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  7月 5日(火) ニキビ





「ニキビが治らないんだ」

「アレ(※1)だからじゃなくて?」

「……それは関係ないと思う。いつもあって、なかなか小さくならない」

「じゃあチョコの食べ過ぎとか。あんた最近いつも食べてない?」

「……やはりそれが原因だろうか。これを見てほしい」

「部室の菓子箱? 持ってきたの? ずいぶんあるわねー」

「今日は涼しいけれど、週末から暑くなってきただろう? 夏休みも近いし、部室に置いたままでは悪くなる。いったん寮の冷蔵庫に保管して、来週にでも皆で食べきろうと考えているんだが……近頃、この漫研のお菓子在庫がやたらと充実していてね」

「……え、なんでゴディバ(※2)? うっそリンツ(※3)もあるじゃない、開けちゃおう」

「私にも一つ」

「ニキビ」

「くっ……それらは特に残していたんだ! テストが終わったら食べようと思って!」

「ニキビ」

「くっ」

「もうすぐお昼だってのにこれからテストよ? しかも選択授業のやつだからあたしらだけ。食べなきゃやってらんないし」

「それは……それはそうだね。そういうことならやっぱり私にも一つ!」

「ニキビ」

「構うものか!」

「ほい。なんかお煎餅のバリエーションも増えてない? しかもちょっと高めのいいやつ。『海老マヨせん』(※4)なんかこのあたり売ってた?」

「私も見たことがない。寮生の持ち込みではないと思っていたが……凜、このチョイス、君でもなかったか」

「このレベル買ったら自分で食べるし。あーリンツおいしいわー何これちょっと何これほんとおいしい!」

「本当だ、おいしいな! なんだこのチョコは? 口の中でとろける! ……2年生にも聞いたのだが、彼でもなかったんだ」

「へー、そー。あーゴディバもおいしいー。チョコの味が板チョコとは……んーー? 2年でもないってことは?」

「……………ちょっと、慶司郎に確認しておく。無理のない範囲で構わないと」

「んーーーーー、本人、無理じゃないんじゃない?」

「?」

「ほら、あたしも同じ電車に乗るけど、けっこういい小物とかスポーツバッグとか持ってんのよ。あいつ。質がいい感じの」

「あぁ、確かに。似合っているとは思ったが良いものだったのか。よくわかったね」

「妹がうっさくてさー、かっこつけてて頭にくるとか言って。ほら、春に対人で負けたからムキになってるっぽいの」

(あん)ちゃんだったか? なかなか気が強そうな妹さんだ」

「まーね。毎朝ケンカよー? ドライヤーどっちが先に使うかで。そーいえばなんかリベンジ考えてるらしーわ、琴留に」

「へえ! ということは対人戦で?」

「そうそう。あ、仙子、これ言っちゃだめよ、あいつに。不意打ちでやりたいらしいから、ギリまで秘密って話。あんたあいつとよくしゃべってるし、チョロっと言っちゃいそうなとこあるから気をつけてね」

「凛っ、君まで私をみくびらないでくれたまえ! この瀬里澤仙子、そこまでチョロ子ではない!」

「……」

「……たぶん」

「……まあ、そーいう話だから、琴留もけっこう余裕あるっぽいし、そんなに負担じゃないんじゃないの? 菓子箱に入れたら食べられちゃうの、あいつも知ってるんでしょ? 本人がわかって入れてんなら好きにさせたら?」

「うーん……そうだね。念のため慶司郎に確認して、問題がないのなら好きに入れてもうらうよ」

「気の回しすぎよー、あの琴留が『ぼく1年生だから良いもの持ってかなきゃ先輩ににらまれる』とか思うと思う?」

「ない。ないね。断言できる。それはない。それはないんだが……」

「?」

「このままお菓子が充実すると、私のニキビが治らない」

「……仙子、あんたってわりとクズね。1年の菓子にたかるんだー」

「冗談だよ冗談! ……凜! 本当だ! そんな目で見ないでくれ、凜!」






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※1 アレ。

※2 海外チョコレートメーカー(ベルギー創業)。

※3 海外チョコレートメーカー(スイス創業)。

※4 平たい煎餅。海老とマヨネーズの組み合わせが一部で「やみつき!」と評判。

■次回更新日:7月13日 22時

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