)は珍しくない。
私と似た種族の者がやってくる通路がいくつかあるから、
そこに私の個人情報やメッセージを書いた板を、
それぞれの通路からつながる世界に渡すのだという。
その通路をこことつなげるのは数ヶ月に1回。そこで確認を
とってから、そして当たりが出たら、次につなげた
時に私を買い取れる金か銀(ここでも金は価値
があった。銀も良いそうだ)と引き換えに帰
してもらえる。私のような身の上は多いそうで、
このように制度化されている。額は、きっと、払って
もらえるけれど、でも、ただでさえ迷惑も心配も
かけている。幸い自分の魔語には価値があるから
ガンガン稼いで負担を減らしたい。お金を貯
めるためにもなかなか板は買えない。当たりの
通路がわかればこの国の首都まで呼ばれるそうだ。
早くその日が来れば良い。
(6枚目)
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※手記者の個人情報が記入されているため省略。
下部には右手の指紋。
■次回更新日 7月27日 22時




